第251回 外部ファブの活用も、Intelの新製造戦略「IDM 2.0」の背景頭脳放談

半導体不足が叫ばれる中、火災や停電などでもファブの操業が止まるなど、踏んだり蹴ったりの半導体業界。そんな中、Intelが約2兆円をかけて、半導体工場を新設する。さらにこれまで否定的だった外部ファブの活用も行い、生産能力を向上させるというという。こうした戦略転換の背景を解説する。

» 2021年04月16日 05時00分 公開

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Intelの新CEO、Pat Gelsinger氏のプレゼンテーション Intelの新CEO、Pat Gelsinger氏のプレゼンテーション
Intelの新CEO、Pat Gelsinger氏の「Intel Unleashed: Engineering the Future」というタイトルの戦略説明ビデオより。Pat Gelsinger氏が「IDM 2.0」と呼ぶ新しい製造体制について説明しているところ。

 頭脳放談「第249回 半導体が足りないのはTSMCに製造委託が集中しているせい? のウソ・ホント」で半導体不足の件を取り上げさせていただいた。その後改善するどころか、不足が加速するような事件の勃発が続いている。

次々と起きる災害でファブが停止

 米国では、テキサス州の大停電の影響から欧州半導体大手(欧州とはいっても米国企業をM&Aした結果だと思う)のNXP SemiconductorsInfineon Technologiesのファブ(半導体工場)が停止した。

 日本では、2020年10月20日の旭化成エレクトロニクス(AKM)工場火災に続き、2021年3月19日には車載半導体の本丸でもあるルネサス エレクトロニクス那珂工場でも火災が発生した。

 そして、台湾では水不足が製造に暗い影を落としている中、TSMCのファブでも火災である。

 まさに半導体製造が「踏んだり蹴ったり」の状態である。そしてデマンドは強い。車載半導体に限らず供給は逼迫(ひっぱく)している。

 復旧でも明暗があり、ルネサス エレクトロニクスのファブは「入れ物」としては復旧のメドが立ったようだ。ただ、予想以上の台数の製造装置の入れ替えが必要になったらしい。

 一方、AKMのファブは再建断念というニュースが流れていた(AKMは、プレスリリース「半導体製造工場の復旧に関する一部報道について」にて、復旧に関しては検討中であるとしている)。

 一般に半導体工場は3段重ねになっていて最上部に「フィルター(空気清浄機に使われているのと同じもの)」が大量に詰め込まれている。その下に製造装置の階があり、一番下は暗い「空洞(製造装置の階の空気を静かに吸い取り、湿度調整などしてフィルターに戻すための装置などがある)」である。

 報道写真などを見ると、工場建屋の屋根の一部が崩落しているようだ。最上階もひどく燃えたのだと想像する。それに製造装置の階(一般の建物の3〜4階くらいの高さがある)の外壁には装置の出し入れなどに使う非常用の大きな扉(通常は締め切られている)があるのだが、これが開け放たれ、真っ黒なススがこびりついているように見える。ここまでくると直すよりは、新規に作る方が現実的だということだろう。

Intelが2兆円をかけて工場を増設

 半導体不足が自動車など各種産業に悪影響をもたらす中、米国バイデン政権が米国の半導体製造にお金を出す決定をしたらしい。車載半導体不足に困ったというレベルの認識ではない。半導体の安定供給は、国家経済と安全保障の両面から必須という認識なのだろう。米中対立が激化する中、ハイテク製品と技術で中国を締め上げている米国からすれば、中国の出方によっては、アジアでの製造が世界の大半を占める半導体が国家の弱点になりかねないという認識があるのだと思う。

 さてそんな中、Intelの「出戻り」新CEOのPat Gelsinger(パット・ゲルシンガー)氏が、「Intel Unleashed: Engineering the Future」と銘打って新戦略を発表した(Pat Gelsinger氏の発表ビデオ「Intel Unleashed: Engineering the Future」)。発表媒体のメインは約1時間のYouTubeビデオである。Intelが勝負に出た感じがする。

 その核は「IDM 2.0」と銘打つ製造体制だ。本気度は疑う余地はなさそうだ。その投資額20ビリオンドル(約2兆2000億円)である。これで米国アリゾナ州に2つの先端ファブを増設するということだ。ザックリと1工場が1兆円である。落ち目の日本半導体でこの投資ができるところはないだろう。膨大な金額に見える。しかし、業界最大手TSMCは3年間で11兆円を投資するという報道である。「兆円単位」が今日の先端の半導体工場の投資金額の相場という感じだ。

工場を増設するオレゴン州のIntel製造工場 工場を増設するオレゴン州のIntel製造工場
約2兆円を投資して工場を増設するのは、既にFab 42などが存在するオレゴン州の敷地。写真は、Intelのプレスリリース「インテル コーポレーション CEO パット・ゲルシンガー 製造、イノベーション、製品リーダーシップの確立に向け『IDM 2.0』戦略を発表」より。

 発表された戦略は、過去と断絶があるような突飛(とっぴ)なものではない。しかし説得力はある。現在、最先端の半導体プロセスで製造できそうな会社は、台湾TSMC、韓国Samsung Electronics、そしてIntelの3社に絞られている。

 しかし、Intelは度重なる最新プロセスの開発遅延と製造の遅れから、「製造から脱落し、外ファブ化するのではないか」というニュースが2020年に流れたくらいの状況である。Intelは、この「IDM 2.0」という新戦略で、あくまでIDM(Integrated Device Manufacturer:垂直統合型デバイスメーカー)であることを貫くと宣言したのだ。

Intelの新戦略「IDM 2.0」とは

 ここでIntelが脱落してしまえば、米国の安全保障も画餅と化す。柄にもなくというべきかもしれないが、いまや半導体の製造戦略は国家の戦略とリンクしているように見える。その成否は、兎(と)にも角にもIntelの7nmプロセス(そしてそれに続く未来のプロセス)が、健全でよいもので、計画通りに量産していけるという点にかかっている。これまで繰り返されたように、ズルズルと遅れて製造しきれないとなると巨大な投資は巨大な負債に変わってしまう。

 IDM 2.0という戦略が、単なるIDMと違うのは、外部のファウンドリと対決しよう、という方向ではないことからもうかがえる。自社製造・自社製品が1本目の柱である他に、2本の柱を立てている。2本目の柱が外部ファウンドリの活用だ。2020年から、Intel社内とファウンドリ(TSMCか?)で検討されていたのであろう製造委託の件もそのまま進めるということだ。

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