「日本企業はDX不戦敗」というにはまだ早い、一歩踏み出すことから世界は変わる3日間の「ハッカソン」体験が逆転をもたらす

素早くマーケットに製品やサービスを投入し、改善していくために、企業には素早い意思決定と実行力が求められる。意思決定と製品やサービスの形に「具体化する」ことを支えるのに足るシステムの開発、改善サイクルをビジネススピードに合わせて構築することは、企業にとって不可欠の要素だ。このように言われ始めて久しい。製品、サービスの開発スピード向上のために、それを支える情報基盤の進化スピードが同じく最優先の課題だとして、組織全体でビジネスと情報基盤の変革、そしてそれを使う人、組織の改革に取り組んでいる企業とできていない企業の二極化が進んでいる。ではできていない企業はどうすればいいのか。GitHub Verified Partnerであるゼンアーキテクツ CTOの三宅和之氏と、日本マイクロソフト Senior Audience Product Marketing Manager - Developer Relationsの横井羽衣子氏が、その背景と変化のヒントについて語り合った。

» 2021年01月27日 10時00分 公開
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ビジネスとシステム開発にスピード感が求められる理由とは

――アプリケーションやシステムをより短期間で構築したり、改善サイクルを回したりすることが求められる背景について教えてください。

横井氏 技術環境と事業環境のどちらも素早く変化する今の時代において、先行する企業はリスクを取って新しい製品やサービスを市場に投入しています。つまり、いかにスピード感を持つかが、競争優位性を得る上で重要な鍵になってきていますよね。

 加えて、市場が成長し始めると、事業スケールの幾何級数的な増大にシステムが対応していく必要があります。システム負荷が増大するタイミングは読みづらいですし、手動で対応するにはどうしても限界があります。逆に、突然繁忙期が終わったときなど、システムの構成を戻す必要があります。こうした場合にフレキシブルに対応できるシステムが、超高速で変化していく時代に求められるのです。

 つまり、競争優位の鍵となるスピード感を持つこと、そして急拡大する事業スケールに対応する組織体制を用意しておくことの2つが背景にあり、短期間でアプリケーションやシステムを構築、改善するサイクルを構成する必要が出てきたといえるでしょう。

日本マイクロソフトの横井羽衣子氏(左)とゼンアーキテクツの三宅和之氏(右)

三宅氏 システム開発に、ビジネスと同レベルのスピード感が求められると最近よく聞きますが、私がシステム開発に関わるようになった20数年前から、全く同じことが言われてきました。ビジネス側がシステム開発に求めることは変わっていません。日本企業を取り巻く、重くて分厚い無駄なオーバーヘッドをいかに取り外し、現場が自然体で開発できるように誘導することが本質です。

横井氏 確かにアジャイルやDevOpsといった概念は昔からあったと思います。それをどうやって実現するのか、「具体的にどうしたら」という難所が、クラウド、特にPaaS(Platform as a Service)や、Serverlessテクノロジーの登場によって変わってきました。クラウド以前は「まずやってみる」という最初の一歩がなかなか踏み出せませんでした。サーバの調達などに時間がかかりましたし、何より「失敗できない」というプレッシャーがありましたから。けれどクラウドは、数億円するサーバ並み、下手をしたらそれ以上の計算資源をベースとしたサービスを、ほんの少しの対価で享受できます。「Microsoft Azure」については、まず無料アカウントでお試しいただくことができます。かなりのサービスがこの範囲に含まれています。やめるときも、ボタン一つです。

コロナ禍は無関係? スピーディーな開発を支えるツールを駆使

――以前からシステム開発にスピードが求められていましたが、クラウドの登場で開発スピードの向上が現場の課題になっている企業も多そうです。一方で、2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延により、リモートでのワークスタイルに取り組まざるを得ない状況になりました。ビジネススタイル変革に苦労した組織も少なくありません。どのように開発スタイルに変化がありましたか。リモート開発の課題やその解決策があれば、教えてください。

横井氏 GitHubと2020年11月に共催した「Remote Engineering DevOps Summit」では、Microsoft本社の「Microsoft 365」の研究開発チームの発表がありました。コロナ禍のリモートワークにおいて、どのように今までと変わらぬスピードで、生産性を落とすこともなく、開発を継続していたが分かりました。対面でのコミュニケーションがかなわない状況で、新たなコミュニケーションを実現する、つまり人をつなぐのはIT基盤とツールです。Microsoftであれば「Microsoft Teams」があります。Microsoft Teamsは、よくビデオ会議ツールのようにいわれますが、ビデオ会議は全体の一機能にすぎず、本質はファイル共有、チャットなどのさまざまな「コミュニケーションをつなぐ『ハブ』」となるサービスです。

 さらに、開発ツールである「Microsoft Visual Studio」や「Visual Studio Code」には、リアルタイムで複数人が同じコードを編集したり、デバッグしたりできる「Live Share」という機能もあります。それぞれの開発状況をリアルタイムで把握できるだけでなく、分担することができるのです。

 加えて「Azure DevOps」や「GitHub」などを用いて、より効率的に開発協同作業を進め、テストや運用環境にデプロイするプロセスを自動化することで、品質を担保しつつ、安全に素早くアプリケーションを開発、公開するために必要なサービスもあります。

 こうしたツールやサービスを活用することで、人が同じ場所に集まらなくても、それまでと変わらない開発スピードと品質を同時に実現しました。

三宅氏 プログラミングに関しては、リモートの方がシェアしやすいですね。それぞれ自分の画面で作業しながら「じゃ、こう直しましょう」とコミュニケーションできるからです。ホワイトボードは別途ツールを用意する必要がありますが、モブプログラミング、ペアプログラミング(※1)に関しては、リモートの方が間違いなく向いています。リモート開発の前に開発の効率化自体を考えると、CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー、※2)の実現のため、GitHubといったツールを使うメリットは大いにあります。

※1 モブプログラミング、ペアプログラミングとは、複数人のメンバーが同じPCと画面を見ながらプログラミングを進める開発手法。複数のメンバーが同じ開発画面を見ながら、実際にプログラムを入力していく役割の人とコードレビューや作業をサポートする人に分かれて開発する。ペアプログラミングの場合は、二人一組で役割を交代しながら開発をしていく。モブプログラミングの場合、コードレビューや作業をサポートする人が複数いる、いわばチームで一つの開発を行い、生産性の向上を図る。
※2 CI/CDとはソフトウェアの変更において、常にテストを行い、自動的に本番環境にリリースできる状態にすることをいう。

身近な問題をITで解決する「成功体験」をともに作るハッカソン形式ワークショップ“Azure Light-up”

――企業が組織としてツールを活用し、開発スピードを向上させる最初の一歩を踏み出すには、どうすればいいのでしょうか。

三宅氏 私の活動の原点は20年ほど前、銀行でシステム部門にいたときに自分でプロジェクトを立ち上げ、仲間と一緒に手を動かしていったことです。こういう、ITで何か身近な問題を解決する「成功体験」が必要ですし、それができれば、自分たちで開発するスタイルに素直に移行できると思います。

 その一助としてゼンアーキテクツと日本マイクロソフトが共催で実施しているのが「Azure Light-up Hackathon Workshop」(以下、Light-up)です。私が体験してきたことをプログラム化し、今の技術に置き換えた上でAzureを使って手を動かす体験をどんどんしてもらい、3日後には「これなら自分たちでもできるな」と自信を付けて巣立ってもらう取り組みです。

 重要なのはシステムがビジネスの課題、要件の一部であるというスタンスです。「AIをやりましょう」といった、「How」からではなくて、あくまでもビジネス上の目的を踏まえた上で考えるべきです。ここが逆転してしまうと、本来突き詰めるべきビジネス課題意識が失われ、システムを作り上げることを目標としてしまいがちです。その結果、頓挫してしまう例が後を絶ちません。

 ビジネス課題、目的をビジネス部門側がしっかり持った上で、技術がうまくはまると魔法のような成果が出ることはあります。しかし、技術はビジネスの課題を何とかしてくれる魔法のつえにはならないのです。

横井氏 Light-upはアジャイルのアプローチに、クラウド、それもPaaSをベースとすることで、素早い実装を可能にします。さらに将来、ビジネスの急激な成長により、指数関数的にシステム負荷が増大してもコストとパフォーマンスを両立して対応ができる柔軟なシステムを実現します。

 いわゆるハッカソンだと、モックアップを作るところまでになりがちですが、あえてMVP(Minimum Viable Product、必要最小限の製品)まで作り込むところがちょっと違うアプローチです。ここまでたった3日でできてしまいます。参加者にプログラミング経験がなくても、クラウドの経験がなくても、10社以上のお客さまの実績があります。

三宅氏 MVPを作ることによって、アーキテクチャのベースラインを作ることになるのです。つまり、ビジネス上の要件に対してどういったシステム構造や非機能要件を持っていれば、後からどんどん肉付けし、アジャイル的に機能をエンハンスできるかというベースの部分ですね。これがないまま、やみくもにスプリントをぐるぐる回しても、将来ビジネスが成長していったときに技術的な落とし穴にはまってしまって、大きく逆戻りしてしまう恐れがあります。

 ですからLight-upでは、そのアーキテクチャが自分たちのビジネスの課題と、その先の目指す目的にフィットするか、ベースラインになるのかを常に意識して構築するように誘導しています。だからこそ、CI/CDやGitHubも最初から導入し、自然体で入っていけるようにしています。

1つの成功体験がDXを加速させる、JFEエンジニアリングの「攻め」の例

――企業が内製で、開発スピードの向上に取り組み始めている事例はあるのでしょうか。

横井氏 JFEエンジニアリングの皆さんはLight-upに参加し、プログラムの中で部長さん自ら手を動かして画面を作成するといった体験をされました(※3)。「これまでプログラミングなんてやったことがなかったが、これなら自分たちでもできるんだ」という実感を持たれ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを加速させています。システムの内製化だけではなく、自分たちが作ったシステムの外販までしていますね。

三宅氏 私たちがお伝えしたことを、今度はJFEエンジニアリングのITチームが指導する側になって他の部署に伝え、どんどん新しいサービスを作り、スケールさせています。本当に「攻めている」と思いますね。

 逆にあまりお勧めできないのは、ただ単にアセットをオンプレミス環境からクラウドに変更するだけのような使い方です。これでは、DXの推進はもちろん、何も変わりません。パートナーのシステムインテグレーターにお願いしていたのと同じように、クラウドインテグレーターに任せっきりだったり……。

横井氏 全くお勧めできないのは、過去の成功体験に頼って、前に作ったものをそのままコピー&ペーストして……というのをやり続けることです。成功した時点でビジネスに求められていたこと、またそれを支えるシステムに求められていたことは、今でも同じなのでしょうか?

 何度も繰り返しになり恐縮ですが、最も重要なことは「ビジネスで何を大事にしたいのか」です。つまり、事業が急拡大する可能性があるなら、将来の拡張にそなえて、PaaSを選択するでしょうし、パフォーマンス、スケーラビリティ、セキュリティを向上させたいなら、データの書き込み先を「Cosmos DB」、読み取り先を「SQL Database」(RDBMS)に分けて、コマンドクエリ責務分離(CQRS)パターンアーキテクチャにしよう、といった具合です。その都度状況とその時点で求められている目的を踏まえた検討の手間を惜しまないことが重要なのです。

 納得感を得るには自社の課題に対して試しに適用してみることです。そこで、1日構成の「Immersion Workshop」という体験学習型のワークショップに、DevOpsテーマのプログラムを用意しました。3日間のLight-upだとなかなか腰が重いかもしれませんが、その前に「もし新しい開発プロセスを取り入れたら、自分たちのビジネスプロセスがどう変わるのか」を体験するきっかけになると思います。

三宅氏 Light-upでは初日からDevOpsのツールをばりばり使っていくので、やはりある程度の慣れが必要になります。Immersion Workshopでは、オープンソース開発で使われている実戦的な技術を、プロフェッショナルと一緒に一通り体験します。自分たちのビジネスに集中するための準備を、1日で整えることができるようにします。

――システムインテグレーターへの丸投げをやめようというお話もありましたが、これは企業の内製化を進めようということでもありますね。内製化が進んでいくと、顧客のパートナーであるシステムインテグレーターにはどのような変化が求められるのでしょうか。

横井氏 実は何でもかんでも内製化することが100%正しいアプローチだとは思っていません。もちろんビジネスロジックについては、自分たちで考えなければいけませんが、画面上にボタンを1つ加えたり、消したりするのにわざわざパートナーに見積もりを取って……というのは不毛ですよね。一方で、全部自分たちでいきなりできるかというと難しいでしょう。自分たちで考えるべきところはしっかり考え、手を動かせるところは動かしつつ、システムインテグレーターならではの専門性が生かせる部分にはプロに任せる“すみ分け”が重要だと思っています。

三宅氏 自社が一番分かっている部分、事業に直結する勘所は自分たちで手を動かさないといけません。逆にシステムインテグレーターには、例えばクラウドの細かな設定やトラブルシューティングといった、ビジネスの根幹ではないが専門的な部分をお願いするのがいいと思います。

 Light-upにはパートナーと一緒に参加された企業もいます。パートナーは最初難色を示されたそうですが、同じテーブルに座って、本丸のところは担当者が進めつつ、データジェネレーターのように必要なものをパートナーが作っていただくという役割分担を体験された結果、「これは自分たちもぜひやっていきたい」と言ってもらえました。

横井氏 システムインテグレーターの皆さんの立場では、「SIer不要論か」と思われるかもしれませんが、そうではありません。クラウド時代に合わせた、システムインテグレーターの皆さんにとっても新しいビジネスチャンスだと思います。クラウドがいかに使いやすく、身近になったとしても、すごく手間がかかったり、専門的な知識が必要だったりする部分は残るでしょう。そうした専門性の高い分野でこそ、システムインテグレーターの皆さんの力が発揮され、ますます求められていくのだと思います。

「不戦敗」と言うにはまだ早い、一歩踏み出すことから世界は変わる

――開発スピードの向上をDXの推進に結び付けるにはどうすればいいのでしょうか。

横井氏 DX、DXとよくいわれますが、実際のところ、皆さんその必要性はご理解いただいています。ただ、どこまで何をどうしたら、DXを実現したのかというさじ加減は、話す人それぞれで違います。私は、事業価値をデジタル由来に転換していくことだと考えます。そのためには、事業価値を生み出すまでの、意思決定から市場投入するまでのスピードを高めるための「支え」となる情報基盤が必要です。

 「それをどうやって実現していったらいいか分からない」という点が難所です。最近では「DXに乗り切れず、不戦敗の日本」といった論調の記事まで出ていますが、それはまだ早い。事業をいかに素早く市場投入するか、その事業が育ってきたときにいかに加速していくのかがポイントだと先に申し上げましたが、一昔前と違ってクラウドがありますし、3日でMVPレベルのものができてしまう事実があるわけです。まだまだ、チャンスはどこにでもあります。

 迅速なビジネス戦略の実現を支える情報基盤の実現に向けて何が必要なのかを把握する指針として、Microsoftはコストの最適化、オペレーショナルエクセレンス、パフォーマンス効率、信頼性、セキュリティという5つの柱からなる「Well-Architected Framework」(WA)を提供しています。

 ただし、いかに「Well-Architectedな情報基盤」をそろえたとしてもそれだけではうまくいきません。情報基盤は人が使ってこそ、競争力の源泉になるからです。さらに使い方だけでなく、会計、セキュリティ、ガバナンスといった観点も踏まえ、組織にどう展開していくかも考える必要があります。こうした組織展開における方法論については、過去、マイクロソフトのセンターオブエクセレンスチームの集合知をもとに、ベストプラクティスを体系化した「Cloud Adoption Framework」(CAF)という形でまとめています。会社全体に展開するにはどうしたらいいのかを考えるフレームワークとしてお使いいただけると思います。

三宅氏 実はLight-upの裏側にはWAやCAFといったフレームワークの考え方があります。まず試してみて少し進んでいった段階でフレームワークを意識していただくと、より組織的な導入につながっていくと思います。Immersion WorkshopやLight-upではそのための技術、いわば「武器」を渡して、背中を押しています。武器さえ与えればどんどん成長していくのは当然で、JFEエンジニアリングのような事例もこの1年で本当に増えています。

横井氏 3日である程度使える状態のモノが、手触りある体験とともに作り込めてしまうのですから、今からでも一気に既存のシステムを作り替えたり、新しいことに挑戦したりすることは可能です。あっという間にひっくり返せる時代だからこそ、既存の企業は進化し続けないといけないし、「今までできていないから、だめだ」なんて考えている企業さんも、そんなことはありません。日本マイクロソフトはそういったお客さんをお手伝いできればと思っています。まずやってみる、まず、1日でも手を動かしてどこまでできそうか、という手触り感を得ていただくところから、ぜひ始めていただけると幸いです。

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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2021年2月25日

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azurelightup@microsoft.com

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