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多重下請け構造であえいでいるエンジニアが知っておきたいIT業界の仕組みSESや下請け構造自体に問題はない。では何が?(3/3 ページ)

わが社は、なぜ頂点を、せめて少しでも上のポジションを目指さないのだろうか――IT業界解説シリーズ、第2弾は「多重下請け構造」の闇に迫ります。

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クライアントが放さない「できるエンジニア」たち

 こうした「営業努力の足りない企業」は、別の悲劇も生んでいる。それは「できるエンジニアをクライアントが放してくれない」という問題だ。

 成長意欲旺盛なエンジニアならば、経験を積み、スキルアップを果たして、自らの価値を磨きたいと考えるだろう。ところが、できるエンジニアは、どの企業も喉から手が出るほど欲しい存在。「スキルアップしたいので、別のクライアントのプロジェクトに行きたい」と言っても、クライアント側がすんなりと手放してはくれない。

 クライアントから「あのエンジニア、開発が終了したら、そのまま運用、保守でキープしたい」と言われてしまうと、営業スタッフはクライアントとの関係を壊すわけにはいかないので、「ノー」と言えなくなってしまうのだ。

 本来ならば、できるエンジニアがいれば、より高度な案件で活躍してもらい、それを足掛かりに会社としてのポジションアップも図れるチャンスなはずなのだが、そうもいかないのである。

 もちろん運用、保守が開発よりも下だと言うつもりは毛頭ない。運用、保守エンジニアも、経験を積むことで、運用設計などの上流工程に進めるし、近年では、運用SEがシステムの設計段階から参画するケースも増えている。しかし、単に“できる”からといって、開発エンジニアを、本人の意向を無視して、そのまま運用、保守に当てるのは、いかがなものか。運用、保守は数年単位の長期にわたるものが多く、せっかく磨いた開発スキルが、数年後には陳腐化しているかもしれない。

 「うちに転職してきたエンジニアの中にも、前職時代にクライアント先で頭角を現したものの、そのまま運用、保守に回され、悶々とした経験を持つ者がいます。彼は今、当社が一次請けのプロジェクトで上流工程を担当し、大活躍してくれています」

 もしも、自分が勤めているのが前述のような企業努力の足りない会社だと判断でき、会社の姿勢が変わるのもすぐには期待できないと考えるならば、“転職する”というのも一つの選択肢だ。

元請け企業は大手ばかりではない

 では、転職先として、どのような会社を選べば良いのだろうか。

自社サービスや自社製品の自社内開発を行っている企業

 一番分かりやすいのは、自社サービスや自社製品の自社内開発を行っている企業だ。自社内開発をしていれば要件定義も社内で行っているはずなので、上流工程に携わったり、プロジェクトの全工程に携わったりしやすい。また、エンドユーザーでもあるので、システム開発会社に発注する側に立つこともある。

 ただし、自社製品や自社サービスの開発は、ずっと同じサービスの開発に取り組み続ける。つまり、新製品リリース時やサービス立ち上げ時には新規開発を行うが、その後はバグフィックスやバージョンアップなどが延々と続くケースも多い。1つのサービスにまつわる技術に経験が固定してしまう懸念もある。

一般派遣の人材派遣企業やフリーランス

 その点では一般派遣の人材派遣企業やフリーランスにも魅力がある。仕事をある程度選べるので、常に新規開発案件に携わるというフェーズカットでプロジェクトを渡り歩くなどの働き方ができる。対象となる業界も選べるため、「物流システムの開発に特化したい」「業界横断的にいろいろなシステムを手掛けたい」といった希望をかなえられるのだ。ただしこれらの雇用形態は、プロジェクトごとや期間限定の契約であるため、いつでも、いつまでも、仕事があり続けるとは限らない。言うまでもないが、実力主義の世界でもある。

上流のシステム開発企業

 では、上流のシステム開発企業は、どうだろうか。

 高井氏は「三次請け以降のエンジニアが、元請けや二次請け企業に転職するなら、エンジニアの側にも相応の覚悟が必要」だと警告する。

 なぜならば、三次請け以降の企業は、経営者や営業スタッフ同様、エンジニアにとっても「楽」な面があるからだ。

 商流の下から上にSESで参画するという形態は、ある意味“居心地が良い”。なぜなら、直接雇用ではない分、クライアントは多少のことには目をつぶってくれる。従って、ビジネスで必要なコミュニケーションや基礎ビジネス力を磨く機会がなかった人や、技術力がさほど高くない“イケてないエンジニア”でも採用されてしまうことがある。イケてないエンジニアは、ハッキリいって、イケてるエンジニアにならない限り上流への転職は難しい

 もっとも、転職してでもキャリアアップしたいという意識の高いエンジニアが、“イケていないエンジニア”のはずがない。むしろ自らを厳しい立場に追い込み、技術力を磨いて、周囲からの評価を上げていこうと考えているだろう。

 ここで、注意しなければならない点がある。

 通信系大手SI企業やコンピュータベンダー系大手SI企業が、ナショナルクライアントのような巨大なエンドユーザー企業から受注する大規模プロジェクトにおいて、PM(プロジェクトマネジャー)はマネジメントのプロフェッショナルではあるものの、現場エンジニアほど技術力があるわけではない。コードを1行も書いたことがない(書けない)という人も珍しくないほどだ。そのため、技術力の差で評価されることは少なく、技術的にイケてるエンジニアが報われるとは限らない。

小さなピラミッドの上流にいるシステム開発企業

 ただし、元請け企業は、そうした大手ばかりだけではない。大手企業の規模が小さいプロジェクトや、中小のエンドユーザー企業の発注先は、予算や規模の面から、自ずと中小のシステム開発企業となる。技術力で評価されたいのなら、むしろこちらの方が狙い目である。

 こうした中小のプロジェクトでは、PMはエンジニア出身者が務めることが多い。また、エンジニア一人一人の技術力がプロジェクトの成否を左右するため、技術スキル要件は高くなるものの、そこをきちんと評価されることも多いという。

 そして何よりも、ピラミッドの階層の浅い二次請けまでのポジションで働ければ、要件定義などの上流工程を手掛けるチャンスも増えるのだ。

 もし、三次請け以降からの脱却を図り、技術力を磨きながら活躍していきたいというのであれば、活躍の舞台を小さなピラミッドに移し、その頂点を目指すというのも選択肢の一つだろう。


さまざまな選択肢がある

 連載「特定派遣廃止でIT業界は変わるのか?」、次回は多重下請け構造の未来、海外事情などをお届けします。

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