捜査は必ず現場での聞き込みから始まるビジネス刑事の捜査技術(4)(1/2 ページ)

» 2005年11月23日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

趣味し好から年収、支持政党など、アンケートはさまざまな業界でマーケティングの一環として重宝され、さまざまな商品を目玉にして実施されている。しかし、アンケートの結果がサービスなどにあまり反映されていないと感じる人も多いだろう。その原因は、出題者のイメージ不足に起因することが多い。今回は警察の捜査手法を応用して、アンケートを有効活用する方法を紹介する。

アンケートがまとまらない、調査がうまくいかない

 新商品の企画段階やセミナー、ダイレクトメールなど、販促段階におけるアンケートは頻繁に利用される営業ツールだ。社内でも社員満足度調査や、社員旅行の希望先調査など重いものから軽いものまで幅広く実施されていることだろう。しかし、アンケートを記入させられる立場からすると、アンケートに協力する機会が多い割には、あまり自分の回答結果が採用され、改善されたと感じることが少ないのも、アンケートの実態ではないだろうか。

 アンケートの多くが抱えている問題の多くは、アンケートの質問を作成している人が回答結果についてあらかじめイメージを持っていないことに起因している。回答用紙が返ってきて、その後集計してみてから初めて、「何が分かるかな?」と考えているのである。

 「あなたはこの商品に満足していますか?」という質問があったとしよう。回答が「はい」「いいえ」だけならば、よほどのことがない限り多くの人が「はい」にするかもしれないが、「普通」という選択枝があれば、多くの人が「普通」を選ぶだろう。また、「満足」「やや満足」「普通」「やや不満足」「不満足」のように5段階用意されていると、状況は変わってくる。「はい」「いいえ」だけの場合の満足度の比率と、5段階のときの満足度の比率は違ったものになる可能性がある。回答の選択肢を設定するだけでも、回答者の立場に立ってその気持ちがあらかじめ分かっていないとその気持ちをくむことはできないのである。

仮説のない捜査は必ず行き詰まる

 テレビを見ていると、アナウンサーがインタビューする際に「回答者はどう答えればよいのか?」と思うような質問をしていることがある。アンケートや申込書の中にも記入欄に何を書けばよいのか分からないこともよくある。

 回答者が答え方に迷うような質問の場合には、得られた答えが期待するようなものになるとはとうてい思えない。刑事は容疑者に対して、白か黒かはっきりする質問を投げかける。灰色の答えが返ってきては時間も無駄だし、白と黒を混同するような質問は冤罪を生む。これが企業の商品アンケートならば、売れそうなor売れなさそうな答えばかり集まるか、売れない商品と売れる商品を混同してしまうことになるだろう。

 質問は“問い質(ただ)す”と書くように、答えのある問題を作るという意識を持つことが重要だ。得られた答えは適切に採点できなければならない。アンケートならば回答欄が大事なのである。入試試験などで良問を考える講師はまず受験者から得たい回答を決めてから、その回答にたどり着くまでの過程を考えて、最後に問題文を作成する。アンケートも同じように、回答者から得たい選択枝を決めてから、その選択枝にたどり着くまでの過程を考えて、最後に質問文を作成する。

 犯人像を決めてから捜査するのと同じように、アンケートも顧客像を決めてから捜査することが必要なのである。スタートラインから物事を考えるのではなく、ゴールラインから物事を考える。これがビジネス刑事の鉄則である。

捜査は必ず現場での聞き込みから始まる

 捜査は必ず現場での聞き込みから始める。刑事は被害者や犯人の気持ちを推理して犯人像を作り上げてから捜査を開始するのである。このことを企業のアンケートに当てはめると、何に当たるのだろうか。

 商品のことをアンケート調査したいのであれば、自分自身が商品を使ってみたり、商品を購入した人の評判に耳を傾けることがそれに当たるだろう。実は、アンケートなど採らなくても、この時点で必要な答えは得られてしまうことが多いのである。すでに得られた答えの検証のため、正確な状況把握のためだけに実施するというのが本来的なアンケートの姿である。

 事件は会議室ではなく現場で起きている。顧客のことや接客サービスのことを知りたければ店に行けばよい。在庫のことを知りたければ倉庫に行けばよい。生産性や品質のことを知りたければ工場に行けばよい。人間の五感、そして第六感は最新のコンピュータが束になってもかなわない能力を持つ。問題は五感、六感の能力が落ちている人が多いことである。五感、六感の能力差は常日ごろの生活の過ごし方に関係していると思う。

専門知識以外の幅広い経験や知識が推理能力を高めてくれる

 五感、六感を磨くには、日常生活の中で幅広い経験や知識を得ることである。よく人の話を聞き、本を読むこと、そして何より自分自身の体を使っていろいろな経験をしてみることである。野球やサッカーを見ているだけでは、そのスピード感を実感することはできない。

 小中学校での体育や社会見学の授業には、大きな意味があったのである。本連載の第3回の中で、もてなしのデザインについて取り上げたが、アンケートを企画する場合においても回答者の立場に立って客観的に質問文を作成することが重要となる。犯人像を推定するプロファイリングは、刑事捜査だけではなく、広くビジネスシーンで応用できる。要は、相手の立場に立って、ものを考えられるかどうかである。どれだけ多くの種類の痛みや悲しみ、喜びや怒りについて共感できるかがプロファイラーの能力につながる。

 嫌なこと、煩わしいことを避けて通ってきた人に、他人の繊細な感情など分かるわけがない。机の上の勉強だけを頑張ってもトレーニングジムで筋肉を鍛えても、五感、六感は鍛えられない。買い物で失敗して損をしたり、試合をして負けて悔しい思いをするなど、生きた経験の知識を得ることでしか五感、六感を磨くことはできないのである。

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