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» 2020年09月28日 05時00分 公開

「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(80):代金を支払わないからシステムを引き上げるなんて、どういう了見だ! (1/3)

社長が取ってきた開発案件。新規顧客だけど、社長の知り合いだから安心していいですよね――?

[ITプロセスコンサルタント 細川義洋,@IT]
「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説

連載目次

付き合っても良い客か悪い客か

 システム開発に限ったことではないが、顧客を選ぶことは大切である。

 競争の激しい中そうそうぜいたくを言ってはいられないが、「ハズレ」の顧客に当たってしまうと、開発に非協力的なことが原因で進捗(しんちょく)が遅延し、プロジェクトが破綻したり、ベンダーのメンバーが無理を重ねて体を壊したり、それが遠因となって経営が危うくなったりすることがあるのだ。そんな事例は、私も幾つも見てきた。

 しかし、最も「筋の悪い」のは、お金を払ってくれない顧客だ。受注したシステムは完成し、曲がりなりにも動いているのに、いろいろな理屈を付けては代金を払ってくれない。

 特にソフトウェアの場合、納品してもどこかに不具合が残る場合がほとんどだが、それを理由に全く支払いをしない顧客がいる。不具合の影響が小さく、業務に大きな影響を与えなくても、「債務不履行だ」と言って支払いを拒む。そんな顧客の数は決して少なくはない。

 だが、そうした顧客も最初から払わないつもりだったわけではなく、開発中に経営が危うくなるなどの事情で「払いたくても払えない」状態に陥り、態度を豹変させることが多い。

 ベンダーの、特に営業担当者は、商談中にその辺りを見抜かなければならない。なかなか困難な作業ではあるが、特に初めての顧客の場合は、さまざまな方向にアンテナを張り、顧客企業の様子を把握することが、契約の前提条件となるといってもいい。

 IT訴訟事例を例にとり、システム開発にまつわるトラブルの予防と対策法を解説する本連載。今回は、ベンダーがユーザーに見切りを付けるべきポイントなどを紹介しながら、プロジェクトの壊れていくさまを紹介する。人ごとと考えず、今後の注意喚起として読んでほしい。

トップセールスの落とし穴

 事件の概要から見ていこう。

東京地方裁判所 平成14年9月17日判決から

学習塾の経営などを行うユーザー企業の代表者が、インターネットを使ったPC勉強プログラムの作成、およびそのプログラムを学習塾に対して利用させるサービスを構想し、以前から面識のあったベンダーの代表者にその開発を依頼した。

ただし、開発に合意した時点では、システムの機能などについて具体的な構想がまだなかったため、費用の支払いについては、ベンダーの作業に応じて払うこととなった。請求は毎月の工数に基づいて行われ、翌月払いとすることが取り決められた。

 まず、この部分。お気付きの方もいらっしゃると思うが、トップの個人的な関係で成立した契約は意外と破綻することが多い。

 相手の会社の体質や経営状態などの調査が不十分で、後々お互いに苦労したり、プロジェクトに問題があっても、途中でやめたとは言ったりしにくいのが、トップセールス特有のリスクだ。

 今回の例はさらに、「とにかく開発する」ことだけ決めて、「何を」「幾らで」行うのかがしっかりと決まらないまま作業をスタートしたのも問題だった。技術的なリスク、コストや工数のリスクの算定を後回しにして、とにかく仕事だけ始めてしまうのだから、何かと不確定要素の多いソフトウェア開発においては危険この上ない。

 しかし、実際には、トップが簡単に話をつけ、何も見えないままプロジェクトがスタートする例はかなりある。その結果、裁判所にまで持ち込まれたトラブルプロジェクトを、私も幾つか知っている。トップセールスというのは、それだけでリスクの一つなのだ。

 仕事を受けるにしても、調べるべきは調べ、リスクが高いとみれば、仕事の範囲を狭めたり、何かあったときには仕事を打ち切る準備(契約書に解除条項を設けるなど)をしたりはできたかもしれない。

 最悪でも社長に対して危険であることを告げて、いざというときには損切覚悟で仕事を中断させてほしい旨は告げておくべきだった……。

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