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» 2020年03月10日 05時00分 公開

「私、1番よね?」「いいえ、2番です」:プライバシーフリーク、リクナビ問題後初の個人情報保護法改正の問題点にかみつく!――プライバシーフリーク・カフェ(PFC)個人情報保護法改正編02 #イベントレポート #完全版 (3/5)

[鈴木正朝, 高木浩光, 山本一郎, 板倉陽一郎,@IT]

世界で唯一、個人情報を金で買える国

山本 次は、公正取引委員会の指針などにも言及していきます。前回PFCは公取委の指針のパブリックコメント期間中だったので、JILISからも意見を出しました。

高木 図3がJILISから出した意見です。個人情報それ自体を「対価」とか「経済的価値」とか、その提供が「経済上の利益の提供」に当たるなどと書いてあったので、それは違うんじゃないかという意見を出しました。

 理由の一つは、個人情報保護法の観点からは個人の人格尊重の理念の下で保護するのであって、財産権的なことで保護するわけではないので、個人情報それ自体に経済的価値があるなどというのは誤解を増長しますねという点。既にそういう誤解をして、「勝手に俺の情報を使って金もうけするのはけしからん」といった発想にとらわれている人もいるので、そういった人たちを余計に増やすことになって、データの利活用もままならなくなりますよという指摘をしました。

 もう一つは、EUでも同じような混乱があって、2015年に欧州委員会が提案した「デジタルコンテンツ供給契約指令案」の中で、「data as counter-performance」(対価としての個人データ)という用語を使ったら、EUのデータ保護監督機関EDPSの偉い先生方が「その言い方はやめなさい」と猛烈に反発して、結局、その言葉が削除されて言い換えられたといういきさつがあった。そこで、公取委の案にも「こう言い換えたらどうですか?」という具体案を示しました。

 例えば、「個人情報等の取得又は利用と引き換えに……無料で提供するというビジネスモデル」という記述は、「……と引き換えに」を「……を利用条件として」と言い換えればいいのではないか。EUも「condition」との言葉に差し替えられたいきさつがあるので、まねしてみました。

 他にも「個人情報等は……経済的価値を有する」を「利用することにより経済的な価値が生じている」と直したり、「対価に対し相応でない品質のサービス」を「消費者が個人情報等を提供することに伴うリスクに対し相応でない……」と言い換えるなどを提案しました。

山本 公取委の議論は手堅くまとまっていますが、経済的な対価や利益という表現になりがちな所は強くありますね。

板倉 その点は2019年11月に「競争法フォーラム」という経済法の専門の弁護士の団体で、この「考え方(案)」について議論するので登壇してほしいと呼ばれまして、独禁法の専門の先生と議論してきたところです。「対価」や「経済的価値」というのは違和感があるという点の理由として、先ほどのEDPSが適切ではないといった話と、個人情報漏えいについての民事事件は全て精神的な損害、慰謝料として損害賠償を認めているのであって、経済的損害とは認めていないというロジックを挙げました。

 経済法の先生方から特段反対はなくて、「対価」はおかしいよねという雰囲気でした。山本さんがいったように、経済法の先生方からも、優越的地位の乱用の要件に逆算して当てはめるために、こういうロジックにしているのではないかという意見がありました。

 近年、独禁法でデータを取り扱うというのは、世界中で行われており、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazonの頭文字)に対する適用も見られます。お互いの議論は参照しますから、外国の当局も日本が「考え方(案)」を出したのを知っています。

 別の経済法の弁護士から聞いたのですが、「考え方(案)」をみて米国が仰天していると。「日本は、個人情報は金で買えるというロジックできた」と驚かれているというわけです。「日本は世界で唯一、個人情報を金で完全に売買できる国」となっていたら恥ずかしいので変えてほしいんですけど。

 公取委の人は、競争法フォーラムにも来て告示の状況を説明していましたが、ここを変えるとは言っていませんでした。「ああ、変えないのかな」と思って。日本は金で個人情報が買えると思われるのはさすがによくないなと思ったんですが。

 「考え方(案)」の元ネタは、「ドイツでFacebookがWhats APPなどのデータを混ぜたのに対して独禁法を適用した事件」だと思います。搾取的乱用理論を用いています。

 現在裁判中で結論が出ていませんが、はしごを外されて日本独自のものになっちゃって、「日本は金で」となるとちょっとかっこ悪いですね。文言を変えても同じことはできるわけですから、ちょっと耳を傾けてくれてもいいなという気はします。「リスクが高まるのは不適切ではないか」という言い方が競争法の先生方にも違和感はないようでしたから、意見を飲んでくれとは言いませんが、少しは聞いてくれるといいかなと思います。

山本 このままだと大変なことになりそうですけどね。公取委の真意はよく理解できるとしても、「個人情報を業者に預けた利用者は、経済的対価を期待している」と活字で書かれると、「経済的対価が提供されていれば構わないのか」という議論が進みかねない。1件500円とか。

鈴木 でもね、マーケティングの世界では普通にやってきたことですよ。「本人の同意を得るためになんぼの景品を配ったらいいかな」と。「どんなノベルティグッズを用意すべきかな」と。このデータの場合、100円でいいか、200円でいいかをアンケートを取ったりしながら、大体の相場観を探ってきた。

 いくら以上になると、氏名、住所をDM用に書いてくれる人が一気に増えるようになるか見極めて、社内で予算をとって、それを使いながらデータ収集して販売促進につなげていかねばならない。こうした世界でビジネスしている人にとっては、個人情報は財産的価値のある対価性のある存在に見えているだろうことは容易に想像できますし、理解できます。

 しかし、法が個人情報の財産性に着目して規律していたわけではない。Suicaのデータなんて黙って売られていたじゃないですか。あれは個人情報に該当しないという判断があったからですよ。本質的に財産性があるからではない。

 要するに、法律で規制してるから、違法性を阻却してもらうために求められる同意であって、その同意を促すインセンティブとして金銭がものをいっているだけのことです。いわば反射的な効果なんですよ。法規制が対価性をもたらす要因なのであって、対価性、財産性があってそれを保護するために個人情報保護法が生成され発展してきたわけではない、そこは因果関係が逆転しています。

 個人情報は個人の識別性の有無を問題にしている価値中立的な概念で、財産性の有無も、プライバシー性の有無も、重要か否かも問うていない。本人のものと整理できる情報も、そうとは整理できない情報もみな混在する定義なんです。

 プライバシー権の自己情報コントロール権的考え方も妥当するものと妥当しないものが含まれるものですよ。個人情報の定義はアプリオリ(先験的)に決まるものではなくて、法目的に応じて対象情報を確定するもの。個人の識別性を問うことも必須ではなく、そこから離れた定義だってしていいものなんです。米国ではソロブ先生らが個人識別情報(PII)必要性と不要説の議論をしています。

 あと、公取委も個人情報保護法の個人情報の定義にこだわる必要はない。公取委は、市場における財産的な取引の存り方を見ているわけだから、単に独禁法上の視点から対象データをいえばいいだけではないか。取引の対象となる財産性あるデータ資産を問題にするというのであれば、個人情報保護法の理解を間違えている、という指摘などすることもないわけですよ。

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