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» 2021年06月29日 05時00分 公開

タイトーに聞く、データ分析基盤の導入効果――スマホ向けゲームで年間480時間の工数削減ものになるモノ、ならないモノ(90)

タイトーが手掛けるスマートフォン向けゲーム「ラクガキ キングダム」で使われているデータ分析基盤ツール「trocco」を例に、注目の集まるデータ分析基盤構築とその効果について話を聞いた。

[山崎潤一郎,@IT]

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 アミューズメント施設やモバイルゲームを手掛けるタイトーが、スマートフォンゲーム向けのKPI分析・可視化基盤を構築した。今回の分析基盤は、ETL/ELT(抽出、変換、ロード/抽出、ロード、変換)ツールとしてprimeNumberの「trocco」、データウェアハウス(DWH)とBI(ビジネスインテリジェンス)ツールに、それぞれ、「Google Cloud Platform」(GCP)の「BigQuery」と「データポータル」を導入した。システムの構築は、GCPの導入に実績のあるクラウドエースがサポートした。本稿では、タイトーが構築した分析基盤を通じて、データ分析基盤の導入効果を考察してみたい。

スマホゲームでは、KPI分析が売り上げに直結する

 分析基盤は、2021年1月リリースのスマートフォン向けゲーム「ラクガキ キングダム」のサービス開始と同時に運用を開始した。ラクガキ キングダムは、自分で描いたイラストがゲーム内で、オリジナルのキャラクターとして3D化され、育成やバトルを楽しむという内容だ。

「ラクガキ キングダム」では、自分が書いたイラスト(左上)がゲームに登場する(提供:タイトー)

 タイトー開発統括本部 開発4部 プロデューサーの下里陽一氏は「ゲーム内でのユーザーの動線や行動は予測できない。効果的で売り上げに直結するゲーム内イベントを実施するためには、KPI分析が鍵を握る」と明かす。おおむね月に1回の頻度で開催されるイベント内のガチャが主なマネタイズの源泉になるという。

 これは、スマートフォンゲームにおける一般論だが、イベントとは、通常のゲーム動線とは異なる特別なステージやクエストを提供する仕組みのことだ。イベントの事前告知を行い、イベント内でしか遊べないアイテムなどを限定的に提供することで、ユーザーの購買意欲をかき立て、課金につなげることが一般的だ。

 そうなると、イベント内でユーザーは何を望んでいるのか、何に魅力を感じているのかを過去のデータから分析し、次のイベント設計に反映させる必要がある。まさに、売り上げに直結する部分なので、KPI分析が重要になるというわけだ。アプリの課金ランキングで好位置を継続的に確保することで、高いライフタイムバリューを実現し、大きな収益を見込める。結果的に、制作や開発に投下する金額も増やすことができ、さらに魅力的なゲームに成長させることができる。

 今回の分析基盤では、ログイン頻度、チュートリアルの離脱ポイントなどに加え、ユーザーの動線や、クエストの達成度などのデータを分析しており「ゲームサイクルにおいて、一つ一つの見たいポイントで、ユーザーの行動が全て分かる」(下里氏)という。

チーム全員が同じ土俵に立って分析可能

 今回の分析基盤の概要について説明する前に、導入前はどのようなフローでデータを分析し、どんな課題があったのかを整理する。それを知ることで導入効果が鮮明に見えてくる。

 以前は、大きく2つの課題があったという。1つ目は、時間的課題、2つ目は人的リソースの問題だ。「導入前は、課金高やDAU(デーリーアクティブユーザー数)といったサーバの基本的なログを、開発エンジニアに依頼してダウンロードしスプレッドシートなどで集計していた。さらに外部の開発会社が関係している場合は、そこにデータ提供を依頼していたのでいずれにしても時間がかかっていた」(タイトーKPI担当の井川貴之氏)という。

 タイトーKPIチームの難波勇介氏も「導入前は、ディレクターやプランナーが必要に応じて開発エンジニアに依頼してデータログを出してもらっていた。エンジニアは開発業務と兼務しているので、対応にどうしても時間がかかる場合が多く、受け取ったときには鮮度が落ちていた」と顔を曇らせる。本来ならイベント期間中にリアルタイム分析を実施することがベストなのだが、直ちにデータを入手できないため、分析開始までに時間がかかっていた。

 イベントは、月に1回の頻度で1週間の期間を設定して実施される。イベント終了後にエンジニアからデータを受け取り、分析に約1〜2週間を要していたという。「最低でもイベントの2週間前には、プログラムが完成している必要がある」(難波氏)だけに、分析結果のイベント適用は、最悪の場合2カ月後のイベントとなってしまい、タイムリーな施策が打てないでいたという。

 しかし、分析基盤の導入後は「毎月のイベントのデータをほぼリアルタイムで可視化、分析できるので、次のイベントの開発に反映させることができる」(下里氏)と顔をほころばせる。これで、時間的な課題を解決できたことになる。

 さらに人的リソースの面でも、工数にして年間で約480時間の省力化を実現したという。「基盤構築前であれば、開発エンジニアから渡されたCSVなどのデータを分析するのに、複数の人員で、2〜3時間/日の作業時間が必要になっていただろう。その部分を積算していくとおよそ480時間という計算になる」(井川氏)と省力化の効果を誇る。

 また、エンジニアは開発に専念し、分析はKPIチームを中心にゲームプランナーなどが参加して、リアルタイムに実施する体制を構築することができたので「従来であれば、分析者の考え方などにより、結果にバイアスがかかる懸念もあったが、この分析基盤においては、KPIチーム、ディレクター、プランナーが、同じデータを見ながら分析ができるので、同じ土俵に立って議論できる」(難波氏)と胸を張る。

将来は、完全なノーコード、ローコードでの運用を目指す

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