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「IEを使わないで」ではなくて「IEを既定にしないで」山市良のうぃんどうず日記(148)

2019年2月初めに「“IEを使わないでください”とMicrosoftが警告」や「IEの使用は技術的負債をもたらす」のようなタイトルのニュース記事を目にしました。タイトルだけ見ると「やっぱりIEはセキュリティが不安」とか、「技術的負債って何?」とか、「IEがなくなると困る」とか、思ったりしていませんか?

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山市良のうぃんどうず日記

情報源では「セキュリティ」については一言も触れていない

 「Internet Explorer(IE)」の使用に関するニュース記事の元になったのは、2019年2月6日にMicrosoftのWindows IT Pro Blogに投稿された以下の記事です。

 タイトルに「危険(perils)」とありますが、この記事ではセキュリティについては一言も触れていませんし、「“IEを使わないでください”とMicrosoftが警告」という内容でもありません。最新のモダンブラウザがある今でも、IEを「既定のブラウザとして(as default browser)」使い続けることに対する負の側面が書かれています。

 “既定のブラウザ”とはWindows 10の「既定のアプリ」の設定のことであり、HTTP/HTTPSプロトコルや.htmlファイルに関連付けられた標準のブラウザです(画面1)。

画面1
画面1 IEは互換性ソリューションであるが、安易に既定のブラウザにすることには問題あり

 筆者がこのブログ記事から読み取った内容をざっとまとめてみました。

  • IEでのアクセスが必要なアプリケーションへのアクセスを、IEに誘導する方法の1つとして、IEを既定のブラウザにすることを決定し、そのようにしているところがある。なぜなら、それが最も簡単だから。一見、「技術的負債(technical debt)」を引き受けた上での決断のように見えるが、実は既定に設定することで、技術的負債を生み出してしまっている(例えば、インターネット上のサイトを参照しようとして表示できない、表示が大きく崩れるなど)。
  • IE 6は、技術的負債にはなってしまうが、シンプルさのために最適化されていた。そのため、DOCTYPE宣言がないページは互換モードで、DOCTYPE宣言が指定されていれば標準モードで表示するようになっていた。その後のIEはDOCTYPE宣言をすることで、幾つかの互換モードを選択できた。しかし、HTMLに何も追加せずに、新たに開発したWebページを単純にローカルイントラネットゾーンに追加して互換表示させるという、安直な方法で済ませている例もある。ローカルイントラネットゾーンの互換モードは「IE 7標準」、つまり1999年に実装されたWeb標準(HTML 4.01のこと)を使用することになる。
  • もうそんなアプローチは十分だ。2014年にIE 11に追加された「エンタープライズモード」を利用することで、IEを既定のブラウザにしなくても、ブラックリスト方式でIEが必要なサイトへのアクセスをIEに誘導できる。ホワイトリスト方式(既定が互換モード)からはもう脱却できる。
  • IEは“互換性ソリューション”である。IEには新しいWeb標準のサポートを追加しない。現在、多くのサイトに問題なくアクセスできているとしても、最近の多くのWeb開発者は最新のモダンブラウザでテストしており、IEではテストしていない。
  • IEを既定のブラウザにするこれまでの方法を続けると、新しいアプリやサイトが出てきたとき、ユーザーがそのアプリを利用できなかったり、見逃してしまったりといった事態になる。そうならないことを手助けしたい。

 「技術的負債」とは、ご存じの通り、アプリケーション開発における場当たり的な対応によって、理想の状態からは懸け離れてしまうことを指摘した表現です。また、セキュリティについては言及していませんが、Windows 10標準の「Microsoft Edge」の方が、IE 11よりもセキュリティに優れていることは、一般論として指摘しておきましょう。

IEが廃止になる予定はなし、今後新たに提供されるIE 11だってある

 「IEがなくなると困る」と誤解した人がいるかもしれませんが、Microsoft Edgeを標準搭載しているのはWindows 10だけです。そして、“互換性ソリューション”としてIE 11も標準搭載されています。

 Windows 10の長期サービスチャネル(LTSC)版やWindows Serverは「IE 11が標準」であり、Microsoft Edgeを搭載していません。また、Microsoft Edgeを追加することもできません。Windows ServerのServer Coreインストールは、これまでブラウザを搭載していませんでしたが、Windows Server 2019およびWindows Server,version 1809からは、オンデマンド機能としてIE 11をオプションで追加できるようになりました(画面2)。

画面2
画面2 Windows Server 2019のServer CoreおよびWindows Server,version 1809では、オンデマンド機能としてIE 11をインストールできる

 Microsoftは2016年1月12日以降、サポート中のWindowsで動作する最新バージョンのIEをサポート対象としました。IEはWindowsのサポート期間中、同様にサポートされます。詳しくは、以下のサポート情報で「IEのサポートポリシー」を再確認してください。最新情報は英語ページで確認できます。少なくとも、LTSCの最新バージョンであるWindows 10 Enterprise LTSC 2019とWindows Server 2019のサポート期限である「2029年1月9日」まで、IE 11は確実に存在し続けます。

 現在は、幾つかのWindowsにおいて、IE 10以前もサポートされています。2019年3月時点では以下の4つのOSでIE 8、IE 9、IE 10がサポートされています。

オペレーティングシステム Internet Explorerバージョン 製品サポート期限
Windows Server 2008 Internet Explorer 9 2020年1月14日
Windows Server 2012 Internet Explorer 10 2023年10月10日
Windows Embedded POS Ready 2009 Internet Explorer 8 2019年4月9日
Windows Embedded 8 Standard Internet Explorer 10 2023年7月11日
表1 現在サポートされているIE 10以前のIE

 英語ページを見ると、新たなニュースを見つけられるでしょう。それは、IE 10のサポートが「2020年1月31日」までに変更されたことと、現在、IE 10が最新となっているWindows Server 2012とWindows Embedded 8 Standardに対し、IE 11の提供が予定されていることです(画面3)。2019年春にパイロット版が利用可能になる予定です。これについては、Windows IT Pro Blogで2019年1月末にアナウンスされました。

画面3
画面3 Windows Server 2012 R2で現在利用可能な最新バージョンはIE 10だが、IE 10のサポートは2020年1月30日に終了。それまでにIE 11が利用可能になる予定

IEへの誘導には「エンタープライズモード」を利用して

 Windows IT Pro Blogでも言及されているIE 11の「エンタープライズモード」は、既定のブラウザをMicrosoft Edge(または他社の最新ブラウザ)に設定し、IEでのアクセスが必要なレガシーアプリケーションに関してはIE 11にリダイレクトする企業向けの機能です(画面4)。エンタープライズモードについては、以下の記事を参考にしてください。

画面4
画面4 既定のブラウザがMicrosoft Edgeの環境で、「エンタープライズモード」を利用してIE 11に誘導された様子

 既定のブラウザをMicrosoft Edge(または他社の最新ブラウザ)にすることは、最新のWeb標準を利用できるだけでなく、最新ブラウザが備えるセキュリティ機能を活用できるというメリットがあります。

 例えば、Windows 10 バージョン1709のEnterpriseエディションで初めて搭載された「Windows Defender Application Guard(WDAG)」は、Hyper-Vハイパーバイザーでホスト環境から分離されたOS環境でMicrosoft Edgeを動作させ、信頼されていないサイトへのアクセスをWDAGのMicrosoft Edgeにリダイレクトします(画面5)。

画面5
画面5 信頼されていないサイトへのアクセスをホストから分離され、機能が制限されたWDAGにリダイレクト

 Windows 10 バージョン1803では、ProエディションでもWDAGが利用可能になりました。次のWindows 10 バージョン1903(19H1)では、Educationエディションにも拡大される予定です。WDAGについては、以下の記事を参考にしてください。

IE 11だけのWindows 7/8.1はどうすればいいの?

 現在、Windows 7やWindows 8.1でモダンブラウザを利用したい場合は、他社の最新ブラウザをインストールすればいいだけです。Microsoft EdgeはIEの後継として開発され(開発コード名「Spartan」)、Windows 10標準の既定ブラウザとなりましたが、Windows 10以外には提供されていません。

 2018年12月初めに、Microsoft Edgeの今後に関する大きなニュースが発表されました。現在のMicrosoft Edgeは、Microsoft製の「EdgeHTML」エンジンを使用していますが、今後は「Chromium」ベースのオープンソースプロジェクトに移行するというものです。

 まず、デスクトップ版のMicrosoft EdgeをChromium互換のWebプラットフォームへと移行し、その後、サポート対象の全てのWindowsにも提供する予定です。また、macOSなど、他のプラットフォームへも提供範囲を拡大する予定とのことです。

 つまり、近い将来、Windows 7/8.1でもMicrosoft Edgeを使って、Web回りの技術的負債から脱却できる可能性が出てきたのです。とはいえ、そもそもWindows 7やWindows 8.1を使い続けていること自体が技術的負債であり、それがまた別の技術的負債を生んでいるのですけれども……。

筆者紹介

山市 良(やまいち りょう)

岩手県花巻市在住。Microsoft MVP:Cloud and Datacenter Management(2018/7/1)。SIer、IT出版社、中堅企業のシステム管理者を経て、フリーのテクニカルライターに。Microsoft製品、テクノロジーを中心に、IT雑誌、Webサイトへの記事の寄稿、ドキュメント作成、事例取材などを手掛ける。個人ブログは『山市良のえぬなんとかわーるど』。近著は『ITプロフェッショナル向けWindowsトラブル解決 コマンド&テクニック集』(日経BP社)。


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