私のふんどしで相撲を取らないでください「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(82)(3/3 ページ)

» 2020年11月24日 05時00分 公開
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無条件に使えるというわけではない。

 裁判所は「被告Yに不法行為は認められない」とした。判決文からその理由を抜き出して整理する。

  1. データが公開されており誰もが収集可能であること
  2. データを収集する者にデータ提供者の権利を侵害する(しようとする)認識がなかったこと
  3. データ提供者に販売機会を失うなどの損害がなかったこと

 皆さんはこれを当然の判決だと思われただろうか。「インターネットで公開するからには、それをどのように利用されてもとやかくは言えない、データは皆のモノだ」と解釈する人もいるかもしれない。しかし私には、それは少し早計に思える。前述したエクスキューズというのはこの点だ。

 もしも、「インターネットで公開されている情報ならどう使おうと自由だ」という理由だけで不法行為はないと断じるなら、上述の「2」や「3」をわざわざ述べる必要はない。

 しかし判決を見ると、それ以外に、「データを収集する行為が、データ提供者の権利侵害に当たるとは知らなかったということ」、そして「実際に権利侵害がなかったこと」が示されている。裏を返せば、いくらインターネットに公開されているデータあっても、「それを収集して活用することがデータ提供者の権利侵害に当たる」と分かる状態であったなら、場合によっては不法行為に問われることがあるということになる。

 今後データを収集する際には、「公開されているデータなら、何でも無条件に使える」というわけではないことに、十分に注意したい。

 一方のデータを公開する側は、もしデータを勝手に利用されたくなければ、何らかの制限をかけることが有効となるかもしれない。

 方法は幾つかあるが、一番簡単なのは、サイトの目立つところに「本サイトから取得したデータを営利目的で利用することを禁じます」とか、「複製や二次利用は許諾しません」などと書いておけば、本件のようなデータ収集者は自分の行為が「2」や「3」に当たることに気付くだろう(大切なのは、こうした文言を誰もが気付く位置に、ある程度目立つように書いておくことだ)。

 もちろん、判断は裁判所によって異なることもあるし、絶対の原則というわけでもない。しかし、データを勝手に利用されたくないのなら、この程度のことは行っておかないと、今回の事件のように、納得感のないままデータを不本意に使われ続けることになる。

 インターネット上のデータは、何でも自由に使えるし、使われると思われがちだが、実際には全てが無条件にというわけではない。使う側には注意が必要だし、使われる側には守るための手段があるのだ。

細川義洋

細川義洋

政府CIO補佐官。ITプロセスコンサルタント。元・東京地方裁判所民事調停委員・IT専門委員、東京高等裁判所IT専門委員

NECソフト(現NECソリューションイノベータ)にて金融機関の勘定系システム開発など多くのITプロジェクトに携わる。その後、日本アイ・ビー・エムにて、システム開発・運用の品質向上を中心に、多くのITベンダーと発注者企業に対するプロセス改善とプロジェクトマネジメントのコンサルティング業務を担当。

独立後は、プロセス改善やIT紛争の防止に向けたコンサルティングを行う一方、ITトラブルが法的紛争となった事件の和解調停や裁判の補助を担当する。これまで関わったプロジェクトは70以上。調停委員時代、トラブルを裁判に発展させず解決に導いた確率は9割を超える。システム開発に潜む地雷を知り尽くした「トラブル解決請負人」。

2016年より政府CIO補佐官に抜てきされ、政府系機関システムのアドバイザー業務に携わる

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