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川崎重工がエッジAIを活用する理由――電車のドアに挟まる物を検出、伝達まで猶予は2秒AIモデルの精度を上げるには(1/2 ページ)

「製造業の現場では『現場で現物を見て現状を判断する』といわれている。だが、『ワークライフバランス』『働き方改革』『労働人口の減少』がささやかれる今、いかに省力化しつつ生産性を上げるかが求められている」――川崎重工業では現場の省力化を実現するためエッジAIを用いた研究開発に取り組んでいる。その内容とは?

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 電車1両当たり15GB以上のセンサーデータを日々収集している川崎重工業(以下、川崎重工)の車両カンパニーでは、現場の省力化を実現するため、AI(人工知能)や組み込みディープラーニング(以下、エッジAI)を用いた研究開発に取り組んでいる。

 連載「“おいしいデータ”で、成果が出るAIモデルを育てる」第4回は、2019年2月に開催された「Edge Deep Learning Summit」で川崎重工業 車両カンパニー 事業開発本部の中岸慶太氏が講演で紹介した研究開発の内容を、要約してお伝えする。

ドアに挟まる物をAIモデルで検出できないか?

 初めに紹介したプロジェクトは、鉄道駅での「戸挟み検知」だ。車掌がドアを閉める際には、プラットホームのカメラを利用して、ドアに挟まった人や物がないかどうかを確認してからドアを閉めている。しかし、人身事故防止のためにホームドアの設置が進んだ結果、車掌の視線やカメラの映像からでは、ドアに物が挟まっていないかどうかが分かりづらい状況が増えてきているという。

車掌の視線の現状
車掌の視線の現状
 川崎重工業 車両カンパニー 事業開発本部 新事業推進部 新事業推進課 担当課長 中岸慶太氏
川崎重工業 車両カンパニー 事業開発本部 新事業推進部 新事業推進課 担当課長 中岸慶太氏

 「車掌の視線からではなく、カメラをどこか別の場所に設置し、戸挟みの有無を確実に検知して車掌に伝える方法を確立できれば、より安全に鉄道を運行できるのではないかと考え、研究開発を開始した」

 中岸氏はまず、電車のドアで最も挟まれる傘を識別できるかどうか、6090枚の「白色の傘を挟んだドア」(以下、戸挟み物あり)と2035枚の「何も挟んでいないドア」(戸挟み物なし)の画像を学習データとしてAIモデルを作成して検証。しかし、戸挟みを識別できなかったため、傘の色を5種類(白黒赤青緑)にして、5527枚の戸挟み物ありの画像と、5301枚の戸挟み物なしの画像を学習させてAIモデルを作成した。ところが、色を増やしても戸挟み物以外の部分にも反応していることが、ヒートマップによる検証で分かったという。

AIモデルがドア部分を戸挟み物と検知していた(画面右)
AIモデルがドア部分を戸挟み物と検知していた(画面右)

 「誤検知が起きる原因を探っていて、『戸挟み物あり』の画像には、さまざまな種類の画像があったが、『戸挟み物なし』は単調で変化がなく、多くの画像が類似している点に気付いた。もっとさまざまなドアの画像を学習させれば精度が上がるのではないかと、戸挟み物なしの画像を回転させてさまざまな角度の画像を用意した」

オリジナルの画像(左上)を回転させたドア画像を学習データに含めた
オリジナルの画像(左上)を回転させたドア画像を学習データに含めた

 さらに、戸挟み物ありの画像を2万7373枚、戸挟みなしの画像を2万6493枚用意して学習させた結果、傘はもちろん、指や小銭入れのような別の戸挟み物を検知するAIモデルを開発できたという。

戸挟み物を検知する精度が向上した(画面右)
戸挟み物を検知する精度が向上した(画面右)

 中岸氏はなぜ精度を上げることができたのか考察する。

 「今回の研究開発で分かったことは、画像枚数を確保することを目標にするのではなく、画像の種類を増やすことを目標にするのが大切ということだ。画像の種類を増やしていけば、自然と枚数も増えるからだ」

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