「経営計画」はレビューに始まる──変化を察知し環境適合する“生物型経営管理”とは情報活用経営とビジネスインテリジェンス(1)(1/2 ページ)

「今日、企業の経営にITは欠かせない」という。その一方で、実際のIT化に苦労している企業も少なくない。本連載では近代的マネジメント手法/経営分析手法と、情報技術の関係性を解説しながら、“経営情報化の本質”について考察していく

» 2004年05月18日 12時00分 公開
[杉浦司,杉浦システムコンサルティング,Inc]

まず計画する──、それで本当に正しいのか

 よく「TQCシックスシグマの違いは何か」と聞かれることがある。

 日本で発展してきたTQCを実践してきた方々は、シックスシグマでいわれていること以上をずっとやってきたといいたいのだろう。しかし、シックスシグマとTQCは根本的な部分で考え方が異なる。いや、シックスシグマ以前にTQCとISO 9000との間にすら、決定的な違いがある。それは、「何から始めるか」である。

 従来の品質管理では、まず品質計画があった。計画の上では「ゼロディフェクト」「不良ゼロ」ですら目指すことができる。この考え方はISO 9000への取り組み方としても表れている。

 ISO 9000における品質方針は、英語でいう“コミットメントするもの”、すなわち神に誓うものとして宣言することを要求している。欧米人にとって品質方針とは崇高なものであり、いったん口にしたことを破るなどあり得ない。だから、品質方針にうそはつかない。精いっぱい努力して改善するんだという覚悟を表す。

 しかし、日本人の感覚では方針や目標は立派なものでなければならないという潜在的な思い込みがあって、どうしても本当に実現できるのかというような内容になってしまう。その結果、営業部門では名ばかりの販売目標が掲げられ、製造部門では始めから達成することが無理と分かっているような品質目標が掲げられることになる。そして、現実と直視せざるを得ないロジスティクス部門と経理部門だけが目の前の実績を見て現実的な対応をしている。

Plan-Do-Seeは正しいか

 英会話を習おうとする場合を考えてみてほしい。英会話学校は、入学したばかりのあなたがどうなりたいかを聞いてクラス決定をするだろうか。実際には能力テストを実施して、レベルに合ったクラスを勧めるだろう。まず現在の能力を測ってから、その能力に合った学習計画を立てるのである。決して、計画があり実施してレビューするという順ではない。

 実はマネジメントとは、Plan-Do-Seeと書かれるとおりの順番で行われるわけではないのだ。Plan-Do-Seeの現実的な実施順はSee-Plan-Doなのである。最も顕著な例として医療行為がある。医者は検査をやりすぎの感もあるが、問診、検査なしに正しい処方せんは書けない。やぶ医者は問診、検査をいいかげんに行い、誰にでも同じ薬を処方する。

 皮肉なことに、義務教育の小中学校における教育方針や、破綻が問題となっている年金行政など行き詰まっている政治・行政関係のマネジメントがPlan-Do-Seeの実施順になっていることが多いと思うのは、私の気のせいだろうか。

 さらにPlan-Do-Seeを決して直線イメージで考えてはいけない。Plan-Do-Seeは“サイクル”で語られることが不可欠な概念である。PlanはインプットとしてSeeがないと始まらないのである。

ALT Plan-Do-Seeはサイクルである

できる人間とできない人間の差

 仕事ができる、できないというのはいったいどこから来るのだろうか。いろいろな要素が考えられるだろうが、その1つにはやはりマネジメントのやり方の違いが挙げられる。

 仕事ができる人をよく観察すると、仕事の初めはむしろあまり力を入れていない、最初の仕事はたたき台であって、すぐに出来上がってくる代わりに大したことがない。その代わり、次にやり直した仕事の出来がいい。これに対して仕事ができない人は、最初にものすごく頑張る。にもかかわらず、考えに考えて作り上げた仕事を結局、評価してもらえずに時間と労力を無駄にしていく。

 仕事ができる人とできない人を比べると面白いことが分かる。仕事ができる人は、依頼してきた人の意図や意向を初めから的確に理解することはできないと考えて、仕事は最初の段階では時間も手間も掛けずに簡単なものを作って依頼者に見せる。専門用語でいえばプロトタイピングしているのだ。依頼者にたたき台を見せることによって、具体的な文句や要望を得る。頑張って考えるのはそこからであり、その結果出来上がったものは依頼者が喜ぶものになる。

 これに対して仕事ができない人は、依頼者の気持ちを最初から何とか分かろうとして頑張るものの結局、頑張れば頑張るほど依頼者の望むものにならず、大きな不満を受けてしまう。その結果、せっかく頑張ったのに評価してくれないとやる気をなくしてしまい、ますます仕事の出来栄えを悪くしてしまう。

 結局、仕事ができる人間は最初はどうせ大したPlanができないと考えて、仮のDoを実行してSeeを行い、Seeの結果に基づいてしっかりとしたPlanをすることで2回目のDoで成果を出しているのだ。仕事ができない人は独り善がりなPlanに基づいて1回だけのDoで成果を出そうとしている。

 会社も個人も成功するのはPlanがしっかりしている場合であり、そしてPlanをしっかりさせるためにテスト的なDoをやってSeeから始まるPlanを実践しているのである。仕事ができる人間になりたい人はぜひ実践してほしい。「自分に相手を合わせる」のではなく、「相手に自分を合わせる」のだ。

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