古き悪しき伝統はワタシが正す!コンサルは見た! 偽装請負の魔窟(最終回)(1/3 ページ)

イツワ銀行内で横行していた偽装請負は頭取の知るところとなり、事態は改善され行内の関係者は更迭された。もう一方の主犯格、サンリーブスの布川は逃げ切れるのか――。

» 2020年11月17日 05時00分 公開
コンサルは見た!

登場人物

サンリーブス

ベンチャー企業。AIソフトの開発を得意としていたが、最近はさまざまな案件を請け負っている

sawano

澤野翔子

イツワ銀行勘定系システム刷新プロジェクト、サンリーブスチームのプロジェクトマネジャー。原籍はA&Dコンサルティング。米国勤務から帰国後、本プロジェクトに出向。プロジェクト内に横行する偽装請負に激おこ中

sakurada

桜田みずき

イツワ銀行勘定系システム刷新プロジェクト、サンリーブスチーム、メンバー。優秀なエンジニアで愛想も良く、イツワや他ベンダーの仕事も手伝ってあげちゃう系。その親切心がアダとなり、他社のテストデータを消失させてしまう

noguchi

野口勇介

イツワ銀行勘定系システム刷新プロジェクト、サンリーブスチーム、サブリーダー。仕事はきちんとこなすが、良くも悪くも周囲との調和を重んじるタイプ。カツカレーはフォークで食べる派

fukawa

布川幸弘

10年前に2人のAIエンジニアと共にサンリーブスを立ち上げた創業社長


A&Dコンサルティング

大手コンサルティングファーム

misaki

江里口美咲

ITコンサルタント。澤野翔子の後輩。「コンサルはミタ」シリーズの主人公


東京リアルエステート

サンリーブス株主

ooya

大矢和彦

会長。創業当初に買ったサンリーブスの株を幾らか持っている。政財界にも広い人脈を持つ経済界のフィクサー

前回までのあらすじ

偽装請負による過重労働などが原因で崩壊寸前の「イツワ銀行」の勘定系システム刷新プロジェクト。パートナー企業「サンリーブス」プロマネ澤野のために後輩の江里口と白瀬が仕掛けたディールにより、イツワの担当者は左遷され、サンリーブスの布川創業社長は株の売り抜けに失敗した。江里口たちは、サンリーブスのエンジニアたちを救うことはできるのか。

うちの会社、大丈夫ですか?

翌日の朝、およそ2週間ぶりに桜田みずきがイツワのシステム室内にあるサンリーブスプロジェクトエリアに現れた。

 「澤野しゅにーん♪ ご心配をお掛けしましたあ」

 そう言って頭を下げるみずきは、顔色も良く、すっかり元気を取り戻したようだ。

 「元気になったみたいね。良かったわ」

 翔子がほほ笑んだ。

 「おお、戻ったか。良かった良かった」

 そう声を掛けたのは、真っ白に洗濯したワイシャツを着た野口だ。

 「あのお……プロジェクトの方はあ……」

 遠慮がちに尋ねるみずきに、西城が笑顔で答えた。

 「安心しろ、リリースが3カ月伸びたんだ。おかげで何とか人間らしい生活に戻れたよ。イツワからもよそからも作業依頼はなくなったし」

 「頭取の鶴の一声で、プロジェクトが正常になったの。さあ、これからリリースまで、しっかりと働いてもらうわよ」

 翔子はそう言うとみずきの肩を軽くたたいた。

 「でもお……」

 「何?」

 「サンリーブスの株価が激下がりしてるって友達が言ってたんですけど、大丈夫なんですかあ?」

 「う……ん」と、翔子は少し考え込むように黙ってから話し出した。

 「みんな、ちょっと聞いてくれる?」

 メンバー全員が翔子に注目した。

 「こんな場所で言うのもなんだけど、今後サンリーブス株は、ほとんど紙くずになるかもしれないの」

 「えええ!」

 ほぼ全員が同時に声を出した。

 「あまり大きな声を出さないでね。よその会社にあまり聞かれたくはないから」

 翔子はそう注意してから、話を続けた。

 「実は、サンリーブスの偽装請負が株主たちにバレたらしくて、株が投げ売り状態になってるの。今日の寄り付きはいきなり1000円を割ってるし、もう歯止めが利かない。多分、買う人がいなくて、売りたい人がいても取引不成立でしょうね」

 野口が声を潜めて翔子に尋ねた。

 「じゃ、じゃあつぶれるんですか? ウチの会社」

 その言葉に、その場の全員が息をのんだ。

 「かもしれない。でも、私の知り合いによるとね、みんなの技術力を高く評価してくれる人が株主の中にいて、最終的にはその人が救ってくれるだろうって」

 「じゃあ、会社は残るんですか?」

 「ええ。そうなるはず。でも……」

 「でも?」

 「今回の件、みんなが苦労したのは、誰のせいだと思う? 偽装請負を社員に押し付けて、株価が上がるのを喜んでいた張本人は?」

 メンバーたちが顔を見合わせ、みずきがおずおずと答えた。

 「布川社長……ですかあ?」

 「そう。今後のサンリーブスには絶対いてはいけない人。だから今のこの株の下落は、布川社長をサンリーブスからふるい落とすために株主たちがやっていること。そう思って間違いないわ」

 「……じゃあ、いい会社になるんですね?」と、西城が尋ねた。

 「もちろんよ。みんな優秀なんだから!」

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