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コンテナ、マイクロサービスは何のために使うのか?――経営層に贈る「DX推進の2要件」特集:日本型デジタルトランスフォーメーション成功への道(5)(1/3 ページ)

デジタルトランスフォーメーション(DX)のトレンドが加速する中、重要な顧客接点となるWeb/モバイルアプリケーションを迅速に開発・改善するための技術、コンテナやマイクロサービスに対する企業の関心が高まっている。だが明確な目的や理解なきまま「ウチもコンテナを使え」という経営層からの声に、戸惑っている向きも決して少なくないようだ。本稿では多くの企業のDX推進を支援しているクリエーションライン 代表取締役社長 安田忠弘氏に、「経営層が認識すべきDX推進の要点」を聞いた。

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 テクノロジーの力を使って新たな価値を創造するデジタルトランスフォーメーション(DX)が各業種で進展している。だが、AIなど新たな技術の導入それ自体が目的化してしまう傾向も強い他、単なる業務改善をDXと呼ぶ風潮もあるなど、海外の企業に比べると後れを取っているのが現実だ。

 DX推進に当たって専門組織を作る動きも目立つが、自社が立脚してきた既存業務/既存システムとの連携がなく、SoEとSoRの取り組みが分断されている例も多い。結果、SoE領域の取り組みは試行に終始し、ビジネスモデルの変革にまでは至っていないケースも多いようだ。

 だがDXは、企業の存続を左右する重要な経営課題。全社的に推進するためには、経営サイドが明確な意思を持って取り組みをリードする姿勢が不可欠だ。このためには、クラウドをはじめ、各種技術が自社にとってどのような意味を持ち、どのような成果を狙うのか、明確に認識しておくこと大前提となるのは言うまでもない。少なくとも「ウチもAIで何かをやれ」といったレベルでは、手段が目的化してしまうことにもなりかねない。

 では経営者は、デジタルトランスフォーメーションをどう捉え、どう取り組みを進めるべきなのか――今回は、一般的な企業においても認知度が高まってきた「アジャイル開発」や「DevOps」、「コンテナ技術」や「マイクロサービス」を経営層はどう捉えるべきなのか、多数の企業のDX推進を支援しているクリエーションライン 代表取締役社長 安田忠弘氏にインタビュー。ありがちな誤解も含めて、経営層が把握しておくべき“DX推進の要件”を聞いた。

デジタル推進室、作っただけではアウト

── 昨今、DXの取り組みが各業種で進んでいます。デジタル推進室などの専門組織を作ってアジャイルのアプローチでITサービス開発に取り組む例も増えつつあるようです。安田さんはこうしたトレンドをどう見ていますか?

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クリエーションライン 代表取締役社長 安田忠弘氏

安田氏 確かに「デジタルトランスフォーメーション」や「デジタルイノベーション」というキーワードの下、多くの事業会社が取り組みを進めていると思います。ただ、取り組みを推進するスピードや深度については、「どのくらいの危機感を持っているか」によって大きく変わってくるように思います。特に強い危機感が感じられるのは自動車業界や金融業界です。彼らは「このままでは先がない」と本気で考え、SoE領域の取り組みに予算と人を積極的に投じています。

 うまくいかないケースとしては、危機感が薄く、どこか人ごととして捉えているケースの他、プロジェクトに対する中間マネジメント層の関わり方の問題が挙げられます。経営層が危機感を持って号令をかけても、それが中間マネジメント層で止まってしまう。

―― 中間管理層が抵抗勢力化してしまう、一部では“フローズンミドル”とも呼ばれている問題ですね。原因は何だとお考えですか?

安田氏 一つは「仕組みの問題」です。新しい取り組みが予算や評価基準にきちんと組み入れられていなければ、中間マネジメント層にとっては、新たな取り組みはリスクとして位置付けられ、進んで取り組む動機が生まれません。

 もう一つは「文化の問題」です。仮に予算を取ってデジタル推進室などを発足させたとしても、従来のようにベンダーを呼んで「何か提案して」となってしまいがちです。自分たちの収益源や差別化の源泉を作る取り組みである以上、最初から相手に丸投げする姿勢ではダメでしょう。自分たちでやってみようという発想、姿勢が大事です。

── ただ“丸投げ”の根本には「やり方が分からない」という事情もありそうです。

安田氏 「まず自分たちで」と考える企業は本気度が違います。「分からないから丸投げしよう」という発想にはならない。例えば、デジタル推進室も形だけ設置するのではなく、ゆくゆくはITサービスを内製化することを視野に入れている。従って、やり方が分からなくても、従来のように“全部やってくれる”SIerではなく、自社の考えを共有して取り組みを成長させてくれるイネイブラーや、伴走してくれるパートナーを探そうとする。情報収集しながら、自社に合うパートナーをうまく見つけられるかどうかにも本気度が表れる気がします。

「DX=ビジネスの再構築」を意識し、文化と組織を変える

―― やはり、「ビジネス部門からのリクエストを受けて、外部に発注する」というスタイルが、慣習として根強く残っているということなのでしょうね。

安田氏 ここは頭を切り替えなければいけません。企業におけるDXの目的とは、「ITの導入」ではなく、「ビジネスの再構築」です。自社が長年立脚してきた既存ビジネスを、どう時代に合わせて変革していくかという問題です。だからこそ、今のビジネスを捨てる覚悟と危機感を持って本気で取り組む必要があるわけです。自社のビジネスをどう発展させていくかという問題ですから、「AIを使って何かやれ」とか「RFPを書いたから後はよろしく」という話ではないんです。

 また、“短期的なその場限りの売上”を狙う施策でもありません。予算を取って体制を整えたからといって、数年でイノベーションを起こせる保証はないからです。「ビジネスの再構築」である以上、中長期的な観点が不可欠です。

── しかし現実には、ご指摘の通り、現場層はツール導入に視野が閉じがちですし、経営層は短期間で成果を迫りがちなものですよね。

安田氏 そうした傾向を助長してしまうのが、「成果の計測方法と判断基準」がないことです。仮に長期的な視点で本気で取り組んだとしても、その成果を計測し、「この方法で合っているのか、改善した方がいいのか」を判断できなければ意味がありません。どう成果を計測し、どんな基準で判断を下していくのか。それを決めないまま取り組んでしまうと、ビジネスである以上、いくら本気度が高くても取り組みを継続できないという問題が起こり得ます。

── そうした失敗パターンに陥らないためには、どうすればよいとお考えですか?

安田氏 まず環境づくりでは、意思決定の階層を減らすことが重要です。例えばデジタル推進室のような専門組織を作ったら経営層直下の組織にする、一定の権限を委譲して意思決定のスピードを速められるようにする、などです。いずれにせよ、専門組織の取り組みに経営層自身がコミットすることが重要です。

 丸投げについては、内製化を進めることが一つのポイントです。いきなり全てを内製化するのは難しいですから、社外の開発パートナーと一緒にITサービスを作る。ただその場合でも、プロダクトオーナー(アジャイル開発におけるプロダクトの責任者)は自社の人員が務めることで、必ず自社でプロジェクトの責任を持つようにする。「自分たちの責任で売れるものを作るんだ」という覚悟を持つことが大切です。

 そうした前提があった上で、ツール購入では「ツールありき」ではなく「自社の目的に応じたツールは何か」という観点で必要な手段を選ぶ。取り組みの成果の判断基準については、アジャイル開発やDevOpsにおける仮説検証の手法を取り組みに合わせて採用する。ポイントは、開発作業そのもののメトリクスだけではなく、売上、利益、キャッシュフローといったビジネス観点での成果指標が不可欠であることです。これを継続的に監視・改善していく必要があります。

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