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» 2020年10月29日 05時00分 公開

コンサルは見た! 偽装請負の魔窟(7):死人が出てもかまわん、スケジュール厳守だ! (1/3)

新興ベンダーが契約外作業で手伝ったシステムでデータが消失した。責任は誰が? 補填(ほてん)はどこが――?

[ITプロセスコンサルタント 細川義洋,@IT]
コンサルは見た!

登場人物

サンリーブス

ベンチャー企業。AIソフトの開発を得意としていたが、最近はさまざまな案件を請け負っている

sawano

澤野翔子

イツワ銀行勘定系システム刷新プロジェクト、サンリーブスチームのプロジェクトマネジャー。原籍はA&Dコンサルティング。米国勤務から帰国後、本プロジェクトに出向。プロジェクト内に横行する偽装請負に激おこ中

fukawa

布川幸弘

10年前に2人のAIエンジニアと共にサンリーブスを立ち上げた創業社長


motoki

元木克明

ディレクター


イツワ銀行

日本を代表するメガバンク。勘定系システム刷新プロジェクトの真っ最中(ただし、2回リスケ)

tanaka

田中孝仁

システム開発本部課長。勘定系システム刷新プロジェクト担当。ベンダーの契約外作業を見て見ぬふり(どころか、自身も積極的)

yamatani

山谷慎之介

システム開発本部長。田中の上司。次期取締役候補だったが、2度のプロジェクト遅延でその地位も危うい

東通

大手老舗ITベンダー。イツワ銀行勘定系システム刷新プロジェクトでは、顧客の信用管理機能のスコアリングパートを受け持っている

kishibe

岸辺和弘

イツワ銀行勘定系システム刷新プロジェクト、東通チーム、グループリーダー


A&Dコンサルティング

大手コンサルティングファーム

misaki

江里口美咲

ITコンサルタント。澤野翔子の後輩。「コンサルはミタ」シリーズの主人公


sirase

白瀬智裕

A&Dコンサルティングに化粧品メーカーから出向中の新米コンサルタント。ラグビー部出身でガタイが良い

前回までのあらすじ

偽装請負が横行している「イツワ銀行」の勘定系システム刷新プロジェクト。契約外の作業でイツワや他のベンダーの手伝いにメンバーが奔走している「サンリーブス」のプロマネ澤野翔子は、イツワの田中課長、山谷本部長に状況の改善を依頼するが、それが原因でクレームが入る始末。サンリーブスで開かれた緊急会議で上司の田原や元木は、契約外サービスを続けるよう澤野に圧力をかける。澤野はこれがサンリーブスの常とう手段かと社長に問い掛けたが……。

時間をくれませんか

9月11日夕方、サンリーブスの社長室。

 「何を言ってるんだ!」

 澤野翔子から社長への問い掛けに声を荒らげて立ち上がったのは、ディレクターの元木だった。両手の拳が握られている。

 「そうなんですか? もしそうなら、本当にサンリーブスは大変なことになります。偽装請負が明るみに出れば、刑事罰だって覚悟しなければいけません。そんなことになったら……」

 必死に抗弁する澤野翔子を、元木は「もういい!」と遮った。

 「いや」

 布川が静かな声で割って入った。両手を口の前で合わせて指をぎゅっと握っている。

 「澤野さん?」

 布川がもう一度呼び掛けた。

 「はい」

 「少しだけ時間をくれませんか。少なくとも『イツワ銀行』とはある程度関係ができてしまっていて、いや、あまり良い関係ではないのかもしれませんが、サンリーブスはそれなりに役に立つと思ってもらっています。偽装請負は、もちろんずっと続けるわけにはいかない。ただ、ある日突然ウチが仕事を受けなくなったら、イツワも他のベンダーも大混乱になる。銀行の勘定系という社会的にも影響の大きいプロジェクトが迷走しかねない。だから、たとえ誤ったことを正すにしても、順序と根回しが必要だ。その時間を少しだけくれませんか?」

状況は把握しました

9月中旬。再度「A&Dコンサルティング」を訪れた翔子からことの次第を聞いた白瀬の表情が、初めて柔らかくなった。

 「社長は、やり方を改めると言ったんですね。その後、イツワの態度は変わったんですか?」

 翔子が顔を上げた。

 「いいえ。契約外の作業依頼はやむことがなかった。メンバーたちの残業はますます増え、私たちはどんどん苦しくなっていった……。社長も、本当にイツワに申し入れをしてくれたのかどうか……」

 話を聞いた江里口美咲は、メモを取っていたPCを閉じた。

 「大体のところは分かりました」

 「どうしたらいいかしらね」

 「ふん!」

 白瀬の口がへの字に曲がった。

 「そんなところ、さっさと引き上げちまったらどうです?」

 「そうね。でも、私が引き上げたって、誰かが代わりに行くことになるだけだから」

 「真面目ですね、先輩。要領が悪いっていうか」

 美咲の言葉に翔子は苦笑いした。

 「私、どんくさいのよ。昔から」

 「ま、それが先輩の良いところでもあるんですけどね。分かりました。何か良い手がないか、内部でも話し合ってみます」

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