おとり捜査のテクニックをビジネスに生かすビジネス刑事の捜査技術(3)(1/2 ページ)

前回までは、捜査の技術を利用して、顧客の行動パターンなどを推理してきた。今回は、警察が行う“おとり捜査”の技術を応用して、顧客を捜し出す方法を紹介する。

» 2005年10月22日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

押し付けのスタイルともてなしのデザイン

 良い商品には良いデザインが付き物である。人気のある芸能人は良いスタイリストが付いていることが多い。このような、デザインが良いor悪い、スタイルが良いor悪いというのはどういうことだろうか。

 スタイルは姿形、様式や型、形式の意味で使われ、デザインは意匠や設計、図案の意味で使われることが多い。しかし、もっと本質的な違いはスタイルは「○○スタイル」のように名詞的に使われ、デザインは「デザインする」のように動詞的に使われることにある。

 スタイルの場合は、どのようなものでもいまある形を「○○スタイル」というように定義することができるが、デザインの場合はこれから、あるいはいままさに「デザインする」や「デザインしている」という気持ちが伝わってくる。つまり何かに向かってデザインしているのであって、スタイルが自分の思いを勝手に主張している感じがするのに対して、相手に向き合って相手の思いに合わせようとしている感じがするのである。

 いい換えればスタイルは主観的、デザインは客観的だということだ。社会には主観的な人間と客観的な人間の2種類が存在する。客観的とは文字通り、お客さまの立場に立って物事を考えられることを指す。客をもてなす茶道の心にも通じる。

作ってから売るのか、売れるものを作るのか

 商品が売れるということは、当たり前のことだが買う客がいるということだ。ヒット商品には、売る前から買う客の当てがあったはずである。商品が売れないといっても、買う客の当てがあるのに売れないのと、当てがなく売れないのではまったく意味が違う。

 前者には希望がある。この航路の先には陸地があると確信できたからマゼランは海峡を発見できたのだ。陸地があるはずなのに見つからないのは方角が間違っているか、まだ接近が足らないかのどちらかである。魚が必ずいる釣り堀にいる釣り人と、魚がいるかどうか分からない未知の池にいる釣り人では、釣果がゼロの間の心理には大きな違いがあるはずである。

 何事にも成功するには計画が必要、成功するためのデザインが必要なのである。ところが、世の中には不思議なことに、ロクに計画もデザインもせずに売られている商品がたくさんある。中には、作ってから売ろうとする人も少なくない。残念ながら、どんなに著名な大学教授が研究開発した代物であっても、学術研究のためにデザインされたものが、商売としても向いているということはまずあり得ない。人が意図せずに作り出したものが、偶然に誰かのためになるという確率は、おそらく大変低いものだと私は思う。成功は意図して手に入れるものだ。商品は作ってから売るのではない。売れるものを作るのである。

聞き込み捜査で顧客の気持ちを知れ

 ニーズが先か、シーズが先かという議論をいまさらするつもりはない。シーズがなければ、ビジネスを始めようがないことは当たり前のことである。問題は、自分たちが持っているシーズを、どうやってニーズとマッチングさせるかである。本連載の第1回で「ターゲット顧客像をイメージする」ということをお話しした。世の中のすべてのものは人に認識されて初めて「もの」となる。人が興味を抱かなければあってもなきに等しい。

 「顧客が商品を買う」というのはどの時点のことをいうのだろうか。多くの人が誤解しているのは、商品を買うという行為をお金を払う時点だと思っていることだ。だが現実はそうではない。お金を払う時点では、すでに商品を買うという行為は実質的に終わっている。当たり前のことかもしれないが、顧客が商品を買うという行為は心の中でこの商品を買おうと決心した時点で行われている。そして商品を買うと決める前には、その商品に関心を抱き、欲しいと思った時点が必ず存在する。

 買うかどうかは「買えるだけのお金」があるか、いますぐに必要かということで決まるのであり、売る側からすれば、交渉次第で成約までこぎ着くことは無理なことではない。しかし、その商品に関心を抱き欲しいと思ってくれない限り、買ってもらうことは絶対に無理である。辺り構わず誰も彼もに売りたがる営業担当者に幸せはいつまでたってもこないのだ。情報を発信しても関心を抱かない人に、いくらねばって説得しても時間の無駄であり、それよりも関心を寄せてくる顧客のために、気力体力を温存しておく方が賢いやり方だ。

 関心を抱いてくれない限り何も始まらないとすれば、やるべきことははっきりしてくる。

 「どうやったら関心を持ってくれるのか?」について考えることである。やり手の刑事はやみくもに聞き込みなどしない。ビジネス刑事がいるならば、まず関心を持ってくれるものが何なのかについて考え、その次にどうやったら関心を引きやすいかについて考えるだろう。

 自分たちが苦労して開発した商品は確かに素晴らしいのかもしれない。しかし、顧客が関心を持つのは売る側があまり意識していないことの場合も多いのだ。IT製品ならばインターネットでプロモーションするのもいいかもしれない。しかし、新聞折り込みチラシやタクシーの座席広告がIT製品の宣伝に合わないと決め付けていいのだろうか。

 大切なことは客観的に考えることである。顧客の目線で考えればおのずと答えは出てくる。顧客が感心を持つことについて知りたいならば答えは1つしかない。顧客に聞くのである。真摯な気持ちで相手の話を聞き、気持ちを知ること。真摯(しんし)な気持ちで聞き込みに当たる捜査官に対して、市民は協力を惜しまないが、横柄で自分勝手な捜査官には誰もまじめに協力しようとは思わないのである。

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