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新人はスケジューリングをしない新人はここが分かってない!

研修を終えた新人たちが現場にやってくる。皆さんの中には、先輩エンジニアとして彼らを指導する人も多いのではないだろうか。新人を迎え、指導するために必要なのは、相手を知り、自分を知ること。新人と自分との間にあるギャップを意識し、成長の手助けをしよう。それが先輩エンジニアとしての心得だ。

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新入社員を迎えるに当たって

 こんにちは。「5月病」の時期も終わり、いよいよ梅雨に入ろうかという季節になりました。皆さんの部署には、今年は新入社員はいらっしゃいますか。ここ2〜3年の緩やかな景気の回復に伴い、いままで凍結していた新卒採用を再開した企業も多いのではないかと思います。6月ともなると、研修を終えた新入社員たちが皆さんの部署にも配属されてくるのではないでしょうか。

 新入社員を迎え入れる先輩となる皆さんの中には、メンターやOJTリーダーに任命される人もいらっしゃることと思います。新入社員を迎えるに当たって、必要なことは何でしょうか。まず、

  • 新入社員(相手)のことをよく知ること
  • 先輩(自分)のことをよく知ること

 この2点が重要です。

 プロ野球では今年からセ・リーグとパ・リーグの交流戦が行われています。未知の相手と対戦するときにはどのチームも、相手チームについて入念な研究を行ったうえで試合に臨んでいるはずです。皆さんも同じです。未知の相手に接するときは、相手をよく知っておくことが有効です。

 しかし、相手のことだけ分かっていても不十分です。先のプロ野球を例に考えると、相手の戦力が分析できていても、自分の戦力が把握できていなければ、効果的な戦略は立てられないものです。皆さんも自分自身についてあらためてよく知ることが必要です。

新人との間のギャップを知る

 新入社員も、まったくの未知の存在というわけではありませんよね。かつては皆さんも新入社員だったわけですから、そのころを思い出していただければ、ある程度新入社員の心情や行動の傾向は理解できるはずです。

 いまの自分は彼らに比べてどこが変わった(成長した)のか。これを考えることで、彼らを迎え入れるときに何を考えておけばいいのかが分かるはずです。つまり、

  • 新入社員(相手)と先輩(自分)との間のギャップをよく知ること

これが手っ取り早い方法ということになりそうです。

 新入社員は、研修で技術の基礎は教えられていますが、実践的なノウハウまでは教えられていません。研修カリキュラムの中には、そういったノウハウを教える講義を設けているものもありますが、実地に基づいたものではないので実感しにくく、知識として定着しているとはいい難いでしょう。そこに、皆さんとの間のギャップが発生します。

 本稿では、そのギャップのパターンをご紹介していきたいと思います。前編に当たる今回は、「学校と社会のギャップ」についてご紹介します。

学校と社会のギャップ――社会人としての心構えやマナー

ギャップ1 新人は質問の仕方を知らない

 新入社員が質問にくるときの良くないパターンとして、「手ぶらで質問にくる」「状況を説明せずに質問する」などが多いのではないでしょうか。

 学生時代には、メモを持って質問しにいくという経験をしていない人が多いので、ついつい手ぶらで質問しにきてしまうのは、ある意味致し方ないと思います。また、積極的に質問をしてくるものの、自分の状況をまったく説明せずに目前の困っていることをいうだけなので、状況のヒアリングに多くの時間を要してしまうというケースもあるでしょう。

 新入社員のメンターは、面倒でもそういったことを1つ1つ指摘し、どうすればよいのか理解させる必要があります。

 前者に関しては、先輩にもらった回答を間違って覚えたり、忘れてしまったりしないようにするだけでなく、質問以外の内容で先輩から指摘や指導を受けるケースもあるので、それを書き留められるようにする必要があることを説明しましょう。後者に関しては、先輩が常に新入社員の作業の内容や状況を理解しているわけではないので、まず状況の説明が必要であること、状況だけでなく、試みた対応策を説明することで、より的確な回答が得られることなどを説明しましょう。

 違った角度、ビジネスの面からの諭し方として、質問で先輩の時間を使ってしまうことによる損害を理解させて、自発的に質問の効率を追求させるのはどうでしょうか。

 開発案件のエンジニアであれば、多くの場合作業工数によって原価が算出されます。先輩も当然開発案件のメンバーですから、質問の対応をお願いすることになれば、その分先輩の作業工数が増え、開発案件の原価が増えることになります。結果として、開発案件の利益が圧迫され、会社の利益が減り、もし上場企業であれば、株価にも影響を及ぼすということになってしまいます。

 そこまで話す必要はないかもしれませんが、時間の消費はコストになっているという意識を新人のうちに持たせることは、とても重要なことではないでしょうか。そういう意識を持っている新人は、きっと自発的に効率的な質問の仕方を考えてくるようになるはずです。

ギャップ2 新人は「教わっていないからできない」という

 新入社員は入社後、研修を受けてから現場に配属されてきます。どうしても学校の延長という感覚が抜けきらずに「会社も学校も似たようなものだ」と思っているケースが多いと思います。

 研修時は分からないところがあれば懇切丁寧に講師が教えてくれますし、想定されたカリキュラムの中で授業が進行していくため、教わっていない知識を使って演習をすることはほとんどありません。いってみれば、予定調和の世界で2カ月ほどを過ごしてきたことになるのです。

 そのため、自分が知らない分野(新入社員の場合、ほとんどが未知の分野なわけですが)の作業をしなければならない場合、「教わっていないからできなくて当たり前」「教わっていないことはやらない」という態度を取る新入社員もいると思います。

 皆さんはご存じのように、現場では自分の知らない知識や分野に突き当たることなど日常茶飯事です。特に、変化の速さを「ドッグイヤー」「マウスイヤー」と称されるIT業界にあっては、去年流行した技術が来年には時代遅れになっていることもあるくらいですから、その傾向はほかの業界と比べて強いといえます。ベンチャー企業など先端的な分野にいる会社ならその傾向はさらに強まることでしょう。

 新入社員は、知らないことを調べるのが嫌なのではなく、知らないことがあるのに作業に臨むということに違和感を覚えているだけなのです。IT業界ではそれが当たり前であると理解できれば、自発的に調べる姿勢を見せてくるでしょう。

 そうなれば、今度は皆さんのノウハウを彼らに伝える番です。学生時代は漠然と使っていたサーチエンジンの便利な使い方や、キーワードを選ぶときのコツ、参考になるリファレンスや記事の載っている書籍やWebサイト(もちろん、@ITを最初に紹介してあげましょう)を教えてあげれば、新しい知識をぐんぐん吸収するエンジニアになれるはずです。

ギャップ3 新人は開発案件がどうやって利益を得ているか知らない

 研修は基礎技術の習得を目的としていますから、新入社員は、開発案件がどうやって利益を得ているのかという仕組みを教えられていることは少ないのではないでしょうか。

 弊社で新人研修を請け負うときは、開発案件がどうやって利益を得ているのかを、早い段階でカリキュラムに組み込んで教えるようにしています。それをクリアに示すことで、新入社員が抱く開発プロジェクトの「なぜ」を納得させやすくなるからです。

 製造原価というものがエンジニアの作業工数を基準に決まっていること、売り上げが無条件で見積もり金額より上がることはなく、利益の確保は原価を抑えることにかかっていることなどが分かれば、先のような「なぜ先輩の時間を質問にばかり使わせてはいけないのか」や「なぜ納期に遅れると困るのか」などの疑問も解消するはずなのです。

 ただ「鉄則だから」「不文律だから」とセオリーを教えるだけでは、モチベーションにつながりません。「なぜ」を解決することで、彼らは前向きに取り組むことができるようになっていくはずです。

ギャップ4 新人は教わったビジネスマナーしか分からない

 研修では、どの会社でも必ずビジネスマナーを教えます。私が新卒で入社したとき、会社は公式には新卒採用をしていなかったので、研修制度などというものは存在しませんでした。それでも入社したその日に、ビジネスマナーのイロハはひととおり教えてもらった記憶があります。

 しかし、新入社員は皆さんのビジネスマナーを見て戸惑うかもしれません。「自分の習ったビジネスマナーと違う!?」

 この理由は2つ考えられます。1つは皆さんのビジネスマナーが実際に間違っている場合、もう1つは皆さんのビジネスマナーの流儀が、会社で指導したビジネスマナーと違う場合です。

 前者の場合は、皆さんの先輩としての立場にかかわりますから、いま一度自分のビジネスマナーを省みて、自己流になっているところは直さないといけません。皆さん自身がOJTリーダーに任命されている場合はなおのことです。ほかの場合にもいえることですが、可能であれば新入社員研修で会社が使用した資料を入手し、目を通しておくとよいでしょう。

 後者の場合はどうでしょうか。転職者の多いIT業界では、最初に就職した会社で習ったビジネスマナーと現在の会社で教えているビジネスマナーの流儀に、若干の違いがある場合があります。「お手本どおり」のビジネスマナーにカスタマイズを加えている場合もあることと思います。

 必ずしも正しい解決策とはいえませんが、私が新入社員のときに研修でいわれたのは、「ビジネスマナーでお手本にできる先輩を見つけ、その先輩の真似をするのがビジネスマナー習得への近道だ」ということです。皆さんも新入社員に真似される先輩になれるよう、自分自身のビジネスマナーを振り返ってみましょう。

ギャップ5 新人はメールの書き方を知らない

 いまどきの新入社員で、電子メールの書き方をまったく知らないという人はそうそういないと思います。特にIT系の企業に就職しようというのであれば、知らなければ入社前に少しくらいは勉強してくるでしょうから、そのレベルで皆さんが指導することは少ないでしょう。

 問題は、メールの内容です。研修である程度指導されているとはいえ、研修中に実際に書いているメールといえば、上司への報告であったり総務への事務連絡であったり、新人同士の連絡であったりで、社外にメールを書いた経験はまだありません。

 新入社員に仕事を任せるときは、面倒でも皆さんがメール内容をチェックする必要があります。新入社員の書いたメールは、必ず一度皆さんあてに送付してもらい、内容をチェックしたうえで送らせるようにしてください。ささいな事柄であっても細かく指摘してあげてください。

 この先、新入社員はメールの書き方について指導を受けることはほとんどないはずですから、ここで指摘しないと、後で彼らが恥を書いたり、会社に不利益を与えたりすることになりかねません。そのとき、「当時のOJTは誰がやったんだ?」などといわれてしまうと、今度は皆さん自身が冷や汗をかくことになるのです。

ギャップ6 新人はスケジューリングをしない

 いまでもよく覚えているのですが、私が新入社員のころ、初めて仕事をもらったときに上司から「この作業はどのくらいでできそう?」と聞かれたことがありました。とても戸惑った覚えがあります。「初めてやる仕事で、どのくらいかかるっていわれても分かるわけないじゃないか……」と思ったのです。

 新入社員は、学生時代の宿題のように「いつまでにやりなさい」と締め切りを設定されることはあっても、「どのくらいの期間で完成できそうか」ということを強く意識したりはしないものです。

 学生時代の課題は多くの場合締め切りが決まっているので、自分の能力・スキルがどの程度かにかかわらず、とにかく締め切りに間に合わせるように一生懸命やるだけ、ということが日常です。

 皆さんは、IT業界の開発案件も多くの場合締め切りに追われて作業することの方が多いことを身に染みてお分かりでしょうが、建前上は、エンジニアの作業は作業工数の見積もりを基に行われます。先にお話しした例では、当時の上司は私に、作業を見積もる癖をつけることがエンジニアの基本であるということを教えたかったのだと思います。

 学生時代では、自分のスキルに合わせて締め切りが決まるなどということはほとんどありません。締め切りに間に合わなかった場合でも、それは自分の落ち度であり、よほどのことがなければ指導している側や学校全体の責任が問われるということはありません。ですが企業活動においては、1人の作業の遅れを放置することは開発作業全体の遅れにつながり、それが納期に影響すれば企業全体の評価にかかわる重大事に発展します。そうならないためにも、個々人の作業はきちんと見積もりやスケジューリングをしたうえで取り組まなければならない、ということを教える必要があります。

 ともすると新入社員は、自分の作業が遅れるのは自分のみの落ち度という認識になるので、作業が遅れた場合に正確に報告することをためらう意識が働きます(人間ですから誰しもそういう意識はあって当然ではありますが)。遅れがあっても正確に報告することが会社全体にとって望ましいということを、新入社員にはきちんと指導しましょう。

 今回は、「学校と社会のギャップ」についてお話ししました。後編に当たる次回は、「理論と実践のギャップ」をご紹介します。

著者紹介

中越智哉

株式会社テンアートニアプリケーションビジネスユニットテクニカルソリューション トレーニンググループコンサルタント

1974年北海道生まれ。1999年北海道大学大学院 電子情報工学専攻修士課程修了後、同年4月テンアートニ入社。開発案件・トレーニング講師を担当。2000年12月より、@IT Java Solutionフォーラムにて「Java Solution FAQ」を執筆(2001年11月、同連載をもとに書籍「Javaプログラミング FAQ」出版)。その後、基幹系業務システム開発SEなどを経て、現在は教育事業(コース開発および講師)・コンサルティングに従事。


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