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頭の中も著作権の対象?――もう一つの「ソフトウエア パクリ」裁判解説「訴えてやる!」の前に読む IT訴訟 徹底解説(21)(2/3 ページ)

東京高等裁判所 IT専門委員として数々のIT訴訟に携わってきた細川義洋氏が、IT訴訟事例を例にとり、トラブルの予防策と対処法を解説する本連載。今回は、資料やデータを一切持ち出さなかったのに、かつての勤め先から盗用で訴えられた判例を解説する。

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原告が著作権侵害に当たると述べる二つの理由

東京地裁 平成27年6月25日判決より抜粋して要約

1 被告は、原告作成のソフトウエアで使用されている定義ファイルを、そのまま使用している(ソフトウエアを動作させるための設定などを書き込んだファイルが同じである)

2 被告は、原告作成のソフトウエアに類似した機能やユーザーインターフェースを具備するソフトウエアを、原告よりはるかに短い期間(33カ月)で完成させている

 原告の訴えは多少間接的だが、「被告は、原告会社出身の技術者にソフトウエアを開発させた。その際に、技術者の頭の中にあったさまざまな情報を利用していたはずで、それが著作権侵害に当たる」と述べている。

 実際、被告作のソフトウエアの機能は、原告作のものと同じ機能を有していた。ただ、「字幕制作・編集」という用途の決まったソフトウエアは、別個に作ってもおのずと機能が似通ってくるものではある。ユーザーインターフェースもよく似たものではあるが、原告作のものが特別独自性が高いと言えるものではなかった。

 さらに、裁判所が二つのソフトウエアを比較したところ、「原告のプログラムはC++言語で組まれているが、被告のプログラムはC++とC#という二つのプログラム言語で組まれている」、そして「被告のプログラムは原告のプログラムと比較して平均3.96倍の速度でインポートとエクスポートを処理できる」という差異もあった。

 しかし一方で、二つのソフトウエアは、「動作環境の定義に『Template.mdb』という、全く同じ形式のファイルを使っている」。裁判所はこの点を見て、「かかる事実は、被告のプログラムが原告のプログラムを翻案したものであることを一定程度推認させると言える」と述べ、被告が原告のプログラムを「マネして」ソフトウエアを開発したこと自体は認めている。

前職で得た知見や技術を新しい会社で生かすと著作権法違反になる?

 読者は、「被告がさまざまな調査や研究の基に定義した機能をそのまま持って行って実現したのだから、原告は著作権侵害」と考えるだろうか。それとも「設計が異なるのだから問題ない」と考えるだろうか。原告の訴えた論点ごとに、裁判所の判決を見てみよう。

1 原告作成ソフトウエアで使用している定義ファイルを、そのまま使用している

東京地裁 平成27年6月25日判決より抜粋して要約

 著作物性があるというためには、指令の表現自体、その指令の表現の組み合わせ、その表現順序からなるプログラム全体に選択の幅があり、かつ、それがありふれた表現ではなく、作成者の個性が表れたものである必要がある。(定義ファイルは)著作物性に疑問の余地があり得る

(中略)

 かかる事実は、被告のプログラムが原告のプログラムを翻案したものであることを一定程度推認させると言える。

 まず、裁判所は「定義ファイルには著作物性が認められない」と言っている。ただし、前述した通り「同じ定義ファイルを使う方式ということは、ある程度の『マネ』はあった」と認めている。

2 被告は原告よりもはるかに短い期間で、ソフトウエアを完成させている

東京地裁 平成27年6月25日判決より抜粋して要約

 (原告は、この短い期間でソフトウエアを完成させたことは、被告が原告のソフトウエアを翻案したからだと述べるが、)「1 両者の機能やユーザーインターフェースには一定程度の相違点があると認められる」「2 原告のプログラムは、(既に)業界標準である(誰もが、その機能を知り得るものである)」「3 両者の制作には同じ技術者が携わっている」ことなどを踏まえれば、開発期間が不自然なほど短いとは言えない。

 ここでは、「被告が原告の技術情報をコピーするなどして作ったわけではない。原告のソフトウエアは業界標準で、誰もがその機能を知り得るものであり、同じ技術者が開発に参加している以上、二つのソフトが似通ってしまうのは不自然ではないし、ある程度の相違点も認められる」と言っている。

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