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企業ビジネスのデジタル化は総力戦の段階にGartner Insights Pickup(106)

デジタルトランスフォーメーションの推進には、企業の全ての部門が携わらなければならない。「組織文化」という抽象的なトピックに関する議論だけでは済まない、具体的な課題が数多く存在するからだ。

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ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 2018年、成熟してきたデジタル化の取り組みが転機を迎えた。デジタル施策がCEO(最高経営責任者)の最優先課題の一つとなり、企業がデジタル能力を強化してきたことが背景にある。今や企業の全ての部門がディスラプション(創造的破壊)への対処を迫られている。だが、Gartnerが調査やコンサルティングで得たデータや情報の分析結果によると、多くの企業が求められるスピードで対応を取るべく、自らを再構築または再発明する方法を見つけていることを示している。

 デジタル化がもたらすチャンスと、それに対応しないことによる競争上のリスク。誰もがこの両方に注目している。Gartnerの調査によると、デジタル化は民間企業でも政府機関でも優先課題となっており、多くの場合、必死に取り組まざるを得ない。ビジネスモデルの変更が不可避だからだ。

 ガートナーが行った複数の調査からは、次の結果が得られている。

  • シニアビジネスリーダーの87%が、デジタル化は自社の優先課題と回答
  • ビジネスリーダーの67%が、2020年までに大幅なデジタル化を実現できなければ、自社は競争力を失うだろうと回答
  • CEOの66%が、自社は3年以内にビジネスモデルを変更する見通しと回答
  • CIO(最高情報責任者)の49%が、ビジネスモデルの変更が既に進行中と報告
  • CEOの62%が、ビジネスのデジタル化を目指した経営の取り組みやトランスフォーメーションプログラムを進めていると回答
  • CEOの41%(過去最高)が、自社をイノベーションパイオニアと認識

 Gartnerの市場データや業界および企業情報の分析結果は、企業の全ての部門がデジタル施策の目標達成に向けた社内変革に携わることができ、かつそうしなければならないことも示している。

多くの企業でデジタルトランスフォーメーションが難航

 トランスフォーメーションは企業の将来を大きく左右するが、企業はその実践に苦労する場合が多い。特に、デジタル化では期待された結果が出ず、企業の弱点が浮き彫りになることがよくある。

  • 組織変革の3分の2は失敗している
  • ストラテジストの72%は、自社のデジタル施策による売上高は期待に届いていないと回答
  • 企業の67%は、デジタル施策による利益の伸びが期待を下回っている
  • ビジネスモデルの変更によって自社がどのように成功を収めるのかを明確に把握しているコーポレートストラテジストは、全体の20%にすぎない
  • 研究開発(R&D)リーダーのうち、トランスフォーメーションプロジェクトの評価に現在使っているモデルを信頼している人の割合は、18%にすぎない
  • トランスフォーメーション投資におけるR&D投資は減少しており、2017年は2013年と比べて23%少なかった
  • 従業員の70%は、自分は仕事に必要なスキルをマスターしていないと回答

全てはビジネスモデルの変更から

 企業がデジタルビジネスで期待と結果のギャップに直面しているのはなぜか。Gartnerの調査によると、ビジネスモデルの変革の道筋を戦略に沿って明確に設定することが成功に不可欠であると示している。

 一部の企業は、デジタルビジネスを、自らと自らのビジネスモデルを完全に再発明する機会と位置付ける。一方、技術を活用して既存業務の最適化や拡張を行おうとしている企業や部門もある。

 企業がデジタル施策で目指す目標の範囲がどのようなものかにかかわらず、ほとんどのコーポレートストラテジストは安全策を取り、漸進的な改革に向けた投資を好む傾向がある。だが、一部の企業には、もっと野心的なストラテジストがいる。こうしたストラテジストは全く新しいビジネスモデルを試し、関連するリスクを軽減する方法を見いだそうとする。改革志向の強いこれらのストラテジストは、特定の手順を踏んで将来の差別化要因を識別し、組織全体を迅速な方法でうまく巻き込み、ビジネスモデルの変革の道筋を明確化しようとする。

 コーポレートストラテジストは戦略計画の策定を日々行う中で、組織が企業ミッションに沿った行動を取るように導く必要がある。こうした方向性の明確化が、デジタル施策では極めて重要になる。それがなければ、企業の部門は自らの変革における施策に優先順位を付けられない。

組織文化の明確化と能力の評価

 コーポレートストラテジストがデジタルビジネスモデルの新しい枠組みを導入する必要があるように、企業の全ての部門が、ディスラプションによってステークホルダーとの関係や組織文化、求められる機能が変わることを想定し、業務のやり方を再検討する必要がある。

 新しいスキルは需要が高く、既存のスキルは進化していく一方で役に立たなくなっていく。従業員はスキルが通用しなくなることを心配しており、適切なスキルアップが大きな関心事だ。戦略的な人材計画や管理、再教育の取り組みが、人事部門や他部門のリーダーにとって優先事項となっている。だが、マクロレベルではデジタルデクステリティ(デジタルを使いこなす力)が求められている。これは、従業員がデジタルの取り組みで迅速に有益な結果を出すのに役立つ一連の信念であり、考え方や行動の総体だ。

 今では、デジタル技術と同様にデジタル人材の問題にも、全ての組織のリーダーがしっかり目を配るようになっている。

 だが、ディスラプションは文化的な緊張も引き起こす。企業がデジタル施策で目指す目標は長年の業務目標と相反し、それぞれに基づく優先順位が競合してしまい、従業員はどうバランスを取ればよいか分からないからだ。特に、戦略に沿った明確化がなされていない場合――例えば、スピードと質、効率とイノベーションのそれぞれどちらを重視すべきか従業員は判断できない。従業員がこうした緊張を強く感じるほど、ストレスが高まりパフォーマンスが悪化してしまう。

 先進的な企業では、経営陣が先手を打ってこうした緊張を表面化させ、難しいトレードオフの存在を認め、各部門のリーダーが優先順位を設定して説明できるようにサポートする。これにより、従業員が十分な情報を基に判断を下す効果的な文化が形成され、従業員のパフォーマンスも向上する。

「顧客を起点にする」ことの意味

 デジタル化は、企業に変革を迫る顧客ニーズのシフトによっても特徴付けられる。今日の流動的なグローバル経済状況が、このニーズのシフトに拍車を掛けている。企業の全部門のリーダーはこうした環境の中で、デジタル施策での目標追求を商業的成功につなげる役割を果たす必要がある。

 例えば、優れたサプライチェーン部門は既存業務で培ってきたアジリティーや高い応答性を生かし、ビジネス環境のダイナミックな変化に合わせてデジタルサプライチェーンを機能させている。

 販売やサービスの分野でも、リーダーは、従業員が新しいパラダイムの中でより効果的かつ生産的に仕事ができるよう、ますます力を入れている。

 B2B販売で営業担当者が接する購買担当者は、デジタルチャンネルで調査を行い購買担当者グループ内で情報交換を行うのに費やす時間の方が、営業担当者と直接やりとりする時間よりも長い。先進的な営業リーダーは、購買担当者グループがこの複雑な購買プロセスをスムーズに進められるように、営業担当者に“バイヤーイネーブルメント”のアプローチでサポートに当たらせている。

 先見の明があるサービスリーダーは、サービス担当者が仕事でより良い体験ができるよう注意を向けている。サービスを直接改善するためのツールを担当者に豊富に持たせるよりも、そうする方が顧客の利益になるからだ。

 パフォーマンスの高いマーケティング部門は、市場が急速に変化する中で自社ブランドの競争力を維持するためにアジャイルな業務体制を構築している。こうしたマーケティング部門のリーダーは、多様なチームがそれぞれ状況に応じた機能を柔軟に発揮できるよう、自社組織の枠組みにとらわれず、なすべき仕事に基づいて人員やリソースを割り振ってチームを編成している。

デジタル化を後押しせよ、少なくとも足を引っ張るな

 デジタル時代には、企業は自社とそれに関わる消費者のサイバーセキュリティを確保する必要もある。ほとんどの企業ではCIOがサイバーセキュリティに責任を持つが、情報と技術を活用して高いパフォーマンスを発揮している企業は、取締役会がサイバーセキュリティの最終責任を負う場合が多い。CIOは皆、取締役会とCxO(最高責任者レベル)の役員に、サイバーセキュリティリスクについてどのように考えるべきか、大きな責任をどのように引き受けるべきかを教える必要がある。

 このようにステークホルダーが多岐にわたり、責任の分担が見直される新たな運用上の現実は、社内の全部門に影響をもたらしつつある。各部門はビジネスモデルの進化に伴い、価値命題や顧客基盤、利益モデル、業務機能が変わる中で主要な責任を果たし、デジタルビジネスのスピードに合わせて新しいリスクを管理しなければならない。

 先進的な調達部門はビジネスパートナーに信頼感を与え、商談の過程でビジネスパートナーが感じ得る懸念や不安、憤りを軽減する。もし、ビジネスパートナーがこうした負の感情を募らせて溝が残ると、調達側が望んだ条件で取引がまとまっても、結果的に高い買い物になってしまう場合がある。だが、両者に信頼関係が成立していれば、そうした事態は避けられることが多い。

 ガバナンスの確保が重要な責任を果たす部門(リスク管理、監査、財務、法務、コンプライアンスなど)のリーダーは、社内の意思決定が非常に分散していても、自らのノウハウを適用し、ビジネス戦略や業務に一定の枠をはめる効果的な方法を見いだしている。

出典:Mobilize Every Function in the Organization for Digitalization(Smarter with Gartner)

筆者 Jackie Wiles

Content Marketing Manager


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