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SOMPOの実例に学ぶ、大企業がアジャイル/スクラム、マイクロサービス、コンテナを導入する際の最適解エンタープライズの特性を踏まえたスクラムのアレンジは正義(1/2 ページ)

社会のあらゆる領域で「デジタル化」が進む現在、企業には、社会状況や消費者動向の急速な変化に、デジタル技術を武器としてビジネスを迅速に対応させる「デジタルトランスフォーメーション」(DX)への取り組みが求められている。アイティメディアが、2019年12月11日に開催したセミナー「ITmedia DX Summit 2019年冬・PaaS編」の基調講演では、SOMPOホールディングス デジタル戦略部の西野大介氏が、エンタープライズに「アジャイル」「マイクロサービス」「コンテナ」といった新たな手法や技術を取り入れ、DXを推進していく際のポイントについて、自社での事例を交えつつ紹介した。

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SOMPOホールディングス デジタル戦略部 課長代理 西野大介氏

 アイティメディアは、2019年12月11日に富士ソフト アキバプラザ アキバホールにおいて「ITmedia DX Summit 2019年冬・PaaS編 『DX時代のビジネス展開、その仕組みとは何か』〜マイクロサービス、コンテナの生かし方と、不可欠な組織体制とは〜」を開催。基調講演は「モダンアプリケーション開発、エンタープライズにおける“ベストプラクティス”−SOMPOが進めるアジャイル開発の実態−」と題し、SOMPOホールディングスでデジタル戦略部の課長代理を務める西野大介氏が登壇した。

 西野氏が所属する「デジタル戦略部」は、SOMPOグループの持株会社であるSOMPOホールディングス内にある組織だ。B2C(Business to Consumer)向けを中心としたシステム(デジタル案件)の企画と開発を行う。

 デジタル戦略部では、AIやIoTといった先端的な技術も積極的に採用しながらプロダクト開発を行っている。その成果は既に、未来の介護の実験施設としてSOMPOホールディングスが開設した「Future Care Lab in Japan」で公開されている「自動運転車椅子」など、さまざまな形でリリースされている。

SOMPOがデジタル戦略部に「Sprintチーム」を設けた理由

 西野氏は、金融系システムを取り扱うSIerから、2015年にSOMPOシステムズに転職。2019年4月からSOMPOホールディングスの「デジタル戦略部」に所属している。SOMPOシステムズ在籍時には、基幹システムのCOBOLからJavaへの全面移行プロジェクトなどを担当しており、SOMPOグループ内で「SoR」(System of Record)と「SoE」(System of Engagement)の双方を手掛けてきた実績を持つ。なおSOMPOシステムズ内にも「デジタルトランスフォーメーション本部」があり、両組織は連携しながらおのおののデジタル案件開発を行っているという。

 西野氏は「昨今、エンタープライズにおいても、アプリケーションのモダン化が盛んに進められている。モダンアプリケーションの開発において、アジャイル、マイクロサービス、サーバレスといった新たな手法がバズワードのようにもてはやされる半面、それらをエンタープライズへ適用する際の難しさにあえぐ企業の声も目立つようになった。この講演では、それらの開発手法をどのように取捨し、適用し、運用していくべきかを、当社の事例を基に解説していきたい」とした。

 デジタル戦略部内には、現在「R&Dチーム」と「Sprintチーム」の2チームが組織されている。R&Dチームは、企画と各ビジネス部門との連携を主な役割としており、開発そのものは行わない。当初、デジタル戦略部には、R&Dチームのみ存在していたが、2018年7月に、内製で開発を行う「Sprintチーム」が新設された。設置の目的としては「高速な試行錯誤が行いたい」「ビジネス部門との連携をより密にしたい」「最新の開発ノウハウを自社に蓄積したい」などのニーズがあったという。


2種類の組織(西野氏の講演資料から引用)

 Sprintチームでは、DevOps、アジャイル開発、スクラムといったモダンな開発手法やツールを導入しつつ、およそ1〜3カ月といった短期間でプロダクトの開発を手掛けている。今回の講演で西野氏は、このSprintチームにおいて「スクラム(アジャイル)」「マイクロサービス」「コンテナ」といった手法や技術を、どのような検討を経て、導入、運用しているのかを紹介した。


“バズワード”の旧来手法との比較(西野氏の講演資料から引用)

 西野氏は、前提として「バズワードとなっているどの技術や手法も、決して全ての課題を解決できる『銀の弾丸』ではない。有用性について正しく理解し、それが自社の狙いにうまくはまるかどうかを検討することが重要」とした。

エンタープライズへの「スクラム」導入は「組織作り」がカギ

 Sprintチームで採用している「アジャイル」「スクラム」について、西野氏はまず、その大まかな定義を紹介した。「アジャイルソフトウェア開発宣言」を引きながら、アジャイルは「旧来の開発手法に価値を認めつつも、過度な仕組み化は避け、より顧客が求めているものに重きを置き、開発とビジネスの分業化を避けながら、計画の順守よりも変化への対応を重視しながら開発していくというマインドセットを明文化したもの。内容としては組織論の一つであり、特別に目新しいものではない」とした。また「スクラム」については、「アジャイルの理念を基盤に、より現場の開発に適用しやすいようフレームワーク化したものと解釈すると扱いやすい」とした。

 現在、「アジャイル」や「スクラム」と対義的に扱われているのは、いわゆる「ウオーターフォール」と呼ばれる従来型の開発プロセスである。「スクラム」は「ビジネスと開発が一体化した組織によって迅速に開発が可能」「軌道修正を前提としており柔軟に変更が可能」といったメリットがある一方で、表裏一体のデメリットとして「一体化した組織が作れることが導入の前提となる」「変更が可能であるためにマネジメントの難易度が上がる」といった課題があることを西野氏は指摘した。こうしたメリットとデメリットの表裏一体構造は「ウオーターフォール」についてもいえる。「縦割り構造になりがち」というデメリットは「分業がやりやすい」というメリットでもあり、「変更しにくい」というデメリットは「大規模であっても管理しやすい」というメリットを生み出す。


アジャイルとウオーターフォールの比較(西野氏の講演資料から引用)

 Sprintチームでは、スクラムの導入に当たって、ビジネス部門と開発チームとの一体化組織を構成するために、独自の組織構造で解決を図った。プロジェクトごとに、プロダクトオーナーに当たるビジネス部門(BU)のとりまとめと「窓口」的な役割を担う「BU担当」、開発側でエンジニアやデザイナーを取りまとめ、品質保証や全体運営、ユーザー折衝を行う「チーフエンジニア」という管理者的な役割を設定。プロジェクトにおいては、この2つの役割を介して、BU側を巻き込み、開発側とコミュニケーションできる体制を整えているという。


Sprintチームの構成(西野氏の講演資料から引用)

 西野氏は、エンタープライズにおけるアジャイル導入に当たっては、プロジェクトごとに従来型の「ウオーターフォール」との比較で、本当に「アジャイルが適しているのか」、一体化組織の構成に当たって、マネジメントや仲介を行う役割を果たせる「スキルを持った人材が確保できるか」「適用規模(範囲)をどうするか」といったことについて個々に検討すべきだとした。

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