CIOのためのサーバレスコンピューティングガイドGartner Insights Pickup(176)

サーバレスコンピューティングは、企業がクラウドネイティブアプリケーションを構築、利用、統合する方法を再定義するキーテクノロジーだ。CIOのために、これがどのような技術なのかを分かりやすく紹介する。

» 2020年09月25日 05時00分 公開
[Katie Costello, Gartner]

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 「サーバレスコンピューティング」は、誤解されやすい用語だ。この技術は、インフラのプロビジョニングや管理を不要にするが、決してサーバの必要性をなくすわけではない。市場に、「サーバレスコンピューティングとは何か」や、企業でサーバレスコンピューティングを導入するメリットについて、いまだに混乱があるのは驚きではない。

 サーバレスコンピューティングは、適切なユースケースに適用すれば、アジリティ、弾力性、費用対効果を向上させる次世代技術だ。このため、クラウドコンピューティング戦略を策定するCIO(最高情報責任者)は、この技術を包括的に理解して、一般的な誤解を解消し、効果的なユースケースを考える必要がある。

サーバレスコンピューティングとは何か

 サーバレスコンピューティングは、インフラ自体を管理することなく、アプリケーションやサービスを構築または実行する新しい方法を指す。コードの実行は、クラウドサービス事業者や基盤提供側が完全に管理する仕組みだ。これは、開発者がコードをデプロイ(展開)するときに、システムやアプリケーションのインフラのプロビジョニングとメンテナンスで頭を悩ませずに済むということだ。通常、開発者はデプロイ前に、データベースやストレージの容量のようなさまざまな項目を定義しなければならない。これではプロビジョニングに時間がかかり、運用の負荷が増えてしまう。

 サーバレスコンピューティングを体現している最も有名な例は、「サービスとしてのファンクションプラットフォーム」(fPaaS)だ(訳注:「Function as a Service」「FaaS」とも呼ばれる)。Gartnerは、2025年までにグローバル企業の50%が、fPaaSをデプロイ済みだろうと予測する。現時点ではこの割合は20%にとどまっている。

サーバレスコンピューティングの価値

 サーバレスコンピューティングは、インフラのセットアップや構成、プロビジョニング、管理を不要にすることで、オペレーションの簡素化を実現する。サーバレスコンピューティングのアーキテクチャは、開発者が仮想マシン(VMs)やコンテナを直接ターゲットとするアーキテクチャと比べてオーバーヘッドが少ない。

 サーバレスコンピューティングでは、インフラが自動化され、弾力性を発揮する。これは、予測不能なワークロードを運用する企業にとって、特に魅力的だ。もちろん、費用対効果も高い。さらに重要なのは、サーバレスアーキテクチャのおかげで、開発者が自分のすべきこと――つまり、コードの作成とアプリケーション設計の最適化に集中し、ビジネスアジリティとデジタル実験に貢献できることだ。

 サーバレスコンピューティングのメリットは、デメリットと比較検討する必要がある。デメリットには、ベンダーロックインや活用スキルを持った人材の不足が避けられないこと、アーキテクチャの制約などがある。

サーバレスコンピューティングの主要機能

 基本的に、サーバレスファンクションはエンドユーザーがインフラを手動で管理せずに済むようにする。さらに、次の主要機能を提供する。

  • ファンクションとして与えられたコードを実行し、ユーザーが明示的にサーバ、仮想マシン、コンテナなどのインフラをプロビジョニングしたり、管理したりする必要をなくす。
  • 多数のインスタンスのファンクションを同時に実行するのに必要な全てのリソースを含む、ランタイム環境のプロビジョニングとスケーリングを自動的に行う。こうしたリソースにはコンピューティング、ストレージ、ネットワーキング、言語の実行環境などが含まれる。
  • テストおよび開発環境向けの付加機能に加え、サービス保証のためのモニタリング、ロギング、追跡、デバッグなどの機能を提供する。

サーバレスコンピューティングは他の仮想化技術とどう違うのか

 仮想マシン、コンテナ、サーバレスのファンクションには、幾つかの根本的な違いがある。それぞれのアプローチは、仮想化が行われるアーキテクチャレイヤーと、各環境でコンピューティングコンポーネントがどのようにスケーリングされるかによって定義される。

 ハイパーバイザーはハードウェアを仮想化し、仮想マシンによってスケーリングを行う。コンテナはOSを仮想化する。サーバレスfPaaSはランタイムを仮想化し、機能によってスケーリングを行う。このため、サーバレスソリューションは、次の特徴を持つプロジェクトに適している。

  • 低い頻度で実行される
  • 外部イベントと関連付けられている
  • スケーリング要件が非常に変わりやすいか、不明である
  • 小さく、ライフサイクルが短い個々のファンクションを持つ
  • 呼び出しに応じてステートレスで動作する
  • 他のサービスを接続する

 「これらの各仮想化技術は全て、当分の間CIOにとって有意義だろう」と、Gartnerのアナリストで、ディスティングイッシュト バイスプレジデントのアルン・チャンドラセカラン(Arun Chandrasekaran)氏は語る。

 「特にサーバレスは、クラウドオペレーションやマイクロサービス実装、IoTプラットフォームに関連するユースケースに共通して適用される」(チャンドラセカラン氏)

サーバレスfPaaSの活用に向けた体制整備

 サーバレスfPaaSを活用する準備を整えるには、IT部門の3つの側面を考える必要がある。

1.アプリケーション開発

 サーバレスfPaaSでは、オペレーションが非常に見えにくくなる。このため、開発者とオペレーターを近くに(さらには同じチームに)配置し、ソフトウェアプロダクトのライフサイクル全体を通じて、開発とメンテナンスの責任を密接に連携して果たせるようにする。

2.セキュリティとリスク管理

 セキュリティとリスク管理のリーダーが適応しなければならない最大の変化は、もはや自社がOS、ハイパーバイザー、コンテナ、アプリケーションランタイムのいずれも所有、管理しないことだ。これらのリーダーは、コードの完全性やアクセス制御など、管理できる分野に集中するとよい。

3.インフラ&オペレーション(I&O)

 サーバレス技術によって、他の形態のインフラ(物理マシン、コンテナなど)が古くなるわけではない。ほとんどの企業は長期にわたって、両者を組み合わせて使っていく必要がある。そのため、I&Oリーダーはインフラ管理からアプリケーションガバナンスまで、ITオペレーションを見直すことが重要だ。パブリッククラウドのfPaaSでは、I&Oチームの役割は最小限にとどまるかもしれない。だがI&Oリーダーは、fPaaSのデプロイを成功させるために、I&Oチームと開発者を密接に連携させる必要がある。

早期導入者に学ぶ教訓

 CIOは、クラウドの一般的なIaaS/PaaS(Infrastructure as a Service/Platform as a Service)環境に関するスタッフトレーニングを開始するとともに、DevOps文化を導入することで、サーバレスコンピューティングの学習曲線と導入期間を短縮できる。

 サーバレスのデプロイのセキュリティと技術的な側面を学ぶことが最も重要であるため、サーバレスアプリケーションの設計やコード、スケーラビリティ、パフォーマンス、所有コストに関する仮説を検証する概念実証(PoC)を実施する必要がある。

出典:The CIO’s Guide to Serverless Computing(Smarter with Gartner)

筆者 Katie Costello

Manager, Public Relations


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