社内にITを根付かせる5つのポイントITガバナンスの正体(4)(2/2 ページ)

» 2004年03月06日 12時00分 公開
[三原渉(フューチャーシステムコンサルティング),@IT]
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プロジェクト発足時から“システム活用”は始まっている

 よくある話だが、プロジェクトを推進しシステム稼働に至ったときに、「できました。使ってください」と、唐突な稼働の仕方をすることがある。特にベンダ任せのプロジェクトに多い。ベンダに任せている分、システム部門はプロジェクトの拡宣活動に時間を割けるはずなのだが、そういうわけでもないらしい。少々極端にいえば、システム部門は殻に閉じこもり、既存システムのメンテナンスや運用に没頭しているだけということがある。

 どの部門も経営に貢献していなくては存在意義がない。前述の5つの要素の「アウトプット」が何かしらの貢献をなさなくてはその業務は要らない。システム部門は、構築された情報システムが活用されなくては存在意義が疑われる。単なるコストセンターになってしまう。いや、たとえコストセンターと呼ばれたとしても、価値を社内顧客に提供しなくてはいけないのだ。

 そこで、システムをうまく活用してもらうためのプロジェクト推進のコツを以下に示す。

プロジェクト発足時: トップマネジメント層からのコミットメントと、プロジェクトスポンサリング(バックアップ体制)を得る。トップマネジメント層のバックアップを得た“権威あるプロジェクト”ということを社内に通達する。ビジネス上の目的・目標、プロジェクトの目的・目標を関係者で共有するとともに、社内に公表・宣伝する。
プロジェクト進ちょく時: 現在どのような進ちょくになっているのか、何が問題なのかをトップマネジメント層・関係業務部門と共有する。そして解決策をディスカッションし、協力して(あるいは巻き込んで)解決に当たる。
システム稼働前数カ月: テストや教育、マニュアル作りへの参画タイミングを共有し、業務部門を巻き込んだ活動に仕立てていく。具体的には、教育の一環でテストを実施することにより、情報システムや業務を実行できる人材であることを証明する資格制度も考えられる。
稼働直前・稼働時: 業務移行とシステム(データ)移行作業は、業務部門とシステム部門がタイアップしなくてはならないものだ。週単位・日単位、(最終的には)時間単位・分単位での移行計画を立て、マイルストーンごとに稼働判定チェックリストによる判定を用い、協力体制をフル活用する。稼働時には、トップマネジメントも含めたセレモニー的なことが行われると社内認知度も上がり、活用に向けた機運も高まる。
稼働直後: 業務部門におけるキーパーソンの活用や、緊急・集中ヘルプデスクを用意しておき、稼働直後の不具合やクレーム処理を迅速に行うことで、「使えない」という声を抑える。必要に応じて、業務部門オンサイトヘルプデスクを用意するのもよい。
稼働後数カ月: 当初設けたプロジェクトの目的・目標に照らし、達成できているかどうかのモニタリング結果を整理。乖離値を明確にし、是正計画・措置を講じる。そして業務部門とシステム部門合同の反省会を開き、次のプロジェクトへの糧にすることでより良い仕組み作りを行えるようになり、活用度合いが増していく。また、ビジネス上の目的・目標の達成度合いも確認していく。


 システム部門は、情報システムを構築するという範疇に、上記活動を含めた活動計画を立てるようにしてもらいたい。もしくは、業務部門との二人三脚ができるような関係構築が必要だ。とにかく、きめ細かなコミュニケーションを業務部門と行うこと。どの役職の人にどんな情報をいつ提供して、動いてもらうのか、理解してもらうのか、を考えて行動(コミュニケーション)に移す。十分な「活用」を引き出すために、事前に打つ手を考えておきたい。「あー、これをやっておけばよかった」と後の祭りにならないためにも。

 上記のようなITマネージャが知っておくべきチェンジ(変革)マネジメント部分は、別途記述することにしよう。

社員が情報システムを活用し切るには

 個別システム構築時のことだけではなく、ITリテラシー全体の話にも触れておく。

 第3回にも書いたように、PCやインターネット、PDAなどのITツールに通暁している社員が業務部門に何名か必ずいる。使いこなせる仕組みを作り出すには、こうした社員の協力なしでは考えられない。彼らを巻き込むことで、その仕組みの信頼性は増すし、何よりも口コミなどによって良い社内マーケティングになる。

 情報システムを上手に使いこなし、そのシステムを構築することで目指した効果(プロジェクトおよびビジネス上の目的・目標)を刈り取るためには、その情報システムを使う業務部門に、使い切るだけのITリテラシーをはぐくまなければならない。ここでいうITリテラシーとは、情報や情報システムを使いこなすために必要な考え方やスキルを指し、PCを使いこなす力を含む。そして業務部門のITリテラシーによって、構築する情報システムの目標や目的、作り方も変わってくる。もちろん、「ITガバナンス」の第1項目である「IT戦略」も変わってくる。

 盲目的なIT研修によるITリテラシー向上はあり得ないし、一朝一夕で向上するものではない。基礎的なPC操作レベルから、業務アプリケーションの使いこなしレベルまでさまざまな層があるので、層別の研修が必要になるし、もしかしたら肩書別に研修が必要かもしれない。「肩書別」というのは、肩書が上になるほどプライドがあるので、特別な対応が必要だということだ(実は周囲はそんなことはとっくにお見通し、ということがほとんどなのだが)。土日や自宅での特別研修、夜中の特別研修もあり得る。全社員“十把ひとからげ”では難しい。しかもそのような人に限って(?)社内で隠然たる力を持っていたりするので、対応には細心の注意が必要だ。ITを使うということのファンになってもらわなくてはならない。ファンとまでいかなくても、敵に回さないようにしたいものだ。

 そこで図2に示すように、自社のレベルはどんな層別になっているのかをクライテリア(基準・チェックリスト)を決めて調査しておく。いつまでにどの層をどのように増減していくのかの計画を練る。もちろん、半年または年度ごとに定期的にモニタリングして、乖離を確認し、原因分析の後で是正計画を立てることも必要だ。

図2 ITリテラシーのレベル

 企業を問わず、自分がどれだけのスキル(業務スキルを含む)を持っていて、どれだけの価値があるのかを十分に把握している従業員は少ない。自分がどのレベルなのか、そもそも会社から要求されているスキル自体も分かっていないのではないだろうか? その点、ITスキルは分かりやすく、基準・標準を決めることのできる分野だ。経済産業省をはじめとする省庁やその外郭団体、また民間団体などでもITスキルを層別に評価する指標を提示しているので、それらを参考に何かしら社内での基準を作り、各部門での年次計画や中期計画にITリテラシー向上策を組み込むような社内活動をしてほしい。基準となる指標はどれでもよいし、組み合わせることも、自社で作成することも自由だ。

 社員1人1人が、例えばショートカットキーを知っていたり、どこにどんなファイルが格納されているか知っていたりといった“ちょっとした工夫”を身に付けるだけで、企業全体のパフォーマンスは大きく変わってくる。ITを使う喜び=自分が楽になり、より価値のあるアウトプットができると知ってもらうことも、ITマネージャの役割の1つだろう。

経営に貢献するITマネージャの役割とは何か

 最後に、今回述べたITマネージャの役割と、日ごろから心掛けておくべきことを整理しておこう。まずITマネージャの役割とは、「社員にITを使いこなしてもらえる仕組みを作り、実際にITを使いこなして目標・目的とした効果が創出されるようにすること」。こうしたことが、経営への貢献につながる。

ITマネージャが心掛けるべき5カ条

  1. 業務を根幹となる5つの要素に分解するように心掛ける。その結果、廃止・簡素化・効率化・移管のいずれかを考慮し、システム化以前にできることをしておく。
  2. システム稼働時また業務変革時に、関係者へ事前の情報提供をする。同時に心のケアを行うことで円滑に変革し、活用への弾みをつける。常にプロジェクトやシステム部門が頼りになるという印象を持ってもらう。
  3. 業務部門にいるITに強いスタッフを認識し、味方に付ける。
  4. 「使えない」といった風評被害を防ぎ、業務部門の使用者・活用者に対して隠然たるプレッシャーを与えるためにも、幹部職への地道な研修が必要。ファンになってもらう。
  5. ITリテラシーを層別に把握し、どの層にどのような研修などを行って、いつまでにどの層をどれだけ上位層へ持っていくのかの計画を練る。定期的にモニタリングし、是正計画を練って実行する。マネジメントへの定期的な報告やお願いも行う。

 IT部門・システム部門の顧客は、業務部門、そしてトップマネジメントである。社内顧客とのコミュニケーション、事前の情報提供、リスクの共有、変革点での一致団結により、満足度を向上させることもITマネージャの役割でもあるのだ。自身の役割を広げ、よりステージの高い・自身も満足できる仕事内容に変革していこうではないか。自身の仕事内容も、5つの要素に分解・分析してみてはいかがだろうか?


業務部門へのインタビューに散らばっていたメンバーが集まって、へとへとながらも整理を始めた。

大崎さん(企画・業務部門サポート担当): 情報システムは一通り導入できたように見えるけど、個々人の活用スキルが付いていってなかったり、次のステージに会社全体を引き上げるだけのIT活用の盛り上がりに欠けているようです。


秋葉原さん(運用担当):そうですねぇ。インタビューでもIT研修の話が出てきました。全体の底上げというか、個別レベルに合った研修を進めて、業務効率を上げるなどの施策が必要なんじゃないかな。


巣鴨リーダー(課長職):システム部門はシステムの構築と運用をやってるんだから、そんなことまでしなくていいんじゃないかなぁ。


大崎さん(企画・業務部門サポート担当):みんながシステムを使いこなせるようにして、効果が出るようにしなくてはシステム部門の存在意義なんてないと思いますよ。たとえ、運用や開発、メンテナンス部分はアウトソーシングしたとしても、企画や活用展開部分は社員である私たちシステム部門の役目じゃないんですか?


池袋マネージャ: まあまあ。巣鴨さんも悪気があっていってるんじゃないんだから。そうだよね?(ほんとにそうかな) 社長や役員の方にもいろいろ聞き出せたし、業務部門の方にも問題意識を聞いた。やるべきことも見えてきた。一度に全部はできないけどね。優先順位も考えながら整理を始めよう。リテラシー向上策も考えなきゃな。やはりITは十二分に使ってもらわないと効果が出ないし、経営への貢献も難しいからな。



ふらっとやって来て、会議室をのぞき込みながら、神田取締役が一言。


神田取締役: お、やっとるねぇ。そうやって深く深く考えることが大事なんだ。そろそろ、見えてきたんじゃないかね? 全体像をまとめて、見積もりを含めたIT投資計画にまとめてくれたまえ。当初設定した期限は少々オーバーしたが、良いものになりそうだな。相談事があったら、いつでも来てくれたまえ。お、そうだ。計画は戦略投資と通常投資に分けてくれたまえよ。


池袋マネージャ:(会議室のドアが閉まってから。内なる声)うむむむ。結構一言一言がプレッシャーなんだよなぁ。もっとちゃんと話をしに行かなきゃな。毎朝、顔を出しに行くかな……。



筆者プロフィール

三原 渉(みはら わたる)

フューチャーシステムコンサルティング株式会社 ビジネスディベロップメント&インターナショナル事業本部 執行役員。大手外資系コンサルティングファームを経て、2003年より現職。これまで外資系を含む50社あまりの企業の戦略・改革プログラム・プロジェクトの立案と実行、および効果のモニタリングに携わる。特に経営戦略と連動した全社改革プログラム・IT戦略立案に詳しい。改革推進の障害の1つであるトップ層とミドル層の意識・IT知識の乖離(かいり)を埋めるべく、両者への働きかけを精力的に手がける。ご意見、ご感想、問い合わせのメールは、mihara.wataru@future.co.jpまで。


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