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» 2020年11月05日 05時00分 公開

コンサルは見た! 偽装請負の魔窟(8):本社に支援を頼むから安心して!→だが、助けは来ず (1/3)

契約外で行った作業のミスが元で地獄と化したプロジェクト現場。倒れるエンジニア、姿をくらます経営者。孤立無援のプロマネに救いの手は来るのか――?

[ITプロセスコンサルタント 細川義洋,@IT]
コンサルは見た!

登場人物

サンリーブス

ベンチャー企業。AIソフトの開発を得意としていたが、最近はさまざまな案件を請け負っている

sawano

澤野翔子

イツワ銀行勘定系システム刷新プロジェクト、サンリーブスチームのプロジェクトマネジャー。原籍はA&Dコンサルティング。米国勤務から帰国後、本プロジェクトに出向。プロジェクト内に横行する偽装請負に激おこ中

sakurada

桜田みずき

イツワ銀行勘定系システム刷新プロジェクト、サンリーブスチーム、メンバー。優秀なエンジニアで愛想も良く、イツワや他ベンダーの仕事も手伝ってあげちゃう系。その親切心がアダとなり、他社のテストデータを消失させてしまう

noguchi

野口勇介

イツワ銀行勘定系システム刷新プロジェクト、サンリーブスチーム、サブリーダー。仕事はきちんとこなすが、良くも悪くも周囲との調和を重んじるタイプ。カツカレーはフォークで食べる派

tahara

田原壮介

サンリーブス、マネジャー。澤野の上司。イツワプロジェクトのプロジェクト責任者だが、イツワには常駐せず、たまに澤野から簡単な報告を聞く程度しか関わっていない

東通

大手老舗ITベンダー。イツワ銀行勘定系システム刷新プロジェクトでは、顧客の信用管理機能のスコアリングパートを受け持っている

kishibe

岸辺和弘

イツワ銀行勘定系システム刷新プロジェクト、東通チーム、グループリーダー


A&Dコンサルティング

大手コンサルティングファーム

misaki

江里口美咲

ITコンサルタント。澤野翔子の後輩。「コンサルはミタ」シリーズの主人公


sirase

白瀬智裕

A&Dコンサルティングに化粧品メーカーから出向中の新米コンサルタント。ラグビー部出身でガタイが良い

前回までのあらすじ

偽装請負が横行している「イツワ銀行」の勘定系システム刷新プロジェクト。パートナー企業「サンリーブス」のプロマネ澤野翔子は経営陣に事態の改善を依頼するが、社長にごまかされてしまう。そのころイツワのプロジェクトルームでは、翔子の部下桜田みずきが業務外で手伝った際に使用したUSBが原因で「東通」のテストデータが消失したことが判明。翔子と東通の岸辺はイツワの行員たちから罵声を浴びせられた。

ワタシ、行かなくちゃダメ……ですか?

 「いやあ、えらい目に遭いましたね」

 イツワ行員たちの怒声や罵声からようやく解放された東通の岸辺は、澤野翔子に笑いかけた。

 「本当に……」

 翔子も遠慮がちではあるがほほ笑んだ。2人の間には、共につらさを耐えたシンパシーのようなものが生まれていた。

 「でも、これからが大変です。何とかして一刻も早くデータを戻さないと」

 「そう……ですね」と、翔子は少し口ごもった。

 確かに契約外の作業が原因とはいえ、サンリーブスの責任は大きい。メンバーたちにも東通を手伝わせなければならないだろう。イツワや東通に命じられるのではなく、サンリーブスの翔子の命令であれば、偽装請負には当たらない。

 ただ、メンバーたちは今、それでなくても連日の深夜に及ぶ作業で疲弊している。これ以上の負担は現実的に考えても無理だ。

 「ウチも……手伝えるように調整してみます」

 そう答えるのが精いっぱいだった。岸辺は翔子の顔をのぞき込んで心配そうに問い掛けた。

 「大丈夫ですか? 失礼だが、サンリーブスのメンバーは、今も毎日遅いようですが」

 「それでもウチが何もしないわけにはいきません。本社に応援を頼んでみます」

 翔子が席に戻ると、サンリーブスのメンバーが待っていた。翔子は全員の顔を見ながら静かに話した。

 「分かったでしょ? これがよその仕事を安易に引き受ける危険の一つ。これからは何があっても、東通のデータを復旧させなければいけない。どれぐらい時間がかかるか分からないけれど。自分たちの成果物を予定通りに作っても、契約外で受けた仕事の責任を負わされる。時間も取られる。こうやって二重、三重の苦しみが一気にやってくるのが、偽装請負の危険なのよ」

 メンバーたちは、言葉もなくうなだれていた。

 「どうするんですか?」

 メンバーの野口がかすれた声で尋ねた。

 「まずは、今受けているよその仕事は全部断りましょう。当然よね。それから、ウチの作業もいったんやめます。私は野口さんとスケジュールを調整します。他のみんなは、とにかく東通さんを手伝って」

 「結局、ウチの作業が遅れるんですね」

 野口の隣に座る西城が、座ったまま上を向いた。その後ろに青い顔をして座り込む桜田の姿が見える。

 「本社に支援を送ってもらうよう掛け合います。1日でも早く来てもらうようにするから、頑張って。みんなで協力し合えば、何とかなるはずよ。さあ、動きましょう」

 その声を合図に、メンバーたちが席を立ち、重い足取りで東通のプロジェクトルームに向かった。しかし桜田みずきだけは、座ったきりだった。

 「どうしたの? あなたも東通の手伝いに行かなくちゃ」

 しかし、みずきは動こうとせず、座ったきりだった。

 「ワタシぃ……行かなくちゃダメですか?」

 「当たり前じゃない。こんなこと言いたくないけど、あなたがここに座ってたら、東通だってサンリーブスのみんなだって、納得しないでしょ」

 「でもワタシ……もう、怖くてぇ……」

 翔子は抑えきれない衝動が湧き上がってくるのを感じた。

 「いいから早く行きなさい! 一体、誰のせいでみんなこんな苦労をするハメになったと思ってるの!」

 みずきはその後もしばらく下を向いて座っていた。やがてノートPCをパタンと閉めて立ち上がり、フラフラと歩き出したが、その途端、しゃがみこんでしまった。

 「桜田さん!」

 駆け寄る翔子の足元で、みずきはただガタガタと震えていた。結局みずきはそのまま帰宅し、次の日に過労で入院してしまった。

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