連載
» 2021年06月04日 05時00分 公開

「ゼロトラストネットワーク」を見据えた抜本的な刷新「VDIとFAT PCのマルチ環境」の取り組みリクルート5万人のテレワーク/VDI環境大解剖(終)

リクルートにおけるVDIの導入、運用、コロナ対応、そして今後のICT環境を紹介する連載。最終回は、現在取り組んでいるVDIとFAT PCのマルチ環境についてお伝えする。

[石光直樹,リクルート]

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 リクルートにおけるVDI(Virtual Desktop Infrastructure、仮想デスクトップインフラ)の導入、運用、コロナ対応、そして今後のICT環境を紹介する本連載「リクルート5万人のテレワーク/VDI環境大解剖」。前回は、次期PC環境として「VDIとFAT PCのマルチ環境」を選択することになったいきさつをお伝えしました。最終回となる今回は、そのマルチ環境の現在の取り組みを紹介します。

新たなプロジェクトの発足

 「VDIとFAT PCのマルチ環境を作る」という方針は、いままでのVDIメインの世界から大きく変更することとなります。なぜこのような世界を目指すのかについては、これまで述べてきた通りなのですが、この結論に至るまで多くの時間をかけました。ここがリクルートらしいところかなと思うのですが、トップダウンで決まった話では全くなく、議論の中で浮かび上がってきた世界観でした。

 VDIのEOSL(End Of Service Life:サポートやサービスの終了)対応をどうするのか――上から下から、かんかんがくがく半年以上にわたる議論の末、FAT PC端末のコストなどITコストが上がってしまう部分もありましたが、将来への投資、業務を支える基盤への積極的な投資を経営陣も後押ししてくれました。

 そして、VDI導入時の学びを生かしながらマルチ環境を構築して、移行を推進するプロジェクトを発足させました。VDI導入時の反省点は、連載第1回で述べた通り、“VDI利用のライフサイクル”の考慮が欠けていた点と、“変革のマネジメント”が必要だった点の2つでした。“VDI利用のライフサイクル”については既に構築しており、FAT PCについても、一部導入していたので、申請〜利用〜返却までのFAT PC利用ライフサイクルの検討とシステム化も完了していました。今回特に着目したのは、“変革のマネジメント”でした。

 「PC環境が変わる」のは、ユーザーにとっては非常に大きな出来事です。ネットワークがつながらないところでは使えなかったり、ビデオ会議で音声や動画が劣化したりと、VDIのデメリットはありましたが、同時にメリットもたくさんありました。コロナ禍において、VDIによって社内にいるのと同じように自宅からも業務に従事できること、在宅勤務中心になってもトラブルなく使い続けられていることに対し、ユーザーから感謝のメッセージもたくさん頂きました(その裏には、連載第3回で述べたような大変さもあったわけですが……)。

 ただし、そうしたユーザーに対して環境が変わることについてきちんと説明しないと、混乱につながってしまいます。そこで、「なぜこのような環境に切り替えることに至ったのか」や、目的、狙いについてプロジェクト内で改めて議論しました。ユーザーに対して納得感ある形で社内説明資料などをまとめて、各部署の主要なユーザーに向けて情報を発信していきました。

 今後の移行時には、さらに分かりやすい資料の共有や移行マニュアルの整備などを行い、社内広報の体制も整えていきたいと考えています。

VDIとFAT PCのマルチ環境の実現に向けた検討

 マルチ環境の実現は簡単なことではありません。特にFAT PCの環境をどう作るのかについては、時間をかけて検討しました。まずは、VDI導入により大幅に解消された“3つの課題”、すなわち「セキュリティの向上」「PC管理コストの削減」「働き方変革への貢献」の対応策をFAT PCでどのように実現するか。これが次の課題です。

 「セキュリティの向上」については、高セキュリティ業務にはセキュアVDIを提供し続け、FAT PCに対しては従来よりもセキュリティを強固にすることにして、この課題をクリアしました。

 続いて「PC管理コストの削減」では先述の通り、VDI化によって大きなメリットを得られた部分でした。例えば、夜間にパッチを当てたりできるのは、システム管理担当者からすると非常にメリットになります。ところが、FAT PCに切り替えると、このメリットは享受できなくなってしまうことから、VDI導入時に刷新したPC管理システムをFAT PCにも導入することで一定の解決を図るのに至りました。VDIの導入前に使っていた“お手製”のPC管理システムでは、パッチ当てやOS更新などが大変でしたが、最新のPC管理システムを導入することで、かなり容易になっていたからです。とはいえ、VDIの管理性には劣ります。この点は、中長期視点でのより良い環境を目指すために、優先度を下げた部分といえます。

 そして「働き方変革への貢献」については、先述の通り、昨今の状況を踏まえると、ビデオ会議をより活用できるFAT PCの方がメリットを引き出せるのではないかと考えました。ただし、FAT PCに切り替えることで、いままでとはネットワークの流れ方が変わってきます。VDIでは、データセンターと端末の間でやりとりされるのはVDI画面のデータが中心でしたが、FAT PCではさまざまな実データがやりとりされることになります。また、社外などから社内にVPN接続をする必要があり、その部分がボトルネックになりがちです。その問題に対しては、ネットワークを再検討することで解決を図ることにしました。われわれの社内ネットワークはVDIに最適化されていたので、FAT PCの増加に合わせて拠点のネットワークを増強したり、VPNを増強したりすることを検討しました。これにより、働き方変革で求められていたテレワークの要件に対しても十分応えることができると考えていたのです。

 しかしながら、この方針は大きく変更を余儀なくされることになります。その理由は2つあります。1つ目はコロナ禍の影響、2つ目はネットワーク技術動向の影響です。

 社内ネットワークの再検討はコロナ禍の影響を強く受けることになりました。在宅勤務の方針が示されたことで、社内からの接続が減る一方、リモート接続が増え、社内のネットワークトラフィックの在り方が大きく変わってしまったからです。コロナ禍が続く中で、そしてアフターコロナでそういった状況がどうなるのかについては予測が難しく悩みました。単純に拠点のネットワーク、特にWANを増強したとして、使われなくなるなら投資が無駄になってしまいます。また、ネットワークにおいては今後のトレンドとして「ゼロトラストネットワーク」が注目されてきています。おそらく、われわれの目指す「クラウド&マルチデバイス環境」を支えるネットワークは「ゼロトラストネットワーク」になることでしょう。

 では、いま「ゼロトラストネットワーク」のようなネットワークを入れるべきなのか。それともいまは暫定構成にして将来的に「ゼロトラストネットワーク」に移行できるようにするのか――。

 コロナ禍で勤務の環境が急速に変わってきていることも踏まえて、この点を検討しなければならなくなりました。いまもまさに検討しているところで、いまだに完全な結論は出ていませんが、現時点ではPC環境と同じく、将来的には「ゼロトラストネットワーク」に移行できるように、いまのネットワーク構成を考えるべきと思っています。

変化に対応して、かつ自ら変化を引き起こす

 さらに、FAT PC導入においては大きな変化があります。それは「SAC」(Semi-Annual Channel、半期チャネル)の導入です。

 VDI環境においても「Windows 10」の導入は完了していましたが、「LTSB」(Long Term Servicing Branch)を導入していました。頻繁な更新を望まないユーザー向けに作られた、機能更新がない固定的なWindows 10のモデルです。これに永続ライセンス版の「Microsoft Office」を組み合わせて利用していました。

現在の名称は、「LTSC」(Long Term Servicing Channel、長期サービスチャネル)

 これは、「レガシーアプリが存在するので、機能更新がないOSの方がいい」と思っての選択でした。しかし、機能が更新されないので、OSやOfficeの最新機能が利用できないなど、将来的には「Microsoft 365」への接続も制限されるような状況でした。

 他方、SACならOSやOfficeが常に最新の状態になります。そのため、半期あるいは1年に1回程度のペースで機能が大きく更新されます。IT部門としては、機能更新時に社内アプリケーションの動作確認などをする必要があり、PC管理タスクが増えてしまうことになります。PC運用コストの増大につながり得るので、VDIからFAT PCに切り替える際の検討ポイントの一つでもありました。しかし、ここでもわれわれは中長期視点を大事にしました。

 今後の「クラウド&マルチデバイス環境」においては、環境が常に最新になる世界が普通になるでしょう。いまのスマートフォンを見てもそうですが、OSはどんどん更新されて、次々と新たな機能やサービスが利用可能になるのがむしろ普通であり、その波がPCの世界にも到来しているのです。PC運用コストが上がったとしても、われわれもこの波に乗って、ユーザーに対しても新機能やサービスを次々に提供していき、より良く業務を行ってもらえるようになればすてきだなと思いました。

 そこで、VDIからFAT PCへの切り替えに際して、OSのモデルもLTSB(LTSC)からSACに変更することにしました。PCが最新に変わっていくSACのような世の中の変化に対応しながら、われわれの環境においても変化を引き起こして業務を変えることができればと思い、現在、導入を進めています。

VDI基盤の抜本的な刷新

 ここまでは大多数のユーザーが利用することになるFAT PCのことを中心に述べてきましたが、セキュアVDIと特定用途VDIとして利用するVDI基盤のリプレースも大きな仕事です。

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