連載
» 2020年08月20日 05時00分 公開

頭脳放談:第243回 孫さん、勝手にArmの売却先を考えてみました

ソフトバンクが、子会社であるArmの株式の売却を検討しているという。全株式となると3兆円を超す金額となる。買収できる企業は限られる。それでもNVIDIAなど既に候補企業もあるようだが、筆者が勝手に最適な売却先を検討してみた。

[Massa POP Izumida,著]

この記事は会員限定です。会員登録(無料)すると全てご覧いただけます。

 「ソフトバンクがArmの株式をNVIDIAに売却するのではないか」という話が出ているようだ。ソフトバンク側の事情は、いろいろなところで、いろいろと書かれているから説明はいらないだろう。

 多くの会社の株式を抱えている中で、Arm株の売却が話題になるのは、Armがすぐに買い手が付きそうな「まずは優良」な大型物件だからだろう。全株式なのか、一部売却なのかは明らかではないようだが、Armを買収したときの3兆円を超える金額を考えると、手を上げられる会社は限られる。その中で名前が挙がっているNVIDIAは、2020年7月に時価総額がIntelを抜いて米国半導体会社のトップに立ったばかりである。予想できる買収金額を考えると、「限られた会社」の1社であることは間違いない。

なぜNVIDIAのArm買収には否定的な声が多いのか

 しかし、NVIDIAのArm買収に関しては、業界関係者の中では否定的な意見が多いようだ。Armは世界中のほとんどの半導体会社や、半導体を内製しているメーカーなどにCPUなどのライセンスを売ってきている。それらメーカー同士は、互いに競争相手なわけだ。その中で、Armはある意味非常に中立的な立場で商売をしてきた。

 払う費用に応じて許可するライセンスの範囲は変わるが、特定の会社に戦略的に肩入れするようなことはなかった。あくまでも「権利と料金のバランス」である。特色を出したい会社は、自社の色を出せるような高価な権利を買って独自コアなどを仕立ててきた。

 それが、自らもArmコア搭載の高性能なSoCなどを販売しているNVIDIAが買収してしまう。そして、NVIDIAの戦略に沿った開発に偏ってNVIDIA色とでもいうべきものが出てしまったとする。今までのビジネスの前提が崩れてしまうのではないかと、恐れざるを得なくなるわけだ。

 NVIDIAにしてみたら、買収したからには元を取らなければならないから、「みなさまのためのArm」でなく、「NVIDIAのためのArm」になってしまうことは十分に考えられる。

 すると、NVIDIAのSoCと競合するメーカーなどはArm離れを考えるところが出るかもしれない。Armを離れて「RISC-V(リスクファイブ。オープンソースのRISC系の命令セットアーキテクチャ)」にでも移ってしまう可能性もあり、出方によってはArmにとってもよくないかもしれない。

 また、端的なことをいえば、GPUビジネスには即座に影響するだろう。ArmはArm内製のGPUをライセンスしている。Arm以外の会社でも、Arm向けのGPUなどをライセンスしているところもある。ArmがNVIDIA傘下となれば、Arm+NVIDIA GPUが推しになるかもしれない。それに対する技術的な期待もあるが、Arm+NVIDIA GPUが世の中を独占することになってしまえば、困るところも大いに出てくるのではないだろうか。

AppleもIntelもダメならAMDがあるさ?

 NVIDIAでなければ何処がいいか? 外野のやじ馬根性で妄想をたくましくしてみたい。

 当然、売却先として名前が上がりそうなところは、膨大な買収金額を調達できそうなビッグネームに限られる。その中で最初に除外されているのが2社ある。

 AppleとIntelである。ソフトバンクとAppleの関係性からいえば、Appleには最初に話が持ち込まれたのではないかと想像する。しかし、Arm買収には関心が無いようだ。

 Appleは自社製品のためにArmアーキテクチャベースの自社開発高性能SoCを設計(製造はファウンドリ委託)しているが、チップを外販する半導体メーカーではない。OSでもサービスのプラットフォームでも自社完結型のビジネスだ。世界中にCPUのライセンスを売るようなビジネスモデルは考えていない、ということだろう。

 一方、Intelは、買えるものなら買いたいのではないかと想像する。今や過去の人的扱いになっているIntelを追い詰めている一方の旗頭であるArmを買収できれば、この業界でのIntelの支配力は盤石だ。

 しかし、それこそがネックになる。多分、確実に独占禁止法の対象になる。長い審査期間の末に売却否定されるのは、売る方も買う方も避けたいところだろう。

 その点、同じx86業界でもAMDならば、規模的に独占禁止法を回避できるかもしれない。かつ、対Intel、対NVIDIAでArmが強力な武器になり得るだろう。それに今までArmのビジネスに関わっていないことが逆に利点になるかもしれない。が、規模的に巨額の買収資金の調達は難しいように想像されるし、なけなしの資金でできたとしても、降って湧いたような二方面作戦のリスクは大き過ぎる。

 いずれにせよ、半導体製品メーカーがArmを買収してしまうと、先ほどのNVIDIAに対するものと同様な反発は避けられないだろう。Armコア製品にビジネスの多くを頼っている点で、「Samsung」「Qualcomm」「NXP Semiconductors」「STMicroelectronics」など半導体業界のビッグネームはどこもArmを必要としている。

 同業他社にArmを囲い込まれてしまうのは避けたいだろうと思われる。とはいっても自分で巨額の買収資金を調達して傘下に入れるほどのリスクを積極的に取るとも思われない。多分、年に数十億くらいのライセンス料を払って製品の製造を継続できればいいのだ。数兆円の買収をするのは、ある意味自分のビジネスモデルも大きく変革するような決断になってしまう。

中立的な立場を重視するならファウンドリはどう?

 中立的な立場、という点であれば、台湾TSMCに代表されるファウンドリがArmを運営するというのが、半導体各社には反発の少ない方法かもしれない。このごろではどこの半導体会社もファウンドリに製造委託しているから、実際にArmを搭載した各社のウエハーは、TSMCなどの工場で生産されている。TSMCならば規模的にも何とかなるのではないだろうか(勝手な想像だが)。ファウンドリは、昔からIP(半導体の設計データなど)の手配や販売もしていて、IPビジネスの経験はあるはずだ。

Copyright© Digital Advantage Corp. All Rights Reserved.

RSSについて

アイティメディアIDについて

メールマガジン登録

@ITのメールマガジンは、 もちろん、すべて無料です。ぜひメールマガジンをご購読ください。