新規事業開発ってむなしくないですか?おしえて、キラキラお兄さん(1/3 ページ)

ものづくりに没頭してきた学生が就職したのは、「いったん」が行き交う世界だった。Web業界で幾多の新規事業の誕生と終焉(しゅうえん)を体験し、多産多死のむなしさを知ったエンジニアが救いを求めたのは、「イノベーターサクセス」の追求だった――。

» 2020年06月02日 05時00分 公開
[高橋睦美@IT]

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 スキルに自信はある。示された目的に向けた適切な提案ができる知見や経験もある。けれど、それを何に生かすか、明確なビジョンが自分の中にない――世の中、キラキラと夢を語る人が多い中、自分のビジョンを持てないままでいいのだろうかと強迫観念に近い感情を抱くエンジニアは、少なくないのではないだろうか。

 「Relic」の取締役CTO(最高技術責任者)を務める大庭亮さんも、実はそんな一人だった。大手メガベンチャーで複数の新規事業立ち上げを経験しながら、「こういう世界を実現したい」というビジョンを持たない自分にコンプレックスを感じた時期もあったというが、今はそれぞれのビジョンの実現に取り組む事業リーダーや起業家の成功を後押ししている。いったいどんな経験が、ターニングポイントになったのだろうか。

Relic 取締役CTO プロダクトイノベーション事業部長 大庭亮(おおばりょう)さん

戦略を立てて知恵を絞れば勝てる――ロボットコンテストで得た成功体験

 ものづくりに何となく興味と憧れを抱く幼少期を過ごした大庭さんは、浜松工業高校に進学してからというもの、ひたすら機械と電気と情報処理という3つの分野が交差するロボットの研究に専念してきた。

 高校では自分の手で設計から製作、制御まで行い、さまざまなロボットコンテストに参加した。ハワイで開催された国際燃料電池カーコンテストで優勝したこともあれば、国内有数のロボット大会に一人チームで参加し、常連参加者らを差し置いて優勝を飾ったこともあったという。

 「高校のときのこうした経験で、自分なりに戦略を立て知恵を絞れば世界でも勝てるし、経験者とかそういったことに関係なく勝つチャンスはあるんだなということを知りました。今思えば、チームワーク力がない奴だなと思いますけれど、それも一つの成功体験ですね」

 高校卒業後は、もっと深く知りたいと金沢工業大学に進学してロボット研究に没頭した。その中で「プログラミングって面白い」と感じるようになったことから、情報科学を極めるべく奈良先端科学技術大学院大学に進学。そこから縁あって産業総合研究所から声が掛かり、一流の研究者に囲まれながら研究することになった。

「ソフトウェアもものづくりの一つ」、キャリア一転でWeb系企業に就職

大庭さんが高校時代に作ったロボット

 通常ならば、そのまま大企業の研究所や大学の研究室に進むルートが王道だろう。

 けれども進路を考えるときになって、何年も携わってきたロボットの存在意義に疑問を抱いた。コンシューマー向けロボットの存在は時折ニュースに取り上げられることはある。だが、当時はまだコンシューマー向けロボットはあくまで技術のショーケース的存在であって、「本当に人の役に立つ存在だろうか」とふと疑問に思ったのだそうだ。幾つかの企業の話を聞き、安定しているがレールに沿ったキャリアを歩む大企業より、若いときから自分のやりたいことにチャレンジできる環境に魅力を感じていたところに、IT企業、Web系企業が選択肢として浮かんできた。

 「ソフトウェアもものづくりの一つだと思います。その意味で、Web系企業がやっていることも、ただ形がないだけで、ものづくりじゃないという認識はありませんでした」

 こうして2013年にメガベンチャーに入社し、EC事業を担当することになって感じたのは、ロボット作りとの違いだ。「入社して驚いたのは、やたら『いったん』って言うんだな、ってことでした。みんなやたらと『いったんこうしといて』『いったん赤で』『いったんこのボタンでいいから』……って言うんですよね。その背景には、いったん出して、ダメだったらぱっと修正すればいいという考えがあるんだと思います」

 一方、ロボットはそうはいかない。「いったんこの設計で作っておいて」で進めて、後から構造を変えるのは難しいし、一度書いたコードをコンパイルしてマイコンに書き込み、動かしてデバッグし、ダメだったらまた書き直すには、Webシステムとは違って多くの手間が掛かる。

 「ロボットの場合、1回サイクルを回すだけでも1〜2時間はかかりますが、Web系の開発であれば5秒くらいで試して動かして、というのが終わります。そこは圧倒的に違うなと思いました」

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