連載
» 2020年03月19日 05時00分 公開

DXを成功させるための組織論(3):大企業におけるアジャイル導入の壁 SOMPOの解法

エンタープライズ企業でのアジャイル開発は、従来型開発とのギャップから、幾つもの壁に直面しがちだ。組織文化に適合させるために必要な“アレンジ”方法を、SOMPOホールディングスの事例から読み解く。

[西野大介,SOMPOホールディングス株式会社]

この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。

 エンタープライズ企業がDXを取り入れるために意識するキーワードはたくさんあります。中でも、組織作りにおいて多くの企業で導入が試行され、それと同時にさまざまなケースで壁に直面しているのが「アジャイル」でしょう。「俊敏」「柔軟」「一体化」といったアジャイルの示すメリットに共感し、導入を目指す企業は増えていますが、いざ導入に踏み切ったものの、従来とのプロセスの違いにより利益の享受以上に苦しみを感じるケースも多く見受けられます。

画像 Sprintチームで開発したプロダクトの一つである「自動運転車椅子」。未来の介護の実験施設、「Future Care Lab in Japan」で公開されている

 SOMPOホールディングスでは、デジタル戦略部という部署内に「Sprintチーム」という開発部隊を設置し、ユーザー企業自ら開発するという体制をとっています。当初はPoC(概念実証)開発のみを担当するチームでしたが、現在はPoCから本番化までを一括して担当する組織に成長しました。そこでは、プロジェクト推進のためにアジャイル型開発を取り入れ、関連するビジネス部門と密に連携を取りながら日々プロダクト開発しています。

 本稿では、当社がどのようにアジャイルを解釈し、組織に導入しているかを紹介します。テーマは大きく分けて以下の2点です。

  • 「そもそもアジャイル採用が適しているのか?」の見極め方
  • 「アジャイル組織」をどうやって自社に適応させるか

 皆さまの現場と照らし合わせることで、最適化のヒントになれば幸いです。

導入の前提:「そもそもアジャイル採用が適しているのか?」を見極める

 アジャイルには多くの利点が挙げられますが、同時に多くの課題をわれわれエンタープライズ企業にもたらします。例えば、ウオーターフォールなどの既存の開発手法と比較したアジャイルの利点として、「一体化組織により素早く開発できる」ことがよく取り上げられます。

 しかし、これは裏を返せば「一体化組織を構築できる」ということが前提となりますので、業務内容ごとにセクションが分かれるエンタープライズ企業での導入は難易度が高くなります。「柔軟な軌道修正で変化に対応できる」こともアジャイルの利点として挙げられますが、「日々の開発の着地点が不確定となる」ことの裏返しでもあり、その点ではエンタープライズ企業での管理運営の難易度は上昇するといえます。

 逆にこれまでのウオーターフォール型開発はどうだったでしょうか。アジャイルの隆盛以降、何かと“やゆ”されることが増えましたが、その理由として、例えば「組織が縦割り構造になりがち」という組織構造上のデメリットが挙げられます。しかしアジャイルと比較すると「分業がしやすい」という運営上の利点も見えてきます。「一度決めたら変更しにくい」という課題は、こちらも逆に言えば「開発の着地点が確定している」という利点があり、管理運営はしやすくなります。

画像 エンタープライズ企業が注意すべきアジャイルの特性

 アジャイルに限らず、新しい手法や考え方が出てきた場合はそれが最適解だと飛び付いてしまいがちですが、整理しておきたいのは「いずれの手法にも優劣はない」という事実です。手法に違いがあるとすれば「組織やプロジェクト特性によって適しているか否か」という点です。ここを見誤って、手法先行でアジャイル導入を試みてしまうと、開発効率や成果が思うように上がらない不幸なケースにつながってしまいます。

 上記前提を踏まえた上で、実際にアジャイルが適するプロジェクトとはどのようなものか見ていきましょう。当社Sprintチームでも、アジャイル開発の形をとるプロジェクトもあれば、特性を鑑みてウオーターフォール型の開発を選択するケースもあります。その際に意識しているのが、「到達点」「ケイパビリティ」「ステークホルダー」という3つのキーワードです。以下、順に説明していきます。

1.到達点

 今回立ち上げるプロジェクトは、試行錯誤の余地がどの程度あるのか。それが手法選定の一つの尺度となります。プロダクトの到達点となる完成形が見えておらず、試行錯誤すべきであれば、短期の開発を繰り返し精度を上げていくアジャイルが適しているといえます。

 最終的なプロダクトはみえているものの、中間にある到達点(完成までのプロセス)がみえていない場合。例えば、AI(人工知能)による特定の画像認識の精度を一定まで向上させたいが、そのためにどの技術を採用すべきかがみえていない場合なども同様です。加えて、プロダクトリリースの最終期日という到達点が柔軟に変更できる場合も、アジャイル適用に向いていると考えます。

2.ケイパビリティ(組織的能力)

 アジャイルの実践には自律型組織が求められ、エンジニアやデザイナーが自発的に作業をこなすことで組織活動を活発にしていきます。アジャイルに合うマインドセットかどうかという個人の特性もありますが、そのプロダクトに必要な知識が特殊でスキルセットの合うメンバーがいなかったり、チームが結成されたばかりで自律するには習熟度が満たなかったりする場合もあります。

3.ステークホルダー

 エンタープライズ企業では1つの製品、サービスに対し、複数の部署や複数の企業が関わることがあります。関係者を1つのチームに集約できない場合、特に、プロダクトの仕様や方向性を意思決定できる存在が別組織となってしまう場合は、アジャイルの持つ俊敏性や柔軟に変更できるというメリットが失われてしまうことになります。

導入における工夫:アジャイル組織のアレンジ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。