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» 2020年02月20日 05時00分 公開

頭脳放談:第237回 新型コロナが半導体産業を直撃! Qualcommの5G+AI戦略にも影響?

新型コロナウイルスが半導体産業に影響を与えている。サプライチェーンが寸断され、モバイル関連の一大イベント「MWC Barcelona 2020」などが開催中止となってしまった。はてさて、どこまで影響が広がるのか……。

[Massa POP Izumida,著]

 今回は、5Gのキーデバイスサプライヤーである「Qualcomm(クアルコム)」について取り上げようと思う。が、「サプライ」という一言を書いた瞬間に、「ちょっと脱線を許してもらわないといけないなぁ」という気がしてしまった。ご存じの通り、新型コロナウイルス改め「COVID-19」だ。

新型コロナが半導体産業のサプライチェーンを直撃する?

 サプライチェーンへの影響から感染拡大とともに、自動車産業に大きな打撃がありそうなどと報道されている。だが、半導体業界にも影響があるはずだ。半導体業界など自動車産業の裾野の一部だ、という意見もあるかもしれないが……。

 かさ張らないのに単価が高いという点で、昔から航空機輸送に頼ってきた業界である。マスクのようなかさ張る割に単価の安い(瞬間的に暴騰したので今は半導体より高い?)ものよりは、航空便に適しているのだ。

 最近の中国路線を中心とする大幅減便の影響を受けないはずがない。また、多国間で材料、装置、前工程、後工程を分業する構造が定着している業界である。どこか1カ所の出荷が止まれば、全体に影響が及ぶ。2019年に、日本がたった3品目の輸出の厳格化をしただけでも大騒ぎになったばかりである。

 また、世界の製造拠点の大半が東アジアにある業界である。新型コロナウイルスの流行の激しい地域との重なりは大きい。そして半導体の需要の大半を飲み込む完成品製造業の拠点の多くも東アジア、特に中国に存在するのだ。これだけの条件があって影響のないはずがない。

 今のところマスコミ的にはあまり話題にならないけれども、裏側で「COVID」などと叫んで走り回っている(実際には、電話にメールに、後は対策会議というところで、本当に走っている人は少ないと思うが)業界関係者はきっと多いと思う。

 みんなの関心は2つの数字に絞られる。いつ、どれだけの数量を納品できるか。メーカーも商社も営業担当者は顧客との調整で冷や汗をかいているだろうし、生産、物流などの担当者は線表を前に頭を抱えているかもしれない。そんなことはいつものことだとは言っていられない。いつものように工場へ頭を下げに行くにしても、工場が動かなければモノはできないし、飛ばない飛行機はモノを運べないのだ。

 自分らで調整してどうにかならないことが、きっと多すぎるのだ。当然、サプライチェーンの再構築のため、代替生産などの検討も俎上(そじょう)に上がっていることだろう。半導体の場合、ここの工場で作っている部品を、別の工場で作る、というのは準備に手間のかかるものなのだ。半年、1年かかるというようなケースも普通にあり得る。残業しても、事情が変われば一からやり直しだ。

 外野でブツブツ言っていても何も影響はないのでこの辺で止めておく。だが、つまらない部品(そんなツマラナイ部品などないのだが、価格が安く、先進的な機能など何もないものをいう例)の1つでも止まれば、先進の5G、AI(人工知能)製品の製造も止まってしまうのだ。

5G+AIが「明日の糧」になる

 そういうわけで、ようやく今回の本題の5GとAIが登場した。そこで、Qualcommのブログを読んでいた。ざっくりこちらの言葉に翻訳すれば「5GにAIを加えることが明日の糧になる」といった記事である。

 「明日の糧」とは何の糧? ブログじゃ「明日の技術イノベーション」と耳に心地よいが、当然、自分らの商売の糧でもあることは間違いない。うがった見方をすれば、5Gの容量を動画配信だけで使い切る訳にもいかない、人間、24時間動画を見ていたら死んでしまうだろうし。まだまだ動画配信には成長の余地はあるだろうが、かといって動画商売は既に明らかなことなので、「その次の成長」には別な種がいる、ということなのだろう。

 5GとAIを組み合わせるのに反対するわけじゃない。この絶えざる成長をしないと許してもらえない今の世界、人類全体には暗い影を落としていると思うのだけれどどうだろう。かといって、Qualcommに限らず、個々の企業にしたら立ち止まったら死んでしまうので、止まるわけにはいかないのだな。また変なことを書いてしまった。

 Qualcommは、「AIは5Gをよりよくしてくれる」と指摘するのだ。サービス品質、効率そしてセキュリティと無線からシステム全体の性能に至るまでである。また、「5GはAIによる体験をよくしてくれる」とも言う。高速大容量な通信が、各人個別に最適化された体験、特に「Boundless XR」と呼んでいるもの、を可能としてくれるという。悪い話じゃない、よさげだ。そして実際、「各人」への太いパイプがないとできないことである。

 さらにそこで将来を指し示すのだ。昔のAIは「クラウドセントリック(Cloud-centric:クラウドを中心として、その周りにクラウド以外のソリューションを配置)」、今は「パーシャルディストリビューテッド(Partially-distributed:部分的な分散処理)」、そして将来は「フーリーディストリビューテッド(Fully-distributed:完全な分散処理)」だという。デバイスは各人個別の世界を絶えず「学習」し続け、5Gでつながるサーバは、それら個別なデータを統合し処理し、そして新たなパラメータ群を各デバイスに送り出す。素晴らしい。

 当然、Qualcommのチップが持っているような端末側でのAIエンジンなどがあって初めて成立する話だ。そして、5G通信そのものは、AIとAI、つまり機械の間で通信が発生するので(どうも最近IoTという表現は避けられている気がしている)、動画のように人が視聴する時間を確保しなくともよい。通信量がヒトに制限されることはないのだ、ある意味。

 学習し続ける、そして通信し続ける、まさに絶えざる成長を目指すならばそれは必須な性質であるのかもしれない。5G+AIという組み合わせは、心地よいセールストーク的で皮相なキャッチフレーズのようでいて、実は本質的な「成長せずにはいられない」世界を体現している。

 2020年は5Gの本格普及元年(古い言い方だが)になるはず、だった(不穏当だが)。実際、何だかんだいっても普及は進むだろうし、Qualcommがブログで指摘しているような進歩もあるだろう。けれど2019年末あたりに、あちこちでバラ色のシナリオが展開されていたことからすると、暗雲たなびく中での航海となりそうである。

 まずはモバイル関係では顔を出さずにいられない展示会である「MWC Barcelona 2020」は開催が中止となった。5G関係など、ここに合わせて新製品発表などするつもりだった企業も多いはずだ。今頃、担当者が宣伝戦略などの見直しで会議している最中かもしれない。そして「ぼろぼろ」なサプライチェーンの復旧。各社BCPなど取り組んできていたことが功を奏して大したことなく持ちこたえられるのか。

 地震や洪水までは学んでいたけれど、ウイルスは想定外であるのか。既に峠を越えたのか、まだまだなのか。一寸(いっすん)先は闇である。しかし、濃厚接触を避けるのには「5Gが最適」というのには一理ある。Qualcommのブログには書いていなかったが。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部などを経て、現在は某半導体メーカーでヘテロジニアス マルチコアプロセッサを中心とした開発を行っている。


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