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» 2020年09月23日 05時00分 公開

AI・機械学習の用語辞典:モラベックのパラドックス(Moravec's paradox)とは?

用語「モラベックのパラドックス」について説明。機械学習モデルを含むAI(人工知能)やロボット工学において、大人が行うような高度な知性に基づく推論よりも、1歳児が行うような本能に基づく運動スキルや知覚を身に付ける方がはるかに難しい、という定説を示す。

[一色政彦,デジタルアドバンテージ]
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連載目次

用語解説

 モラベックのパラドックスMoravec's paradox)とは、機械学習モデルを含むAI(人工知能)やロボット工学において、例えば「明日の販売数量を予測する」「将棋を指す」といった大人が行うような高度な知性に基づく推論よりも、例えば「おもちゃをつかむ」「興味深いものに注意を払う」といった1歳児が行うような本能に基づく運動スキルや知覚を身に付ける方がはるかに計算資源を要する(つまり難しい)、というパラドックス(逆説)のこと(図1)。例えば人間にとって、高度な大学数学を計算するよりも、近所の公園をランニングする方がはるかに簡単であるが、コンピュータにとっては逆である。

図1 モラベックのパラドックスのイメージ 図1 モラベックのパラドックスのイメージ

 この定説は、Hans P. Moravec氏や、Rodney Allen Brooks氏、Marvin Minsky氏らによって1980年代に確立された。提唱者の一人であるロボット研究者Hans P. Moravec氏による1988年の書籍の一節を引用すると、

it is comparatively easy to make computers exhibit adult level performance on intelligence tests or playing checkers, and difficult or impossible to give them the skills of a one-year-old when it comes to perception and mobility.
(訳:コンピュータが、知能テストやボードゲームのチェッカーで大人レベルの性能を発揮させることは比較的容易であるが、知覚や移動に関して1歳児のスキルを与えることは難しいか不可能である。)

と説明されている(引用文献:「Hans P. Moravec, "Mind Children", 1988.」における15ページ目の一文。1988年はハードカバー版で、1990年にペーパーバック版が出版されている)。

 この定説が提唱される前のAI研究では、「チェスやチェッカーをプレイする高度なAIが実現できれば、人間のように思考できる高度なAGI(汎用(はんよう)人工知能)も早期に実現できる」と楽観的に考えられていたようである。そのような楽観論は大間違いであることが、この定説から広く認知されるようになった。その結果、この定説は、現在までのAI研究やロボット工学の研究に少なからず影響を及ぼしたとされている。

 2020年現在、最先端のディープラーニングなどによるAIでは、画像認識など「機械の視覚」と言えるものを手に入れつつあり、「モラベックのパラドックスを一部克服してきている」と主張する言説も見られるようになってきている。しかし「モラベックのパラドックスを克服した」と言える状態にまでは至っていないと考えられるだろう。ほとんどの場合、モラベックのパラドックスは現在でも通用する定説である。

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