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» 2020年03月06日 05時00分 公開

Gartner Insights Pickup(148):企業の「デジタル化の均衡点」はどこにあるか

不確実な時代に企業の成功をサポートするため、CIOは自社にとっての「デジタル化の均衡点」を見いだす必要がある。ではデジタル化の均衡点とは何か。どう見いだせばよいのか。

[Kasey Panetta,Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 Shellは、2008年に発生した世界金融危機後の不況期に北極探査の取り組みを縮小し、電力会社を買収し、充電ポイントに投資した。幾つかの国で充電サービスの大手となっている。

 厳しい経済環境の中でも、同社はコスト削減と成長やイノベーションへの投資という正反対の考え方を両立させた。言い換えれば、Shellは転機において、ブレーキとアクセルの両方を踏んだことになる。

 「転機を勝機に変える鍵は、『TechQuilibrium(テクウィリブリアム:デジタル化の均衡点)』(※)を見いだすことだ」。Gartnerのリサーチ&アドバイザリ部門シニアバイスプレジデント、バル・スライバー(Val Sribar)氏は、2019年10月に開催されたGartner IT Symposium/Xpoの基調講演でそう語った。

※企業がデジタル社会で競争を勝ち抜くには、対外的な価値提案と社内の業務運営のデジタル化を進める必要がある。テクウィリブリアム(デジタル化の均衡点)は、個々の企業に最適なデジタル化の度合いを規定する、技術的な均衡点を指すGartnerの造語。


 今後、CIO(最高情報責任者)は多くの不確実性や転機に直面するだろう。そのきっかけとなるのは、地政学的要因や経済環境の変化、巨大デジタル企業の動きだ。転機は急に訪れることが多い。転機やディスラプション(創造的破壊)にどのように対処するか、あるいは対処する準備をするかが、企業の将来の成功を左右する。

 2008年、他社がリスクを見いだした状況の中にチャンスを見いだした企業は、アクセルを踏み、いち早く転機を乗り越えて先に進むことができた。パニックになってコストを削ったり、投資を縮小したりした企業は差をつけられた。

デジタル化の均衡点を見いだす

 だが、1つ疑問が残る。それは、「どうすれば企業は転機にアクセルを踏めるのか」だ。そのためには、企業は自社におけるデジタル化の均衡点を見いだす必要がある。これは企業の従来の在り方と、デジタル企業としての在り方のバランスが均衡するポイントだ。

 「巨大デジタル企業によるディスラプションや事業展開の影響により、ほぼ全ての企業が自社におけるデジタル化の均衡点を見極め、従来の在り方とデジタル企業としての在り方のバランスをどう取るかというミッションクリティカルな問題について、決断を下すことを迫られている。ほとんどの企業は、どちらか一方の在り方に固執してはいられない」と、スライバー氏は説明する。

 ほとんどの企業では、最適なバランスを実現するのに最大で7年かかる。最適なバランスは、個々の業種や個々の企業によって異なる。例えば、石油プラント会社は、銀行や小売業者ほどデジタル化する必要はなさそうだ。

 コペンハーゲン市は、人間による従来の救急サービスと人工知能(AI)botの「Corti」を組み合わせ、デジタル化の均衡点を見いだした。Cortiは、救急電話をかけてきた人の声のトーンによって、その人が心臓発作を起こしているかどうかを判断する。コペンハーゲン市は人間と技術の両方を活用して、発見されなかった心停止の発生数を半減させた。

 では、あなたの会社ではデジタル化をどこまで進めるべきか。

 「CIOは経営陣と連携して、既存ビジネスとデジタルビジネスの適切な組み合わせを体現した価値提案を作成するとよい」と、スライバー氏は語る。企業がデジタル化を行える度合いは、市場、顧客、社会が受け入れるレベルまでだ。これらの要因が、企業が現在の環境下でデジタル化をどこまで進められるかを左右する。

デジタル企業における均衡点

 既存企業がデジタルビジネスへの参入を推進しているように、巨大デジタル企業もデジタル化の均衡点を見いだし、従来型ビジネスにも乗り出そうとしている。例えば、Googleは自動車事業、Appleはクレジットカード事業への参入を進めている。既存企業のデジタル化と同様、巨大デジタル企業が従来型ビジネスを進められるのも、市場が受け入れる限りにおいてだ。

 「既存企業がデジタル化を最大限に進め、巨大デジタル企業が既存市場の再発明を可能な限り行うと、市場全体がデジタル化の均衡点に達するだろう」と、スライバー氏は語る。

 「その時点では、既存企業も巨大デジタル企業も、デジタル技術による優位性を持たない。デジタル社会では、既存企業とテクノロジー企業の違いは最終的になくなる」(スライバー氏)

 だが、デジタル化の均衡点を見いだすことは、企業の対外的な価値提案にだけ関わるわけではない。それは社内のプロセス、オペレーション、職場のデジタル化における焦点でもある。例えば、前述した石油プラント会社では、メンテナンスや修理、オペレーション、職場、プロセスがデジタル化の対象になる。

 社内では、デジタル化の制約要因となるのは市場ではなく、ROI(投資対効果)と組織文化だ。

 「最終的には、デジタルビジネス戦略は、社内オペレーションと対外的な価値提案を、どれだけ迅速にどこまでデジタル化するかに尽きる」(スライバー氏)

出典:Gartner Keynote: Find Your Digital Business TechQuilibrium(Smarter with Gartner)

筆者 Kasey Panetta

Brand Content Manager at Gartner


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