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Windows Server 2003のサポート終了に思うことWindows Serverの全バージョンを経験したITトレーナーが語る

Windows Server 2003のサポート終了まで1年を切った今、あらためてWindows Serverの歴史を振り返ってみたい。また、今後のサーバーOSの方向性についても展望しよう。

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Windows NTの時代〜NT 4.0で一気にメジャー化

 Windows Server 2003/2003 R2のサポート終了日「2015年7月15日」(日本時間)まで、残り1年を切った。クライアントOSの移行はPCの交換で対応する企業が多いが、サーバーOSの場合はアプリケーションの移行という大きな課題がある。なので、Windows Server 2003からの移行は、Windows XPからの移行よりもずっと大変な作業になるのではないかと思う。

 今考えるとWindows Server 2003は、Windows NT 4.0と同じくらい重要なサーバーOSだった。まずは、Windows Serverの歴史に沿って、各バージョンの意味や社会的な背景を振り返ってみよう。

 サーバー版Windowsの最初のバージョンが、1993年に発売されたWindows NT 3.1だ。日本語版の発売は1994年だったので、2014年はWindows Serverが販売されて20周年になる。

 Windows NT 3.1は意欲的な製品だったが、当時としては「大きくて重いOS」だった。そこで、1994年当時には重要度が急速に増していたTCP/IPをはじめ、全体を高速化したWindows NT 3.5が登場し、1995年にはWindows 95とのプログラム互換性を持たせたWindows NT 3.51が発売された。1996年にはGUIもWindows 95と互換性を持ったWindows NT 4.0が登場している。

 Windows NT 3.xを導入した企業はそれほど多くはなかったが、Windows NT 4.0で一気にメジャー化した。マイクロソフト認定資格者の育成がICT(ITと通信技術)ベンダーの急務とされ、無茶な試験対策講座を実施したこともよく覚えている。

 Windows NTの開発はDEC(Digital Equipment Corporation:ディジタル・イクイップメント・コーポレーション)からマイクロソフトに移籍したデビッド・カトラー氏が指揮したため、DECの独自OSである「VMS」の影響が強いとされている。しかし、内部構造は似ているものの、本質的には別のOSである。

 Windows NTにはUNIXのノウハウは通用せず、自社OSのように内部構造に詳しい人に直接聞くこともできなかったため、運用には苦労した。検証の結果が実はバグで、修正プログラムを提供すると「バグが直ったためにアプリケーションにエラーが出る」という、ちょっと困った状態もあった。

 こうした混乱が落ち着いたのも、Windows NT 4.0からである。1998年に提供された「Service Pack 4」あたりからは、安定したOSとして本格的に普及した。

Windows 2000の時代〜Active Directoryの登場

 1997年には「Windows NT 5.0」(Windows 2000)のベータテストが始まったが、なかなか製品化されなかった。しかし、1999年にベータ3が公開され、名称も「Windows 2000」に変更されてからは、マイクロソフトから多くの教育コースが提供され、情報も大量に公開された。

 Windows 2000の最大の特徴は、現在でも広く利用されている「Active Directory」の導入である。また、ネットワーク機能を強化し、「オールインワンOS」の色も強くなった。Windows NTのものとほとんど変わらない内部構造のため、OSの安定性も高く、マイクロソフトはもちろん、われわれ(の勤務先)を含むパートナー各社期待のサーバーOSだったが、意外に売れなかったようである。

 Windows 2000が売れなかった理由はいくつか考えられる。第一に、Active Directoryのプロモーションに失敗したこと。マイクロソフトは、数万人を超える大規模環境への対応をアピールしていたが、それほど大きな組織は多くない。また、大規模環境でのActive Directory管理はそれなりに難しい。実際には小規模環境で単純な使い方もできるのだが、当時は教育コースが大規模環境での使い方を中心に考ええあれていたこともあり、意外に知られていなかった。

 第二に、Windows NT 4.0の出来が良く、Windows 2000へ移行する必然性がなかったこと。実際、Windows NT 4.0をサポート期限切れの2004年まで使った企業は多く、その後も使い続けた企業もあったほどだ。

 余談になるがWindows Server 2008 R2のHyper-Vには、Windows NT 4.0の仮想マシンを動作させるためのオプションがあるくらいだ(画面1)。もちろん、公式にはWindows NTのサポートは一切なくなっていたのだが、特別に便宜を図らなければならないほど多く使われていたということなのだろう。

画面1
画面1 Windows Server 2008 R2の「Hyper-V管理ツール」には、仮想マシンの設定項目に「Windows NTなどの古いオペレーティングシステムを実行する」がある(Windows Server 2012 R2にはない)。もちろん、仮想マシンとして動作しているWindows NTがサポート対象になっているわけではない

 第三に、景気の問題とIT企業の保守化が進んだことだ。1990年代前半は「バブル崩壊期」と呼ばれるが、実際に大手金融機関が破綻したのは1990年代後半であり、2000年ごろはまだまだ余波が残っていた。多くの企業は既存のビジネスを守る方向に進み、リスクをとって最新技術を導入し、ビジネスチャンスを広げることには消極的だったようだ。

Windows Server 2003の登場〜さらに洗練されたOSに

 Windows Server 2003は、Windows 2000を順当に進化させたサーバーOSである。それほど目新しい機能はなかったが、こちらは順当に売れたようである。Windows Server 2003が売れた理由は、ちょうどWindows 2000の逆である。

 第一に、Windows 2000 ServerのActive Directoryにあった多くの制約や使いにくい部分が改善され、自然に使えるようになったこと。小規模環境での導入事例も増え、簡単に使えることが多くの企業やITプロに知られてきた。

 第二に、大規模なセキュリティ攻撃が頻発し、従来の機能では対応できなくなってきたこと。繰り返されるセキュリティ攻撃に、マイクロソフトは開発中の全製品の進行をいったんストップさせて、あらゆる面からセキュリティを見直した。その成果がWindows Server 2003 Service Pack 1である。完全に新しく設計したわけではないので、いくつかの問題は残っていたが、従来に比べてずっと改善された。

 第三に、景気の回復がある程度進んだことで、設備投資がしやすくなったこと。IT企業は相変わらず保守的だったが、Windows Server 2003はWindows 2000と使い勝手が似ており、安心感があった。

 さらに、Windows NT 4.0とともに導入したサーバーがハードウェア寿命を迎えたことで、移行の必然性ができたこともWindows Server 2003の導入を後押しした。

 なお、Windows Server 2003が登場したころは、インターネットは一般的になっていたものの、「クラウド」という概念はまだはっきりしていなかった。グーグルは創業していたが、株式公開は2004年だ。「クラウドコンピューティング」という言葉は2006年の「サーチエンジン戦略会議」で初めて登場している。ヴイエムウェアの日本法人が創立したのも2003年で、マイクロソフトがコネクティクス社を買収し「Virtual Server」を提供したのも2003年だから、「仮想化」さえもまだまだ普及していなかった時代である。Windows Server 2003は「オンプレミスの非仮想化最後のOS」といってよいだろう。

Windows Server 2008/2012〜仮想化&クラウドの時代に

 2008年に登場したWindows Server 2008は、サーバー仮想化機能「Hyper-V」が標準装備され、使い勝手も大きく変わった。クライアントOSであるWindows Vistaの評判はあまり良くなかったが、Windows Vistaと同一カーネルのWindows Server 2008は好評で、翌年のWindows Server 2008 R2にスムーズにつながった。ユーザーからのフィードバックを元に細かな改善が行われたWindows 7は、Windows Server 2008 R2と同じカーネルを持ち、サーバー、クライアントともに人気OSとなった。

 ただし、Windows Server 2003のできが良かったせいか、Windows Server 2008/2008 R2に一斉に移行するという感じではなく、Windows 2000をいち早く導入した企業からの移行や、新規ビジネスのための追加導入が多かったのではないだろうか。

 最新のWindows Server 2012/2012 R2はHyper-Vの機能がさらに強化され、ストレージ機能なども意欲的な拡張が目立つ。クラウドとの連携も強化され、持ち込みデバイスを適切に管理する機能も追加された。

Windows Server 2003の移行先は?

 「2015年7月15日」に迫るWindows Server 2003のサポート期限切れに伴う移行先としては、大きく二つの選択肢がある。一つはWindows Server 2008 R2であり、もう一つWindows Server 2012 R2である。どうやら多数派はWindows Server 2012 R2のようだ。主な理由は三つある。

 一つ目の理由は、Windows Server 2008 R2(Windows Server 2008も同じ)のメインストリームサポート期限が「2015年1月13日」と、あと半年を切っていること。新機能の追加は見込めないし、延長サポートも「2020年1月13日」とあと5年しかない。

 二つ目の理由は、Windows Server 2003に比べると、Windows Server 2008 R2(Windows 7相当)も、Windows Server 2012 R2(Windows 8.1相当)も、現状と違うことには変わりないということだ。どうせシステムを変更するなら、最新OSの方がサポート期間は長くなる。

 以上二つは比較的消極的な理由だが、三つ目は、Windows Server 2012 R2の新機能を使いたいという積極的な理由だ。サーバー仮想化機能のHyper-VはVMwareと機能面でも見劣りしなくなったし、スマートフォンやタブレットのサポートはWindows Server 2012 R2ならではの機能である。

どうなる? これからのWindows Server

 最近面白いのは、ITベンダーの一部が相変わらず新技術に消極的なのに対して、ユーザー企業の方が最新技術に注目していることだ。

 例えば、Windows Server 2012 R2ではクラウドとの連携機能が強化されている。クラウドには多くの利点があるものの、オンプレミスのシステムにはないさまざまなリスクもある。そのため、一部のITベンダーはことさらにリスクを強調してクラウドの導入に消極的らしい。その原因は、利用者とクラウド事業者が直接契約してしまい、ITベンダーが飛ばされてしまうのではないかという不安や、従来と同じものを同じ品質で提供したいという責任感から来ているようだ。

 しかし、ITビジネス全体を見ると、クラウドが提供するサービスの占める割合はそれほど多くない。もし、クラウドによって消える価値しか提供できないのであれば、そのITベンダーにはどのみち先はない。“ITベンダー飛ばし”は、世界規模で実際に起きつつあるからだ。「従来と同じシステムを提供する」という責任感も大事だが、変化する環境に順応できないのは問題である。

 もちろん、Windows Server 2008 R2を使う積極的な理由がある場合は別だ。実際にアプリケーションの問題や構成上の問題で、Windows Server 2012 R2に移行できない場合もあるだろう。しかし、その場合でも第一の選択肢はWindows Server 2012 R2であり、Windows Server 2008 R2は次善の策であるはずだ。

 Windows Server 2003のサポート終了は、図らずもITベンダーの先進性を測る尺度にもなっている。変化の激しさが増すIT業界で、2バージョンに1回、10年に1度のシステム刷新で競争力が維持できるものではないだろう。

 いつのころからか「枯れたシステム」という言葉が使われるようになり、技術に対して保守的な姿勢が強まってきた。しかし、ユーザー企業は徐々に攻めの姿勢に変わりつつある。Windows Server 2003という、オンプレミスの集大成であるOSのサポート切れを機会に、IT企業も思い切った変革を期待したい。

筆者紹介

横山 哲也(よこやま てつや)

グローバルナレッジネットワーク株式会社所属のマイクロソフト認定トレーナー。主にWindows Serverを担当。2003年から12年連続でMicrosoft MVP受賞(2012年のみVirtual Machine、他はDirectory Services)。技術ブログは『ヨコヤマ企画』。他に、誠ブログ『仕事と生活と私――ITエンジニアの人生』をほぼ毎週掲載。


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