「退職するなら、2000万円払ってね」は、本当に会社だけが悪かったのか「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(77)(2/3 ページ)

» 2020年07月01日 05時00分 公開

社員の労働契約義務違反は確かだが……

京都地方裁判所 平成23年10月31日判決から(つづき)

「1」ヒアリング業務の不適切実施

社員Aにはカスタマイズの発注数を確保するため、顧客企業に適切にアプローチをとり緊密な関係を維持する義務があったのに、顧客企業の担当者から叱責(しっせき)を受けたことから、苦手意識を持ち、当該担当者を避けて他の者からヒアリングを実施していた。

「2」本件ルール順守義務違反

社員Aは、ソフトウェアベンダーが顧客企業と結んだ以下のルールに違反した。

  1. 各作業着手前に行うことになっていた工数見積もりが、度々作業着手後となった
  2. 不具合対応時、約束していたメール連絡を怠り、修正したプログラムを納品フォルダに置くだけであった
  3. 毎週火曜日に週間打ち合せを実施することになっていたが、社員Aは、平成20年2月12日を最後に実施しなくなった
  4. 2カ月に1回のペースで実施する予定だった顧客向け講習会を、ある時以降実施しなくなった
  5. 木曜に実施予定のサポート調査を実施しなくなった

「3」チーム管理業務の懈怠

社員Aは、チーム内業務の進捗(しんちょく)管理、窓口対応、仕事の割り振りなどの指揮などの管理業務を任されていたが、ある時期からは、ほぼ毎日一日中PCの前で下を向いて座っている状態で管理業務をほぼ行わなくなった。

「4」プログラミング業務の未達

社員Aは、自ら行うべきプログラミング業務も著しく遅滞するようになり、多くの未達成作業があった。

 これを見る限り、社員Aの仕事ぶりはお世辞にも良いものとはいえない。リーダーがこの様子ではソフトウェアの品質は落ちるだろうし、顧客企業が発注を減らすのも当然だし、ソフトウェアベンダーが損害の賠償を求める気持ちも分からなくもない(社員Aがこのようになってしまった原因にソフトウェアベンダーの労務管理の問題もありそうだが、話が発散してしまうため、今回はあえてそこには触れない)。少なくとも社員Aがソフトウェアベンダーの社員として実施しなければならない義務を数多く怠り、結果としてソフトウェアベンダーに損害を与えたこと自体は確かなようだ。

個人で会社の損害を補填することが社員の責任の取り方か?

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