阿部川 GOASTは、COVID-19にも応用できますか。
ジラルド博士 ある研究所が、コロナに対するワクチンをデザインしているとしましょう。ウイルスは人から人に感染する経路で突然変異を起こします。単一の、あるいは少量のウイルスに対するワクチンができたとしても、サンプル数が限られていたり、限定された地域や人に対してだったりする場合は、どうなるでしょうか。
阿部川 ある人や地域には効いても、それ以外の人や地域には効果がない……。
ジラルド博士 その通りです。性別や民族の違いなど、多くの要素が考えられます。ウイルスの進化につれて、ワクチンも進化する必要があります。ワクチンのデザインの有効性は、多くの要素を勘案した上でトライアルを数多く行い、できる限り多くのサンプルを作り出せるかどうかにかかっています。
ワクチンをデザインする過程の図です。左のマルはウイルスで、その遺伝子は横棒のような、直線的なDNAだとします。なるべく多くの列に対して、共通の保存領域を見つけるためにゲノム解析を行います。ウイルスは変異種になっていきますが、全てが完全に変わるわけではありません。図の黄色の部分は変化しないのです。これがウイルスのアキレスけんです。変化しないところが分かれば、ここに向けてだけ作用するようにワクチンをデザインできます。ウイルスの変種が出るたびに、この保存領域を見つけなければなりません。
GOASTが解決しようとしているのは、研究者がこの保存領域を見つけるために多くのケースを手掛けられること、しかもそれをより早くできること、それもウイルスが変異するよりも早くできることです。
これが実現すれば新薬を発見できる可能性を高め、期間を短くできます。より多くのゲノム解析ができれば、より有効なワクチンの開発が可能になり、患者を減らせ、より開発期間を縮められます。
阿部川 COVID-19への対策として、ジラルドさんが具体的になさっていることはありますか。
ジラルド博士 私は、COVID-19と戦っている研究者のサポートを行っています。以前は私自身が研究者で、まさに保存領域に関する研究も行っていたので、そのときの感染症に関する知見と、現在持っているハードウェアやソフトウェアの知見を、トライアルを行いたい組織に提供しています。特に高速データ処理ができるHPCは不可欠です。
彼らがどのようなHPCが必要か、ハードウェアは何が必要か、あるいはカスタマイズしたソフトウェアは何が必要かなどを、多くのプロジェクトにコンサルタントやアドバイザーの役割で関わっています。
米国の大学で博士号過程まで進み、超エリートコースを歩んできたジラルド博士。だが、その道のりは常に“三重苦”との闘いだったという。2021年2月25日掲載の後編では、博士がいかに苦難を乗り越えてきたのか、そしてわれわれはどのように未来を切り開いていったらいいのか、熱いメッセージをいただいた。
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