検索
連載

ハイブリッドクラウド時代におけるITインフラストラクチャモダナイゼーションの実像Gartner Insights Pickup(117)

企業において、クラウド中心の考え方は既に広がっているが、エッジへの注目度も急上昇している。今後のITインフラ最適化に向けて、プライベートクラウド、パブリッククラウド、エッジの役割を整理する。

PC用表示 関連情報
Share
Tweet
LINE
Hatena

ガートナーの米国本社発のオフィシャルサイト「Smarter with Gartner」と、ガートナー アナリストらのブログサイト「Gartner Blog Network」から、@IT編集部が独自の視点で“読むべき記事”をピックアップして翻訳。グローバルのITトレンドを先取りし「今、何が起きているのか、起きようとしているのか」を展望する。

 CIO(最高情報責任者)がオフィスにこもり、「クラウドソリューションの最適な組み合わせはどのようなものか」「人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、ブロックチェーンのような新しい技術を統合的に管理するために、エッジコンピューティングを利用すべきか」を判断しようとしている。

 このCIOは、クラウドが未来を形作る要素の1つであることを知っているが、異種混在型IT環境の課題に対処するには、ハイブリッドソリューションが役立つと考えている。

 「これからは、従来型技術やクラウド、エッジという各種ITの組み合わせに向けた取り組みが進んでいく」と、Gartnerのアナリストでシニアディレクターのサントシュ・ラオ氏は、2019年3月にドバイで開催されたGartner IT Symposium/Xpoで語った。

 2022年まで、クラウドベースのIT製品への企業の支出は、従来の(クラウド以外の)支出を上回るペースで増加する見通しだ。主要なエンタープライズIT市場にクラウドベースの製品が占める割合は、2018年には19%だったが、2022年には28%に上昇するという。「クラウドファースト戦略(クラウド展開を最も重視し、優先的に推進する戦略)を採用しない企業は、ライバルに後れを取ってしまうだろう」(ラオ氏)

 クラウドコンピューティングが主流となる中、パブリッククラウドとプライベートクラウドがデジタルビジネスをけん引している。だが、センサーやIoTエンドポイントが膨大なデータを高速に生成するようになったことから、CIOやITリーダーはエッジコンピューティングの導入により、データを生成する“モノ”やユーザーの近くでデータを処理する必要にも迫られている。「エッジコンピューティングの導入を転機として、各種ITの組み合わせの追求は、新たな展開を見せることになる」と、ラオ氏は指摘する。

 CIOは、クラウドやエッジ、従来型ITの、自社にとって最適な組み合わせを選択するという課題に直面している。

プライベートクラウドの利用目的

 Gartnerは2020年には、純粋なオンプレミスプライベートクラウドで実行されるエンタープライズワークロードの割合は、エンタープライズワークロード全体の5%を下回ると予想している。企業がプライベートクラウドを展開するのは、パブリッククラウドが不適切または不十分と考えられる場合だ。ほとんどの社内プライベートクラウドはシングルテナントであるか、または特定の社内ユースケースやビジネス部門に利用されているが、スケーリングが困難だ。

 プライベートクラウドは、動的な、あるいは予測不能なコンピューティングニーズを抱え、セキュリティやビジネスガバナンス、規制の要件を満たすために、自社環境を直接管理する必要がある企業に最適だ。

浸透が進むパブリッククラウド

 Gartnerは、2019年にはパブリッククラウドサービス市場が前年比で17.5%成長し、2140億ドル規模になると予想している。パブリッククラウドの普及がますます進んでいるのは、パブリッククラウドを使用することでコストの節約や、オンプレミスオプションよりも高いセキュリティを実現できる他、「いずれは全てがクラウドに移行する」という考え方が広まっているからだ。

 企業はクラウドファースト戦略の一環として、複数のクラウドコンピューティングプロバイダーを利用するマルチクラウドモデルを採用し、パブリッククラウドサービスをより高度に活用しなければならない。大部分の企業は1社のプロバイダーを利用しているが、30%はアプリケーションポートフォリオの一部を2社目のプロバイダーに移行しようとしている。

 「マルチクラウドは、もはや導入『するかどうか』ではなく、『いつ』導入するかの問題だ」と、ラオ氏は指摘する。

 「マルチクラウドコンピューティングは、クラウドプロバイダーロックインのリスクを低下させる。さらに、クラウドの基本的なメリットであるアジリティ、スケーラビリティ、弾力性に加えて、サービスの回復や移行の機会も提供する」(ラオ氏)

 マルチクラウドコンピューティングを好むCIOがいる一方で、ハイブリッドクラウドモデルを選ぶCIOもいる。ハイブリッドクラウドモデルでは、パブリッククラウドプロバイダーとプライベートクラウドプロバイダーの両方のクラウドサービスを組み合わせて利用する。

 パブリッククラウドとプライベートクラウドを組み合わせたハイブリッドクラウドは、両者の“良いとこ取り”を可能にする。つまり、パブリッククラウドのコスト最適化、アジリティ、柔軟性、スケーラビリティ、弾力性といったメリットと、プライベートクラウドの管理性、コンプライアンス、セキュリティ、信頼性といったメリットの両方を提供する。

 「2019年、ハイブリッドITが一般化するだろう。ハイブリッドアーキテクチャにより、企業はさまざまなプラットフォームにわたって、データセンターをクラウドサービスと組み合わせて拡張できるようになる」(ラオ氏)

エッジがクラウドを補完

 センサーやIoTエンドポイントが大量のデータを継続的に生成するようになったため、企業はプライベート/パブリッククラウドと共に、エッジコンピューティングも活用しなければならなくなっている。エッジコンピューティングでは、レイテンシの低減を目的に、アプリケーション、モノ、ユーザーの近くにコンテンツやデータを置き、それらの処理もそこで行う。この技術はクラウドコンピューティングを補完するので、大企業の5割が、2020年のプロジェクトにエッジコンピューティングの考え方を統合しようとしている。

 「クラウドコンピューティングとエッジコンピューティングは補完的だ。競合しているわけではなく、お互いに相いれないものではない」と、ラオ氏は語る。

 「両者をともに使用する企業は、集中モデルと分散モデルの両方のメリットを最大化するソリューションを利用することで、双方のメリットの相乗効果が得られる」(ラオ氏)

 CIOはクラウドコンピューティングを利用して、サービス指向モデルと集中管理および調整の仕組みを構築できる。また、エッジコンピューティングを利用して、クラウド上の処理の一部を、ネットワークに常時または断続的に接続されるデバイスに分散できる。

 さらに、一部のCIOは、エッジコンピューティングのトポロジカルな考え方を生かし、WANコストを半減させるとともにサービスの回復性を強化し、ユーザーエクスペリエンスを200%向上させている。

 クラウドコンピューティングは、モダンIT環境の「ニューノーマル(新たな常態)」となっており、2017年に68%だった企業におけるクラウド普及率は、2019年には85%に上昇する見通しだ。「エッジは、IT部門が取り組んでいるレイテンシ、帯域幅、データプライバシー、自律性の管理の最前線を担い、進化していくだろう」(ラオ氏)

出典:Modernize IT Infrastructure in a Hybrid World(Smarter with Gartner)

筆者 Laurence Goasduff

Director, Public Relations


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る