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» 2020年12月14日 05時00分 公開

企業内技術者も一度は読みたい「デジタルガバメント推進標準ガイドライン」の“勝ちパターン”政府CIO補佐官が説く「デジタル改革」の具体像(2)

政府のデジタルトランスフォーメーション(DX)を考え、民間企業にも通じる知見を共有する本連載。今回は政府が作成し、ガバナンス強化のために活用している「デジタルガバメント推進標準ガイドライン群」を解説します。

[ITプロセスコンサルタント 細川義洋,@IT]

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プロジェクトごとにバラバラなITプロセスが課題

 読者の皆さまは「デジタルガバメント推進標準ガイドライン」をご存じでしょうか。ITを企画、立案、調達する場面から、開発(あるいは導入、利用)、テスト、検収、運用、保守に至る一連の活動について、そのプロセス(段取り)や規則、役割と責任などを政府が規定したものです。

 ITは建築や製造業とは異なり、段取りが整備されておらず、個々がそれぞれの流儀で進めています。そのため、製品の品質にバラつきが出てしまいます。ある会社が「当然作るべき」と考える設計書を他の会社は知りません。ある人が必須と考えるレビューやテスト項目を他の人は平気で飛ばします。これらが頻繁に起きる結果、バグだらけのシステムやせっかく作ったのに使われないシステムができてしまうのが、現在のITです。

 ITに関するプロセスが世の中全体で、しっかりと定まっていないことを象徴する出来事として以下のような裁判例もあります。

あるシステム開発においてベンダーが納入したシステムに対してユーザーは費用の支払いを拒んだ。理由は、納入されたシステムに不具合が多数残存していることだったが、東京地方裁判所はこれについて、「一般にソフトウェア開発においては、プログラムに一定程度の確率でバグが生ずるのは不可避であって、納入後にデバッグすることを予定せざるを得ないものであるところ、仮に、ユーザー主張の上記画面(不具合の残存する画面)が、本件システムの納品および検収の際に残存していたとしても、ユーザーがこれを指摘すればベンダーにおいて遅滞なく補修を行い得ることは明らかであって、そのような場合をもって納品物に瑕疵(かし)があるとか、まして本件システムが未完成であるなどということはできない」と述べて支払いを命じた。

(東京地方裁判所 平成24年2月29日判決より)

 この判例が示すのは、そもそもIT開発において、何が「仕事の完成」に当たるのかが、まだ世の中には認知されておらず、少なくともユーザーとベンダーが合意したプロセスがないことでしょう。これ以外にも「システムの完成は予定された工程が完了しているかどうかで判断する」「契約の目的に資するものが納められていれば不具合が残っていても完成である」などさまざまな判断基準があります。

 検収というごく限られた部分だけでも、誰もが納得するプロセスが存在しないことを象徴する例ではないかと思います。ましてシステムの要件定義や開発、テストあるいは契約事項も世の中の解釈はいまだにバラバラです。ITは何ができれば完成なのか、完成のためには何が必要なのか、これらに共通認識は存在しません。

政府のITプロセスもバラバラだった

 政府においても、ITの導入に関するプロセスについて共通認識がなく、おのおのが我流で、そして多くはITベンダーの担当者たちの知識に頼りきっていました(今はないとは言い切れませんが)。その結果、重要な不具合を見落としたままリリースしてしまうとか、業務に適していないとして誰も利用しないシステムもかなりあったと聞いています。

 一例を挙げると、企業からの申請を紙で受け付ける業務をオンライン化する際、申請の内容に誤りがあっても申請者が修正する機能を用意せずシステムをリリースしてしまったことがあるそうです。従来、紙で行われていた申請は、たとえ誤りがあってもその場ですぐに修正ができたため、業務マニュアルには修正に関する記載がありませんでした。それを頼りにベンダーが作ったシステムには申請事項の修正機能がなかったのです。通常、データの登録機能があれば、修正や削除も必要だと気付くはずですが、政府側の担当者もそこまで考えが及ばず、ベンダーも業務マニュアルしか見ていなかったので、初歩的なミスを犯してしまったのです。

 政府の職員は多くの場合、2年程度で別の部署に異動します。ITを学ぶには余りに短い時間で、結局、IT開発の現場には常に経験の浅いユーザーしかいないことになるわけです。ITを導入するために、どんな段取りが必要なのか、何をすべきで、何をしてはいけないのか、政府方針や法律との関係はどうなのか、それらを一気に学べというのは、いくら頭脳明晰(めいせき)な国家公務員でも無理があります。

 こうした背景を受け、ITの企画、立案、調達、開発、運用、保守のプロセスや役割、責任、チェック項目などをしっかりと定義し、経験のない役人でもこの通りにやれば必要なITを効率的に導入できて、ITベンダーもこれに準じて作業すれば一定の品質を担保できる文書を作ることになりました。それが「デジタルガバメント推進標準ガイドライン群」というわけです。この文書は「政府CIOポータル」というWebサイトでMicrosoft Word版、PDF版、HTML版が公開されています。

標準ガイドライン群の概要

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