コミュニケーション・ツールの活用事例(同期型編)企業コミュニケーションとツール活用法(4)(2/2 ページ)

» 2006年01月28日 12時00分 公開
[長谷川玲,リアルコム]
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カテゴリ[C]の事例−固定/携帯電話、IP電話/ソフトフォン

 電話に関しては、あらためて活用事例を紹介する必要はないだろう。総務省の平成16年度「通信利用動向調査」によれば、企業のIP電話の利用状況は、導入率前年比16.7ポイント増で27.8%と倍増している。特に、事業所間内線での導入率が最も高く、次いで同一事業所内線、外線での利用の順になっている。IP電話への置き換えは進んでいるわけだが、その導入理由のトップは通話料の削減(87.6%)なのである。これに続く理由も、「PBXの保守・運用コスト」「電話移設コスト」など、とにかくコスト削減が主流で、どのように活用するか観点はあまり重視されていないようだ。IP化による情報と通信の融合でさまざまな可能性は広がるが、同調査によれば「通信網のIP化によるメッセージングの統合」を理由に挙げているのは8.5%と少ない。

関連リンク
通信利用動向調査(総務省 情報通信統計データベース)

 IP電話は内線番号を電話機に割り振る(従来型の電話網では回線に振られる)ことができるため、社内の席替え時にも社員が自分のIP電話機を持って移動すれば同じ番号が使える。そこで内線番号に社員番号を使って、社内のポータビリティを高めている企業も多い。また、フリーアドレスオフィスを実施している企業などでは、携帯電話(PHS、無線IP電話)を社員1人1人に配布し、それを内線として使うといった活用例も見られる。フリーアドレスオフィスは、チームメンバーのデスクが日々変わるという物理的な環境変化があり、コミュニケーション活性化の面でも有効な施策の1つである。

 だが、IP電話やモバイル電話そのものは、社内のコミュニケーションを活性化させたり、コスト削減以外の何かしらの課題を解決したりするものとは考えられてはいないようだ。むしろ「フリーアドレスオフィス」という職場環境を構築するためのインフラといえる。この状況を考察するならば、電話(ひょっとすると電子メールも)はそれほどまでに“当たり前”のものと見なされているということかもしれない。

 なお、IP電話やソフトフォンにはIM同様にプレゼンス確認機能を備えており、誰が出社しているのか分かりづらいフリーアドレスオフィス環境においては大きな効果を発揮する。

 さらにプレゼンスはグループウェアなどの蓄積型ツールと組み合わせて使うと便利である。例えば資料作成者の名前やユーザーIDが表示されるグループウェアに、プレゼンス情報を連動させ表示するようにすれば、当該資料に関して質問があるときに即座に連絡ができる。これによって、社内コミュニケーションを誘発し、蓄積型コミュニケーション・ツール上にある情報の流通や知識の共有を促すことになる。蓄積型とリアルタイム型ツールを組み合わせることで、相乗効果が期待できるのだ。

カテゴリ[D]の事例−Web/TV会議

 Web/TV会議のメリットは、映像により知覚的にメッセージを伝えることができ、受信者側のメッセージ理解を助けることである。コミュニケーションの種類や内容によっては、このような“リッチ”なメディアが極めて有効になる。これは電子メールではなかなかなし得ない優位性の1つである。一方、デメリットとしてはメンバー間での日程の調整など、事前の調整が通常の会議と同様に必要であることがある。リアルタイムにやりとりはできるが、「いますぐ話したい」というときには向かない。また、画像や音声など複数メディアを扱うために、機器の購入や利用前のセッティングが必要になる。それでも使い方によっては、実際に人間が集まって行うリアルな会議よりも効果的な場合がある。このような特徴を持つWeb/TV会議を使った事例を見てみよう。

 まず1つ目は、拠点や地域を超えたコミュニケーションの例である。フランチャイズ形態の企業、あるいは営業所や工場などの拠点が多い企業では、Web/TV会議の導入が比較的進んでいるようだ。ある企業では、全社会議を行う場合、実際に人間が集まるものと同時並行して、各拠点に向けてWeb会議システムによる情報発信を行っている。こうすることで、遠隔拠点にいる従業員はわざわざ遠い会場に移動することなく、リアルタイムに会議に参加することができる(大企業ではかねてから衛星会議システムなどで実施されていた)。

 空間的な制約がなくなることによる交通費節約といったコスト効果だけでなく、音声や画面データなども保存できるので、参加できなかった従業員は後から会議の内容を参照することができる。また一般的に、こうした会議の議事録はテキストで作成され、検索・参照・閲覧にも利用できる(これらは蓄積型ツールとの連動も考えられる)。実際に外資系企業などでは、本社から発信されるトップからのメッセージや新しく設定された目標・ゴールなどを、Web会議で見られるようにしている。トップ・メッセージやゴールのように毎日内容が更新されるようなコンテンツでなければ、デジタル化しておくことで必要に応じて何度も再利用ができるのである。

 さらに、「拠点を越えたコミュニケーション」「再利用」というキーワードから、eラーニングをイメージする人もいるだろう。実際に、こうした仕組みは研修や技術継承へ応用することもできると考えられる。複雑な機器の操作方法や文章では表現しにくい情報を共有したいというユーザー企業の中には、Web/TV会議ツールが有効ではないかと考えているところもある。eラーニング・システムはあくまで「外枠」を提供するツールであり、導入した場合には中身(コンテンツ)は自社ないしは外注して制作する必要があるが、Web/TV会議の内容を記録することにより、自社のノウハウやナレッジを活用した、それなりのeラーニング・コンテンツになるのだ。

 なおWeb/TV会議システムの機能面についていえば、ホワイトボード・ソフトやプレゼンテーション・ソフトなどのアプリケーションを共有できるものも増えている。ペン入力に対応したシステムを導入すれば、実際に人が集まって行う会議と遜色ない議論を進められるだろう。IMと連携して、会議中に質問を受け付けたりすることも可能だ。


 次回は、各コミュニケーション・ツールのメリット/デメリットと組織の目標、解決したい課題などを踏まえながら、社内におけるコミュニケーション・ポリシーをどのように設定し、ツールをどう選択・組み合わせて導入していくべきかについて、整理していく予定だ。

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長谷川 玲(はせがわ れい)

東京工業大学卒業後、ドイツ系・米系ソフトウェア企業にてプロダクトマネジメント、製品マーケティングなどに従事。リアルコムではKnowledgeMarket製品のコミュニケーション力強化に向けて、パートナリングやマーケティングを担当。


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