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WiMAXの人口カバー率が7割になった2010年を想像してみようものになるモノ、ならないモノ(32)

そのとき、クレジットカード会社が、認証・課金専門MVNOとして、パッケージ化した料金をユーザーに提供したらどうなるだろうか……

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新しいモバイルビジネスがやってくる

 「モバイルビジネスの潮目が変わるな……」

 これが、モバイルWiMAXを取り巻くさまざまな事象を俯瞰(ふかん)して得た感想だ。まさに、モバイル向けのビジネスが新しい時代に突入したことを感じさせてくれるに余りある無線通信、それがモバイルWiMAXだと思うのだ。いや、何も「下り最大40Mbps」などという、実際のフィールドではあり得ない規格上の通信速度をことさら強調して、“数字の独り歩き”を演出しようなどというつもりはない。何がいいたいのかというと、モバイルWiMAXにより「業界勢力の潮目が変わる」のであり、換言すれば、「端末とサービスが主役」になる無線ビジネスの世界が訪れる予感がするのだ。

 「ガラパゴス化」とやゆされる日本のモバイルビジネス市場だが、そこでの主役は間違いなく携帯電話事業者、つまりキャリアだ。いわゆる垂直統合型と呼ばれる日本の携帯電話ビジネスの世界では、キャリアに日参し彼らの要求を唯々諾々と受け入れることが、モバイルビジネスに参加する絶対条件であった。それはあらゆるレイヤの事業者に当てはまる。

 そして、晴れて“キャリア村”の仲間に入ることができて初めてビジネスのスタートラインに立つことができる。一部には、モバゲータウンや魔法のiらんどといった勝手サイト系、つまり“キャリア村”の外で大活躍しているサービスもあるが、それの存在がビジネス構造を変えるまでには至っていない。依然として“キャリアは強し”の構造が堅守されている。いや、むしろ、昨今の経済危機で端末市場の縮小にあえぐメーカーを救済するためにNTTドコモが端末開発費の一部を負担することを発表するなど、時代に逆行するかのような施策も行われようとしている。そして、“キャリアが主役”は、業界構造だけの話にとどまらない。ユーザーの側もキャリアブランドを強く意識した携帯電話ライフを送っている。

 しかし、モバイルWiMAXには、端末メーカーやサービス・アプリケーション提供者が主役になる、そんなビジネスの構造改革をもたらしてくれるであろう希望の光を感じるのだ。もちろん、そんな主役たちの先にはユーザーがいて、ユーザーの顔色をうかがいながら切磋琢磨(せっさたくま)するであろうから、結果的にユーザー主導のビジネスが展開されることになる。既得権という塀に囲まれた庭の中で主役の座を演じ続ける、いまのキャリア中心主義構造とは異なった世界が訪れるのだ。

「ノンPC端末」と「安価なチップ」こそWiMAXのキーワード

 そのようなモバイルWiMAXの新しい世界を理解するキーワードは、「ノンPC端末」と「安価なチップ」である。それをこれから説明しよう。ただし、始まったばかりの新しいサービスだけに、上記のような新しい世界が明日、明後日にも実現する、ということではない。まずは、お定まりのノートPC向けのネット接続サービスから開始されようとしているのはご存じのとおり。

 「UQ WiMAX」というブランド名で2009年7月1日から正式なサービスが開始される予定のUQコミュニケーションズ(以下UQ)のモバイルWiMAXだが、先日無料のモニターが募集されるやいなや、東京23区、横浜・川崎地区に限定したエリア展開にもかかわらず、5000人の募集に対し約2万人が殺到したそうだ。高速モバイル通信に期待するギークなユーザーの関心を一身に集めた格好だ。

USBスティックタイプのWiMAXデータ通信カード
PCカード型のWiMAXデータ通信カード
認証なしで利用できるWiMAXデータ通信カード。USBスティックタイプとPCカード型がある。通信に必要な心臓部が小型化され、SDカードに載る時代も遠くない?

 モバイルWiMAXは広域をカバーする無線サービスながらIEEE系の規格なのでWi-Fiの兄貴分的存在という位置付け。それだけに現在4キャリアが提供するいわゆる携帯電話系データ通信サービスとは別モノと考えてよい。実際、総務省の周波数免許政策のうえでも、モバイルWiMAXは、2.5GHzを使った次世代広帯域移動無線アクセスシステム(BWA)、つまりブロードバンド回線という考え方で、“モシモシ"系の携帯電話とは分けてカテゴライズされている。

 そのような背景もあり、まずはパソコン向けの接続サービスとして始動するのだが、実際のところ、ノートPC向けのデータ通信サービスはライバルが多い中でパイが限られている。モバイルWiMAXの高速性を生かして固定系ブロードバンド回線のユーザーを奪うという方法論もあろうが、それにしてもユーザーが大挙して乗り換えるようには思えない。そこで期待されるのが、ノンPC端末への搭載だ。ノンPC端末とは、例えば、デジカメ、ビデオカメラ、ゲーム機、カーナビ、情報家電といったデジタル製品のこと。実際、UQコミュニケーションズ取締役執行役員副社長の片岡浩一氏も、「機器固有の機能を補完する目的で無線通信を搭載すべきノンPC端末は山ほどある」とデバイスの広がりに期待する。

UQコミュニケーションズ取締役執行役員副社長の片岡浩一氏
UQコミュニケーションズ取締役執行役員副社長の片岡浩一氏「WiMAXの可能性は、多種多様な業界から注目を集めています」

 ここで重要になるのがそれら機器に向けたサービスやアプリケーションなのだ。ノンPC端末にWiMAXチップを組み込んで通信機能を載せるだけでは駄目だ。例えば、WiMAX搭載デジカメが登場したとして、ユーザーは通信機能を使って何をするのか。まさか、ブラウザを搭載して液晶画面でネットサーフィンを楽しむなどというばかげた使い方はすまい。当然、ネットワークの先に端末専用のサービスを作り込むということが必要になる。

 先ほど、「端末メーカーやサービス提供者が主役になる」といったのは、まさにこの部分だ。例えば、撮影した写真や動画をモバイルWiMAX経由でいきなりネットワーク上のサーバーに保存できますよ、といったカメラを販売する場合、ストレージの提供だけでなく写真を管理するアルバム機能やプリントサービスとの連携といった仕組みを作り込まなければサービスとしても魅力に欠ける。

 つまり、モバイルWiMAXをノンPC端末に搭載するということは、端末の機能にひも付いたサービスも提供するということにほかならない。最近流行の「クラウド」という言葉に置き換えてもいい。そうすることで、コモディティ化が進み「イノベーションのジレンマ」にぶち当たっている感のあるいまのデジタル機器に、通信サービスという付加価値を持たせることができ、モバイルブロードバンド先進国ニッポンの底力を発揮できるのではないか。

 そのような「端末とサービスの密接な関係」の代表例は、アップルの「Mobile Me」や「iTunes Store」であろう。iPhone/iPod、Macintosh、AppleTVといった端末と前述のサービスが密にリンクして満足度の高いユーザーエクスペリエンスを提供している。また、ソニーも、新経営体制発表(参照記事:「ソニーらしさ」は「体験」に 「ネットワーク」に生き残り賭けるソニー)の席で、製品のネットワーク機能に力を入れると宣言した。同社は、以前より音楽配信事業はもちろん、自社のデジカメやビデオカメラユーザー向けにネットワークサービスを提供している。決して大成功しているとはいい難いが、今後はこの分野に本気モード全開で取り組む覚悟のようだ。

 そういえばソニーは、2008年の11月にライフ・エックスという映像・写真系のクラウド型サービスも開始した。Appleとソニーの場合は、端末メーカーが製品の付加価値を高めるためにサービスやアプリケーションを提供する例だが、その反対に、サービス事業者の側が主導して端末を提供するナビタイムジャパンの「WND」(ワイヤレスナビゲーションデバイス)(カーナビ市場の黒船となるか──ナビタイム「WND」の狙いと戦略)といった例もある。

従来の携帯電話型事業モデルとの決別を宣言するUQ

 ただ、上記のようなあらゆるノンPC端末(通信機能付きデジタル製品)とサービスやアプリケーションが密接につながる世界を、UQ1社で構築することは難しい。というか、それをやると、垂直統合型キャリア村モデルの再来となり時計の針を戻すに等しい愚行である。そこで登場するのが、MVNO(Mobile Virtual Network Operator)だ。総務省の周波数免許割り当て方針においてUQには、MVNOに広く門戸を開放することが求められている。実際、UQでは、すでに70社以上のMVNOと協議を開始しており、その中には、@niftyやBIGLOBEといったおなじみの顔ぶれ以外に、通信事業者ではない企業も多いそうだ。詳細な業種などは言葉を濁して教えてくれなかったが……。

 片岡氏は「端末メーカーがモバイルWiMAXのチップを搭載する製品を開発するのは大歓迎。ただ、そのような端末をUQで仕入れてUQ WiMAXブランドで売るような、従来の携帯電話型事業モデルはいまのところ考えてない」と言い切る。ただ、そうなると、UQは、MVNOに対して“土管”を提供するだけの存在となるのだが、「メーカーやMVNOが自社ブランドでサービスを展開するのをサポートする役」(片岡氏)に徹するようだ。まさに、端末とサービスが主役になり、通信事業者はインフラ提供に徹する構造がそこにある。

 端末メーカーにとっても、モバイルWiMAXの通信機能を搭載するための好条件がそろっている。まず、WiMAXチップセット市場の急激な拡大が予想されている。大量に生産・供給されると価格が安くなるだけでなく、技術革新も進み、小型化・省電力化も進むだろう。加えて、WiMAX関連特許を関係企業でグループ管理し、相互に使いやすくする「IP(知的所有権)プール」の仕組み(参照:Cisco、Intelら計6社、WiMAX向けに「Open Patent Alliance」設立)も、WiMAX関連製品にコスト軽減効果をもたらすといわれている。3G携帯電話の世界では、クアルコムが3Gチップ搭載端末に対し、数パーセントから場合によっては1割程度のライセンス料を設定している現状に憤りを覚える端末メーカーが多いだけに、WiMAX関連企業連合のこの措置は参入のハードルを下げるものと期待されている。

MVNOを中心としてサービス(上位レイヤ)と端末(下位レイヤ)が主役になる。UQコミュニケーションズは、インフラ提供に徹する
MVNOを中心としてサービス(上位レイヤ)と端末(下位レイヤ)が主役になる。UQコミュニケーションズは、インフラ提供に徹する

 実際、あるメーカー関係者は「モバイルWiMAXのチップを搭載した端末なら気軽に作れるので、試作機を通信事業者に持ち込んでテストさせてもらうつもり」と話す。また、ある端末ベンダー幹部は、「UQ WiMAXが順調に延びれば、同社のWiMAX規格がモバイルWiMAXのグローバルスタンダードになる可能性もある。そうなると、世界市場を見据えた端末開発が可能になる」と表情に希望をにじませる。

人口カバー率7割を超えると多種多様なノンPC端末が登場!?

 では、モバイルWiMAXに対応したノンPC端末が多数登場するのはいつになるのだろうか。片岡氏は「人口カバー率が70%を超えた時点が1つの目安」と予測する。UQのエリア展開ロードマップによると全国の主要都市をカバーした時点が約70%とされ、2010年度末に設定されている。つまり約2年後ということになる。パソコン向けのネット接続と異なり、生活に密着したデジタル製品に通信機能を載せるだけに、最低でも7割の確保は必須ということだろうか。

 また、片岡氏は「ノンPC端末を普及させるには料金に対する工夫が必要」とその時点でのMVNO向け料金体系の見直しも示唆する。現状ではPC向けデータ通信を主眼としていることもあり「加入台数当たり月額3300円(MVNOが認証設備などを保有しない接続)」といった料金体系が設定されているが、この料金体系のままでは、とてもではないが一般ユーザー向けのノンPC端末サービスの提供は無理。仮にMVNOがこれに700円の利ザヤを載せるとしよう。端末1台当たり月額4000円の通信料となり、ユーザーは、これに保有台数を乗じた金額をMVNOから請求されることになる。例えば、モバイルWiMAXを搭載したノートPC、ゲーム機、デジカメ、ビデオカメラ、カーナビを保有しすべての機器で通信サービスを利用すると合計で月額2万円だ。あり得ない。ましてや、複数のMVNOから個別に請求が舞い込むような不便極まりない状態になったら最悪だ。

 つまり、ノンPC端末を普及させるには、新しい料金の仕組みや請求方法にまで切り込む必要があるのだ。例えば、クレジットカード会社のようなファイナンス系の企業が、認証・課金専門MVNOとして、端末メーカー系やサービス系MVNOとUQとの間を取り持ち、パッケージ化した料金をユーザーに提供するイメージだろうか。いわゆるMVNE(Mobile Virtual Network Enabler)とも呼ばれる事業形態だ。UQもそれに対応する新しいMVNO向け料金体系の設定を迫られるだろう。

 このようにモバイルWiMAXは、これまで通信サービスとは無縁だったメーカーや各種サービス事業者にも通信への参入機会をもたらす存在だということがお分かりいただけただろう。いまは単にギーク向けのデータ通信サービスという印象が勝っているが、モバイル業界の潮目を変え構造改革への道を切り開く先兵としてのポテンシャルを秘めていることを忘れてはならない。

追加情報

 UQコミュニケーションズは、「WiMAX Wi-Fiゲートウェイ」と呼ばれる宅内設置のWiMAXデータ通信ボックスのモニター募集を2009年4月3日から開始する(リリース)。複数のWi-Fi機器の通信を1つに束ねて、モバイルWiMAXでネット接続する仕組み。

 UQ WiMAXがADSLに代わる固定通信として利用に耐えることを証明できる否か、気になるところなので、モニターユーザーの評価が楽しみだ。ちなみに、PC向けのデータ通信カードは現在、MacOSには未対応だが、「時期は言えないがMacOSにも対応する。時間はかからない」(片岡氏)ということなので、Macユーザーには朗報。


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著者紹介

ケータイ料金は半額になる

山崎潤一郎

音楽制作業に従事する傍ら、IT系のライターもこなす蟹座のO型。自身が主宰する音楽レーベルのサイト「インサイドアウト」もよろしくお願いします。最新刊『ケータイ料金は半額になる!』も好評発売中。著者ブログ「家を建てよう」


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