PJはワンチーム、会社の垣根を越えて助け合わないとねえコンサルは見た! 偽装請負の魔窟(4)(3/3 ページ)

» 2020年10月20日 05時00分 公開
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ご理解いただけますよね

3日後の夕方、サンリーブスの田原は、田中課長に会うためにイツワの応接室に来ていた。

 「ああ、田原さん、ごぶさたしてますね。お元気でしたか」

 田原は苦笑いをした。「ごぶさた」という言葉が、担当でありながらプロジェクトルームに顔を出さない田原への嫌みであることは、田中のメガネの奥の冷たい目が物語っていた。

 「も、申し訳ありません。その……」

 「いやいや、お忙しい身だ。こんなところまで来る時間も、なかなか取れないでしょう」

 「ええ。あっ、いや」と口ごもる田原を見て、田中は愉快そうに笑った。

 「いじめてるつもりはありませんよ、ホントに。それに、サンリーブスのメンバーには本当に頑張っていただいている」

 田中はそう言うと、ソファに深く座り直した。田原が端の方に少しだけお尻を乗せているのと対照的だった。田中が続ける。

 「いや本当に。画面のモックも相当な数があったと思うんですが、予定通りに上げていただいたし、その上他のこともいろいろと手伝ってもらったりね」

 「は、はあ。そうですか。あ、ありがとうございます」と田原は頭を一度下げ、「その件なのですが……」と言いかけた。田原は、そこに声をかぶせるように話を続けた。

 「これからもいろいろお願いしますね。何せシステム開発はチームワークです。イツワであれ、サンリーブスであれ、あるいは他のベンダーであれ、このビルに入れば皆、システム刷新という目標を1つにしたワンチームです。垣根を越えて助け合わないと」

 早口にまくし立てる田中に、田原は口を挟むことができずにいた。

 「いやあ、めったに顔も見せない田原さんがわざわざいらっしゃるというんで、大方、そんな話かと思いましたが、違います?」

 「い、いや、ご明察で」

 「昨日ね。サンリーブスの澤野さん、でしたっけ? からそんなお話がありまして。契約外の作業はやめてくれってことですが、さすにA&Dのコンサルだ。言うことには筋が通っているし、『偽装請負だー』なんて言われてしまうと、まあ、こちらも返す言葉もないんですがね」

 「はあ……」

 「ただ、まあ」

 田中は、そこで一度せき払いをした。

 「銀行のシステムってのは、いろいろと複雑だし、そんな正論もまかり通らんところも多い。その辺りは澤野さんにも、そしてサンリーブスにも、少しご理解いただけるようになりますと、御社とのお付き合いもさらに深く、長くできるんじゃないかと。ええ、ウチはもちろん、そう願ってましてね。御社のような洗練された画面やAIを開発できる会社は、そうそうありませんからね」

 「恐れ入ります」

 「そういうことで、澤野さんにも一つよろしくお伝えください。とにかくサンリーブスのメンバーには期待するところが大だとね」

つづく


「コンサルは見た! 偽装請負の魔窟」第5回は、2020年10月22日掲載です

書籍

システムを「外注」するときに読む本

細川義洋著 ダイヤモンド社 2138円(税込み)

システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」が、大小70以上のトラブルプロジェクトを解決に導いた経験を総動員し、失敗の本質と原因を網羅した7つのストーリーから成功のポイントを導き出す。

※「コンサルは見た!」は、本書のWeb限定スピンアウトストーリーです

細川義洋

細川義洋

政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる

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