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コンサルは見た! 情シスの逆襲(5):

契約前作業なんて当たり前?――常務は分かってくれない (1/3)

オンラインショップ「スマホ・デ・マルシェ」の開発が始まって、早2カ月。開発は順調に進んでいるが、契約がまだ結ばれていないことが発覚した。担当の小塚は、承認を止めている総務担当常務に手続きを進めてくれるようお願いしに行くが……。

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コンサルは見た!

連載「コンサルは見た!」は、仮想ストーリーを通じて実際にあった事件・事故のポイントを分かりやすく説く『システムを「外注」するときに読む本』(細川義洋著、ダイヤモンド社)の筆者が@IT用に書き下ろした、Web限定オリジナルストーリーです。



登場人物

ラ・マルシェ

都内に十数店舗を展開する、創業50年の高級スーパーマーケットチェーン

kozuka

小塚大地

取締役 兼 営業部部長。オンラインショップ「スマホ・デ・マルシェ」の発案者


hanyuu

羽生孝志

情報システム部部長。小塚の同期。「AI在庫管理システム」の発案者


murakami

村上克典

総務担当常務取締役


A&Dコンサルティング

大手コンサルティングファーム

misaki

江里口美咲

ITコンサルタント。凄腕系。小塚の相談に乗っている


sirase

白瀬智裕

「A&Dコンサルティング」に化粧品メーカーから出向中の新米コンサルタント。

美咲の後輩として、システム開発やIT業界について猛勉強中

前回までのあらすじ

老舗スーパーマーケットチェーン「ラ・マルシェ」が、新社長肝いりのプロジェクト「スマホ・デ・マルシェ」の開発をスタート。ECサイトの開発実績が豊富な中国のベンダーが見つかり、開発は順調に進んでいる(かのように見えた)。

しかし、営業部主導のEUC(End User Computing)だからと、ベンダー探しと契約周りだけ押し付けられた情シス部長の羽生は、もやもやとしたものを感じていた。さらに、社内には新社長退任をたくらむクーデターの動きが……。

まだ、契約してなかったんですか?

misaki

 「まだ、契約してなかったんですか!!!」

 隣に座る白瀬が思わず視線を向けるほど、美咲の声は大きかった。対照的に電話の向こうの小塚の声は弱々しかった。

 「え……ええ。初めての取引先ということで、その……社内の承認がなかなか降りませんで……」

 「もう開発が始まってから2カ月以上たつんですよね? さすがにまずいんじゃありませんか!」

 「そう……ですよね。ウチの羽生……情シス部長は、『システム開発プロジェクトの発注じゃあ、そんなの当たり前だ』って言うんですが、やっぱり心配になりまして。それで江里口さんにも聞いてみようと……」

 美咲は小さく首を振った。

 「確かにITの世界では、納期優先で作業を先行して時間のかかる契約は後、なんてプロジェクトがたくさんあります。実際それで何事もなく完了するものも多いことも事実です。でも……」

 「でも?」

 「お金もスケジュールも作業範囲も決めないで作業をしたら、後になってモメることも日常茶飯事です。後になってベンダーから高額の請求が来たり、やってくれると思っていた作業をやっていなかったり。そんな危険はいくらでもあります」

 「作業をやらない?」

 「『ウチはコードを書くまでしかやりませんから、テストはそちらで』とか、大切な機能を実装してくれなかったとか、そういう話もよく聞きます」

 「でも、一応口頭では金額も作業の分担も……」

 「確かに口頭でも契約は契約ですけど、相手が本当に契約のつもりでそういったのかどうか……」

 「それは……確かに単なるセールストークの可能性もあるかも……」

 「そもそも、どうしてそんなに契約に時間がかかってるんですか?」

 「さっきの羽生という情シスの同期によると“上”の承認がなかなか降りないんだと……」

 「上?」

 「総務担当の常務の承認が必要なんです」

 「だったら、その常務に掛け合って一刻も早く契約を結ばないと。後で御社が苦しい立場に追い込まれる可能性だってありますよ」

 「そうですよね。とにかく常務に、もう1回頼んでみます」



 美咲が通話を切ってスマホを机の上に放り出すと、心配そうに白瀬が話しかけた――「もしかして、契約前作業?」

 「そうなのよ。IT業界じゃ当たり前のように行われているけれど、裁判の例を見ると、ベンダーが途中でバンザイしてシステムが未完成のまま、なんて話はよくあるし……」

 「心配し過ぎなんじゃない? そんなことしたら、ベンダーは金を取りっぱぐれるじゃないか。契約してなかったら請求もできないだろうし」

 「それが、そうとも言い切れないのよ……」

 美咲は心配そうに宙をにらんだ。

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