会社経営の本来的な要求は投資資本の拡大再生産にある。そのため、利益構造も「収入−費用」式より、「期末資本−期首資本」式の方が本質的な活動形態を表している。これはすなわち、企業経営の計画・実行・統制は、損益計算書ベースではなく、むしろ貸借対照表ベースの立案が重要であることを意味している。
貸借対照表はその企業の現在価値を表すものであり(企業譲渡時に初めて計上される営業権を除いて)、その企業の市場競争力や成長力など、ゴーイングコンサーンに関する資質を表現するため、特に株主の興味を引くものだ。
対して損益計算書は、経営状態をスナップショット的(期間を区切って、局所的に)に測定するものだ。その意義は、資本/負債(これらは貸借対照表の「貸方」に記載される)の効率的な運用状況を表すことにある。つまり損益計算書の費用/収益を見れば、その会社が資本を効率的に運用しているかどうか測定できるわけだ。そこで経営戦略とは、「資本をいかに投入し、資産(貸借対照表の借方)を増大させていくか」を考えることといえる。
本来、貸借対照表と損益計算書は1対のものだ。貸借対照表なくしては企業の継続性・成長性を測れない。事業計画・統制の際は、まず次期の収益や費用の“元タネ”となる資本や負債が、どのような価値を持つ資産を保有しているか、または保有しようとするのかを明らかにしなくてはならない。その後で、その実行プロセスの効率性を追求することが経営管理の本来的アプローチといえる。
しかし、貸借対照表と損益計算書に基づく伝統的財務会計モデルには、長期的競争力の測定や表現力に限界がある。特に顧客ニーズが多様化する今日の市場動向においては、伝統的な財務会計上の資産価値に対し、信頼性に疑問が生じてきた。
伝統的な財務会計モデルは、過去の出来事について多く語るものであり、長期的な能力や顧客との関係などに投資することが大きな意味を持たない工業化時代のものであったといえる。しかし現代企業は、顧客・サプライヤ・従業員・プロセス・技術・イノベーションといった、将来的な利益を生む資産に積極投資している。現代企業にとってのバランスシート(貸借対照表)では、アイデアやノウハウ、コア・コンピタンス、アライアンスといった知的資産こそ事業推進の原動力である。大量の機械設備や在庫の保有は、逆に変化に激しい市場に対する“足かせ”となってしまいかねず、むしろ負債的要素が強まってきているといっても過言ではないだろう。
そこでバランスト・スコアカードでは、将来の業績向上を導く「業績評価指標」の併用により、伝統的財務会計モデルを補強している。またバランスト・スコアカードは、財務的業績指標を超えた形でビジネスユニットの目標を拡大している。これにより経営トップは、各事業部門が、
を評価できる。
バランスト・スコアカードの基本的な考え方は、まず企業経営において現在および将来価値を想像する「バリュードライバ」(価値創造要因)を明らかにし、バリュードライバの戦略立案、効率的運用、実績評価をしようというものだ。
一般的にバランスト・スコアカードは、ミッションや戦略について、4つの視点(「財務的視点」「顧客の視点」「学習と成長の視点」「社内ビジネスプロセス」)からなる業績評価指標と目標を策定することで実施される。先進企業の多くでは、この4つの視点にさらに「従業員の視点」を加え、“5つの視点”として、バランスト・スコアカード経営管理とするケースが多い。
|
||||||||||||||||||||
表 バランスト・スコアカードにおける5つの視点とバリュードライバ |
米国ではバランスト・スコアカードのITサポート化が進んでいる。ABB社のように、スピードメータ形式のユーザーインターフェイスによる5つの視点の目標達成状況の視認度の向上や、Halifax社などでは計画データや実績データのデータベース化とOLAPによるデータウェアハウス化などが進んでいる。最近では、SAP社やオラクル社などのERPや、OLAPベンダによるバランスト・スコアカードの自動化支援ツールの提供も活発化してきている。
バランスト・スコアカードのITサポート化において留意すべきは、バランスト・スコアカードの本来意義が管理会計にあるのであって、財務会計としての報告会計的性質を持つものではないということだ。数値としての正確さよりも、速報性や有意義性が重要視されるという点に注意しなくてはならない。
また、リアルタイムな業績評価が必ずしも可能ではない指標については、その評価時点(伝統的な財務会計モデルにおける締めの概念)を適切に設定し、その時点における価値評価、共通効果の配賦といった操作を行うことが不可欠である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.