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論理的なプログラムを書くプログラマは、論理的な文章も書けるか?誰にでも分かるSEのための文章術(10)(1/2 ページ)

「提案書」や「要件定義書」は書くのが難しい。読む人がITの専門家ではないからだ。専門用語を使わず、高度な内容を的確に伝えるにはどうすればいいか。「提案書」「要件定義書」の書き方を通じて、「誰にでも伝わる」文章術を伝授する。

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 連載の第5回「ドキュメントの質を確実に上げる6つの文章作法」、第6回「読みやすい文章の極意は『修飾語』にあり」では、分かりやすい文章を記述するためのポイントを説明しました。

 読み手に理解してもらえる文章表現にするためには、1つひとつの文章を分かりやすく記述するだけでなく、文章の流れ(文章のつながり)が読み手にとって分かりやすいものでなければなりません。そこで今回は、「分かりやすい文章の流れ」を構成するポイントを解説します。

論理思考に慣れている技術者なら、論理的な文章も得意?

 「文章が論理的につながっていること」、これが「読み手に分かりやすい文章の流れ」の条件です。 書き手は、頭に浮かんだ文章をそのまま記述するのではなく、前の文章から次の文章へのつながりが論理的であるかどうかを確認しながら、記述しなければなりません。

 ところで、技術者は職業柄、論理的に思考することに慣れています。そのため、文章の流れを論理的にすることは、技術者にとってそれほど難しくないように思えます。

 しかし、話はそう単純ではありません。文章の論理性とプログラムの論理性は、いくつかの点で異なっているからです。

「文章の論理性」と「プログラムの論理性」はどこが異なるか

 「プログラムの論理性」は、アルゴリズムとプログラミング言語仕様に基づく論理性です。一方、文章の論理性は、人間の思考回路や感覚、人間の持つ知識や常識に基づいた論理性です。

 プログラムには「コンピュータに理解させるための論理性」、文章には「人間に理解してもらうための論理性」が必要です。そして当然、コンピュータに理解させるための論理性と、人間に理解してもらうための論理性は異なります。

 プログラムの論理性に基づいて文章を記述しても、人間にとっては分かりにくい文章になってしまいます。両者の違いをしっかりと意識して、「人間にとって読みやすい文章」を書くよう意識しましょう。

 例えば、「エレベーターを使って10階に行く」という文章を考えます。プログラムの論理性に基づけば、次のような記述になります。

 A氏は、○○ビルの玄関を入った。そこはロビーである。正面にエレベーターがある。A氏は、エレベーターのドアの横の上向き矢印ボタンを押した。そして、エレベーターが到着するのを待った。エレベーターが到着してドアが開いた。A氏は、エレベーターに乗り込み、ドアの脇にある10階のボタンを押した。エレベーターが上昇する。ほどなくして、10階に到着しドアが開いた。A氏は、ドアが閉じる前にエレベーターを出た。エレベーターの前で、B氏が待っていた。


 動作を逐一記述しているうえに、同じ単語が何回も続いています。そのため、非常に読みにくい文章になっていることがお分かりいただけると思います。

 A氏は、○○ビル玄関正面のエレベーターを使って10階に行った。そこに、B氏が待っていた。


 上記の文章は非常にシンプルです。このように、人間が理解する論理性は大ざっぱで主観的、感覚的なところがあります。また、守るべき厳密な規則があるわけではなく、書き手の自由裁量によるところが大きいです。そのため、文章の論理性は、プログラムの論理性とは異なる難しさがあります。

 以下、文章のつながりを分かりやすく論理的にするためのポイントを紹介します。

キーワードを連鎖させる

 文章のつながりを論理的にするには、「文章中の語句やそれを指す代名詞、関連するキーワードを連鎖させる方法」が有効です。前の文章中で使ったキーワードを、次の文章中でも使います。

 IT分野で使われる用語には、英語を片仮名にしたものが非常に多いです。外国映画のタイトルでも、原題を片仮名にしたものが目に付きます。

このように、片仮名が氾濫(はんらん)するのは「外国語の語句や文節をそのまま片仮名にできる」という、日本語の特質があるからです。苦労して外国語を日本語に翻訳する必要はなく、そのまま片仮名に移し替えてしまえばよいのです。

翻訳にかける時間と労力を節約できるため、これは大きな利点です。しかし、欠点もあります。まず、片仮名の垂れ流しになってしまうこと。そして、安易に機械的に片仮名にすることで、日本語本来の力が消えてしまう恐れがあります。


接続詞をうまく使う

 「しかし」「そのため」といった接続詞は、「論理の流れ」「次の文章がどう展開するか」を決定づけます。書き手は接続詞によって、次の文章でどのような内容を展開しようとしているのかという「意図」を明示できます。

 CGアニメーションは、制作工程のすべてをコンピュータ上で行える。

 (それがもたらすもの)そのため、 作業が効率化され、制作コストを低減できる。

 (その結果)そうすると、アニメ作品の多くの制作予算は小さくなるはずである。

 (実際はそうでない)しかし、現実には多くのCGアニメーションの制作予算は大きくなっている。

 (その理由)なぜなら、 制作者は「制作コストが小さくて済むなら、もっと規模の大きい作品を作ろう」と考えるのである。

 (その意味)そして、作品の規模が大きくなると予算も大きくなる。

 (どうなるか)結果として、多くのCGアニメーションの制作予算が膨らんでいく。


 ただし、接続詞を多用し過ぎると、煩雑な文章になってしまいます。そこで、一連の文章のまとまりを記述し終えたら、なくても意味が理解できる接続詞は削りましょう。例えば、順接の接続詞(「そして」など)は記述しなくてもよい場合があります。

 CGアニメーションは、制作工程のすべてをコンピュータ上で行える。そのため、作業が効率化され、制作コストを低減できる。そうすると、アニメ作品の多くの制作予算は小さくなるはずである。しかし、現実には多くのCGアニメーションの制作予算は大きくなっている。なぜなら、制作者は「制作コストが小さくて済むなら、もっと規模の大きい作品を作ろう」と考えるのである。作品の規模が大きくなると予算も大きくなる。結果として、多くのCGアニメーションの制作予算が膨らんでいく。


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