厳しくなるIT企業の会計監査、あの会社は大丈夫か?トレンド解説(13)(1/2 ページ)

日本公認会計士協会が、情報サービス業における監査上の問題を指摘し、報告書を発表した。どのような問題と影響があるのだろうか──日本公認会計士協会に伺った

» 2005年05月12日 12時00分 公開
[山口 邦夫,@IT]

IT関連企業のための会計ガイドライン

日本公認会計士協会 副会長 増田宏一氏

 日本公認会計士協会が、IT関連企業の監査を厳格化する方針を打ち出した。 2004年12月に約10人のメンバーでプロジェクトチームを立ち上げ、大手監査法人のIT専門家からのヒアリング、事例分析などを実施。その成果として、今年3月15日に「情報サービス産業における監査上の諸問題について」(参照:日本公認会計士協会サイト)と銘打った報告書を公表した。

 この背景には、情報システム開発・販売会社メディア・リンクスが、架空取引で大阪地検特捜部に告発され、大阪証券取引所 ヘラクレスの上場廃止に追い込まれるなど、IT関連企業の不祥事が相次いだ事情がある。IT関連企業の会計処理の在り方が問題視されてくると同時に、監査に当たる公認会計士サイドとしても早急な対応が不可欠となったのである。

 日本公認会計士協会のプロジェクトチームで構成委員長を務めた副会長の増田宏一氏は、「会員に対して注意を喚起するのが目的」と説明するが、企業に対しても従来の会計処理の見直しを促す効果がありそうだ。IT関連企業の会計基準には不明確な点が残されており、悪用されている可能性があることから、いわばガイドラインとして示したものだ。

ガイドラインのポイント

 このガイドラインで、情報サービス産業の監査上のポイントとして特に重視しているのが、次の3点についてである。

  • ソフトウェア開発における収益の認識
  • ソフトウェアの機能仕様の見積もりの困難性と受注金額確定のタイミング
  • 商社的取引慣行の存在

  ソフトウェアは無形の資産だけに、監査する立場からすると実態が把握しにくいという事情がある。そこで、検収時期と収益の実現時期のずれ、ソフト開発に伴う仕掛品の資産性などが要確認事項とされる。

 商社的取引慣行として特に問題視されるのが、スルー取引とUターン取引、そしてクロス取引である。

 スルー取引とは、受けた注文をそのままほかの会社に回すこと。実際の取引とは関係のない企業が形だけ取引に参加し、売り上げを計上する仕組みだ。付加価値を付けることなく、帳簿上を通過するだけの取引を指す。

 Uターン取引とは、複数の企業を経由して、最終的に最初の企業に戻る取引を指す。

 クロス取引とは、複数の企業がお互いに商品をクロスして販売し合い、その後在庫を保有し合う取引を指す。これらが実態を伴う取引であれば違法ではないが、商品が存在せず、売上高をより大きく見せるために、伝票とお金だけが流れる架空取引となると、粉飾決算につながる危険性を伴う。

会計士サイドの対策として

 報告書では、監査において、ソフトウェア開発の仕様書や検収書などだけではなく、スケジュール表や計画書、議事録といった資料を確認し、さらには取引先企業の確認も求めるなど、具体的かつ念入りなチェックすべきポイントを示している。不祥事を起こした企業が示すように、内部統制コンプライアンスの側面で、未整備なケースは少なくない。さらに、証憑類や取引そのものに付きまとう不透明さが否定できないからだ。

 その象徴ともいえるメディア・リンクスの一件では、売上高165億円のうち、なんと85%に当たる140億円が架空取引による水増しだったとされる。また、大分のアソシエントテクノロジーも、類似の手口で架空取引、粉飾決算に手を染めた揚げ句、東証マザーズからの上場廃止を余儀なくされた経緯がある。

 問題点として、監査に当たった監査法人が実態を把握できないままに終わったことがあることは否定できない。しかし、巧妙な隠ぺい策を取っているケースでは、実態を把握するのは困難を伴う。そこで、公認会計士協会がガイドラインを示すに至ったわけだ。

 実力を反映しない数字が業績として示されているとなると、投資家保護の観点から重大な問題があることはいうまでもない。さらに、実態を伴わない決算書を基に、ベンチャーキャピタルが出資し、金融機関が融資を実行していたとなると、その影響はますます大きくなってくる。

 経営者の倫理観とともに、公認会計士もきっちりとした対応が求められる。「IT業界がより成長していくためには、適正な会計処理を行うことが必要だ」(増田氏)という考えに立ち、公認会計士協会は企業会計基準委員会に早急に会計基準を明確化することを要請している。

 公認会計士協会は、監査の信頼性を確保するためにガイドラインの公表に踏み切ったが、企業自身がより実態に即した経営数値を明らかにする姿勢こそ求められるのはいうまでもない。

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