「管理職」をネガティブに捉えるのがもったいない理由――古川陽介氏、和田卓人氏、松本亮介氏らが語るスペシャリストまでの歩み「Engineer Career Study #1」レポート(1/2 ページ)

キャリアの問題が「エンジニア35歳定年説」として議論されて久しい。では、ITの最前線で活躍するエンジニアはキャリアをどう考えているのか。2021年1月下旬にForkwellが主催した「Engineer Career Study #1」でITの最前線で活躍する古川陽介氏、和田卓人氏、松本亮介氏らが語った。

» 2021年03月26日 05時00分 公開
[石川俊明@IT]

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 技術スキルの専門性を高めていきたい、業務でコードを書き続けてスペシャリストになりたいと考えていたものの、組織や給与の事情から管理職(マネジャー)になる――こうしたキャリアの問題が「エンジニア35歳定年説」として議論されて久しい。

 ITの最前線で活躍するエンジニアは管理職、スペシャリストというキャリアをどう捉えているのか。そして最前線で活躍するスペシャリストはキャリアをどう歩んできたのか。2021年1月にForkwellが開催した「Engineer Career Study #1」の講演の内容を要約してお伝えする。

古川氏「スペシャリストや管理職が比較されるのに違和感」

 Node.jsコントリビューターとして国内外で活躍し、リクルートでスペシャリスト兼シニアマネジャーの肩書を持つ古川陽介氏は冒頭の基調講演で、「キャリアの選択肢としてスペシャリストや管理職という役割が比較されていることに違和感がある」と語った。

リクルート APソリューショングループ マネジャー 兼 シニアソフトウェアエンジニア 古川陽介氏 リクルート APソリューショングループ マネジャー 兼 シニアソフトウェアエンジニア 古川陽介氏

 「一般企業においてスペシャリストは個人で成果を出す人、マネジャーは組織を運営して成果に責任を持つ人とされているが、現在のソフトウェア開発ではその境界線が曖昧だ。マネジャーはソフトウェア開発に関する専門的な知識が不可欠で、進化の早い業界ではスペシャリストとマネジャーは対立する概念ではないと考えている。例えば、スペシャリストであっても指導をしたり育成したりする機会はあり、マネジャーであってもコードを書く機会があるからだ。対立、相反していると扱われていることに違和感がある」(古川氏)

 古川氏はリクルートで設計やプロトタイプ開発を主軸としつつ、メンバーの手助けとなるようなライブラリの開発やオープンソースソフトウェア(OSS)のコードに踏み込んだ調査、改善を実施。他にはメンバーのタスクアサインや採用育成、勉強会やハッカソン、社内のエンジニアコミュニティーを盛り上げていくためのマネジメントにも取り組んでいるという。

 「スペシャリストとマネジャーの両方に取り組むことは容易ではない。周囲のメンバーを優秀にさせるには育成と採用の両方を頑張る必要があり、一朝一夕でできるものではない。鶏と卵みたいな関係だといえる」(古川氏)

 組織の力を強めていくため、スペシャリストとしてチームがアウトプットしたものを社外に共有してコミュニティーに還元する一方、マネジャーとして会社に興味を持った人に声を掛けて採用したり、メンバーを育成したりしてチームに還元していく活動をしていった。

アウトプット、採用、チーム還元を繰り返していった アウトプット、採用、チーム還元を繰り返していった

 古川氏は「マネジャーに対する古典的な印象だけでネガティブに考えるのはもったいない。スペシャリストとマネジャーを両方やる大変さを乗り越えることで、ITエンジニアとして取り組めることが広がっていくはずだ」と助言した。

スペシャリストになるには? 古川氏が考える3つのポイント

 基調講演の後半で古川氏は、経験談を踏まえつつスペシャリストになるための条件を語った。2018年に古川氏が発表した『エンジニアになる覚悟』に挙げた「アプリケーションを作ろう」「非機能要件にこだわろう」「知識に垣根は作らない」を前提とした上で3つのポイントを挙げた。

 1つ目は自分の責任にすることだ。「技術的に起きている変化を誰かが対応、対処すると思って任せるのではなく、当事者として責任を持ってやることが大切だ」とし、自身の身に起きた出来事を振り返った。

 「Node.js日本ユーザーグループの代表になったとき、Node.js本体の開発は停滞し、『io.js』への分裂騒動も起きた。自分に何ができるだろうと考えたとき『この混乱を止めなければ』と思った。そこでグローバルで起きていることを日本に伝えるのではなく、日本での取り組みをグローバルに発信したり、Node.jsやio.jsの開発状況の橋渡し役として変更の差分を小さくしたりするよう取り組んだ。結果として2015年にNode.jsとio.jsは統合され、その活動をきっかけにNode.jsのコアコントリビューター兼エバンジェリストになることができた」(古川氏)

 2つ目は息を吐き続ける(アウトプットし続ける)ことだ。

 「アウトプットし続けることが重要だ。アウトプットし続けるためにはインプットも継続する必要がある。先述した騒動のときも、グローバルにやることを意識しており、海外カンファレンス登壇を目標に活動していた。日本から世界に向けてアウトプットする場合、アウトプットする質を変えるためインプットも重要になった」(古川氏)

 3つ目は、何かしらのチャレンジを続けるということだ。古川氏はJapan Node.js Associationの一般社団法人化、「JSConf.JP」の開催など新たな領域にチャレンジしてきた点を挙げて講演を締めくくった。

 「今まで取り組んでこなかったような領域にチャレンジしてきた。またマネジャーとして忙しくなりコードを書く時間がなくなってしまったが『Write Code Everyday』を意識して学習サイトの『Leetcode』で問題を解くなど、できる範囲でコードを書く習慣を維持させることに取り組んでいる」(古川氏)

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