アクセンチュア――IT-ROIの算出に加え、組織改革を含む戦略的IT投資の定着化まで支援IT効果測定・評価サービス・レポート(1)

ITコンサルティング会社やIS会社のいくつかがIT投資のROI評価サービスを展開している。今回はアクセンチュアのアクセンチュアの「IT効率化プログラム」を紹介しよう

» 2003年11月26日 12時00分 公開
[小林秀雄,@IT]

IT支出を2つに分類する

 ITは、企業の戦略実現に不可欠な道具だ。だが、ERPプロジェクトやSCMプロジェクトを実行しようとすると、大規模な投資が必要となる。依然として多くの企業が困難な経営のかじ取りを迫られている中、企業の経営層は、IT投資の妥当性とその効果を把握することに高い関心を持ち始めた。

 アクセンチュアは、海外では10年ほど前から、国内では3〜4年前から「IT効率化プログラム」という名称で、IT投資の効果を測定し、IT投資の最適化を支援するサービスを提供している。同社がこのサービスを開始した当初、企業においてはITコストを削減したいという意識が強かったが、最近ではIT投資の効果を最大化することに、より一層の関心を向けているという。日本企業は、コスト削減ではなく、投資によって成長への道を進もうとしているのだ。

 さて、アクセンチュアのプログラムの概略は、次のようになっている(図1)。

図1 アクセンチュアの考えるIT-ROIの測定・改善の論理フロー
  1. IT支出を「機動的IT支出」と「固定的IT支出」とに分類する
  2. その分類に基づいて現状のIT支出割合を分析する
  3. 戦略的なIT投資領域を選択する
  4. IT戦略の策定・実行を支援する
  5. 実行効果をモニタリングする仕組みを設計する

 このようにIT-ROIの算出のみならず、IT戦略の計画立案、実行、評価に至るフェイズ全般にわたって企業を支援するのがアクセンチュアのIT効率化プログラムの特徴だ。

 まず、スタートは、企業のIT支出を機動的IT支出と固定的IT支出とに分類することである。機動的IT支出とは、一般的に戦略的IT投資と呼ばれるもので、事業の成長そのものをもたらすための投資を指す。それに対し、固定的IT支出は、情報システムを運営することに伴って発生する費用を指す。典型的なのは保守コストであり、TCOと考えていいだろう。

アクセンチュア マネジャー 明翫(みょうがん)正樹氏

 IT支出を機動的IT支出と固定的IT支出とに分解して把握する理由は、「それぞれ処方箋が異なる」(同社マネジャーの明翫正樹氏)からだ。機動的IT支出への処方箋は、リターン(いわゆるIT-ROI)を最大化させる為の取り組みとなる。これに対し、固定的IT支出への処方箋は、可能な限り贅肉を削ぎ落とし、コストを削減する為の取り組みといえる。明翫氏は、「IT-ROIという抽象的な言葉だけが独り歩きをし、徒に注目を集めていることに違和感を感じている。当社は、より具体的な取り組みとして、固定的IT支出を削減し、それを原資としてIT支出を最適化するITマネジメントの手法を提供している」と語る。つまり、機動的IT支出と固定的IT支出の両者にわたるIT支出への処方箋を示すことが同社のIT効率化プログラムの主眼である。

 同社では、機動的IT支出の割合として、全体のIT支出の45%以上を確保することが望ましいと考えている。しかし、現状では、そこに至っていない企業が多いようだ。端的に言えば、固定的IT支出の比率が高いのだ。そこで、IT支出を分類したあとに、固定的IT支出の削減余地を見つけることが次のステップとなる。

 固定的IT支出を精査することによって、例えば「年間数億円」の削減余地が発見できたならば、その削減を実現するための予算策定から実行計画の立案、効果を把握するモニタリングツールの作成などの具体的なマネジメント手法を提供する。それによって、より確実に、この年間数億円というコスト削減が可能となる。

 以上は、固定的IT支出の削減に関するサービスの話だ。コストの削減を進めるのは、ビジネス目標の実現に欠かせない機動的IT支出(戦略的IT投資)のための費用を生み出し、それを競争力向上の施策に振り向けるためにほかならない。その点に関するアクセンチュアの手法について見ることにしよう。

IT投資ポートフォリオで投資分野を選定

 同社は、適正な戦略的IT投資を実行するために、次の3つの施策を実施すべきだという(図2)。

図2 機動的IT支出適正化のための実施施策

 企業を成長させる事業領域を定め、そこに対して集中的に投資を行うことが戦略的IT投資の出発点となる。そのために、投資案件を「財務的インパクト」「戦略性」「機能的妥当性」「技術的な妥当性」などいくつかの視点で分析する。さらに、エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)に基づく、中長期的なビジネスおよびIT戦略との最適な融合形態を定義する。その結果が、IT投資ポートフォリオとして示される。IT投資ポートフォリオでは、「成長する事業領域(事業成長領域)」「成長の可能性がある事業領域」「成長の見込みが薄い事業領域」の3つに各投資案件がマッピングされる。投資すべき案件は、最も高い成長が期待される「事業成長領域」への投資だ。同社がある欧米金融機関を対象に実施したプロジェクトにおいて作成したITポートフォリオのケースでは、オンラインチャネルサポートやCRMなどeビジネス系領域への投資が集中的にIT投資を行うべきものとして明示されたという。

 どの分野に投資を行うか。プライオリティを定めたら、次に実施するのは適正なIT投資額を算出することだ。同社では、システムによってもたらされるサービスの効果、システムの利用度やユーザー数などを予測して妥当な投資額を試算する。DCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)法で経済的価値を算出することで、投資額およびシステム構築費用としての上限が「最大○億円」という数字としてアウトプットされる。この経済的価値と投資額の上限を金額で表すことにより、いわゆる財務的な視点で経営層にIT-ROIを示すわけだ。この経済的価値を見極めてIT投資実行の判断を下す。これが、戦略的IT投資に関してアクセンチュアが提供するアプローチだ。

ITガバナンスまで踏み込んでサービスを提供

 アクセンチュアのIT投資効率化プログラムは、IT投資のROIを算出して終わり、ではない。投資案件にゴーサインがでた後に、IT投資実行のためのIT戦略の立案、実行計画の策定、予算策定、投資効果のモニタリング・評価手法の定義・定着化、さらにはIS部門の改革に至るまで、総合的な処方せんを提出するのが同社のサービスだ。単発のシステム導入を支援するだけでなく、企業のITガバナンスのレベルを向上させることまでカバーしているのである。

 実際には、アクセンチュアからリポートを得て、それを基に顧客自身がコスト削減なり戦略的IT投資を実行するケースもある。しかし、明翫氏は、「うまくいっているケースもあるが、そうでないケースも多い」と述べる。

 企業自身が効果的なIT投資を実行する上で障害となるもの──それは、“ITガバナンスの在り方”だと明翫氏は指摘する。例えば、「この部分でコスト削減が可能だ」と示されたとしても、削減されるシステムに関与している者にとっては受け入れ難い場合がある。また、戦略的な投資領域から外された社内の事業部門からも反発が生じる可能性が高い。IT投資を評価する仕組みがあったとしても、それを実際に利用する組織が効果的にその仕組みを使いこなせなければ、効果の把握も適切には実行されない可能性がある。このような状態では、せっかくのIT投資が結果として絵に描いたもちになってしまう危険性すらある。以上は、ITガバナンスの問題であり、これらのリスクをすべて回避し、IT投資の効果を最大化させることができるようなガバナンスを発揮している企業はごくわずかだろう。ITガバナンスまで踏み込んでIT-ROIをとらえるのがアクセンチュアのサービスである。

 では、ITガバナンスに関してどのような解決手法を同社は提供しているのか。組織とプロセスの改革である。まず、掲げるのがIS組織の改革だ。アクセンチュアでは、伝統的にIS部門の改革を、ITトランスフォーメーション(ITT)という手法で実現している。さらにプロセスに関しては、投資案件を審査するツールを作成し、投資の意思決定プロセスを定義する。これにより、社内外に存在するあつれきや抵抗勢力の恣意的な関与を排除し、純粋に経済的な観点で、投資すべきか否かの意思決定を可能とさせる。こうしたことは、企業のIS組織でもできると考えるむきもあるかもしれない。しかし、「IS部門とユーザー部門との間に非合理な力関係が存在している場合や、IS部門と普段から懇意にしているベンダーとの間に不適切な癒着が存在しているような場合、十分な自浄効果は期待できない」と明翫氏は指摘する。

 意思決定プロセスを透明なものにするためには、IS部門とユーザー部門が共通の言語でコミュニケーションできることが前提だ。そのための具体的ツールとして、アクセンチュアでは「投資対効果分析・レビューシート」を用意している。これは、案件ごとに支出と効果(実績と予測)を書き込み、年度ごとでモニターするためのテンプレートだ。

 こうしたフレームワークが社内にできることによってIT投資に関する意思決定プロセスが可視化されるわけだが、経営層にとって最大の関心事は投資効果の評価だろう。評価に際しては、上記の「投資対効果分析・レビューシート」を利用した定量的評価と、適切に定義したKPIに基づくバランスト・スコアカードを利用した定性的評価を併用する。この定義・評価は企業自身が継続的に実施するものだが、初期導入および定着化についてもアクセンチュアが支援する。ITガバナンスのレベルを向上させ、それを定着化するフェイズまで含むのが同社のIT効率化支援プログラムである。

 単にIT-ROIを算出するのみならず、仕組み・プロセスの構築とともに、IS部門とベンダの関係、さらにはIS部門とエンドユーザーの関係にまで踏み込んで、組織を改革すること。迂遠に見えても、それがIT投資の最適化につながるというアクセンチュアのアプローチは有効だろう。特に、社内外のしがらみで動きにくい日本企業にとっては。

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著者紹介

小林秀雄(こばやし ひでお)

東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌「月刊コンピュートピア」編集長を経て、現在フリー。企業と情報技術のかかわりを主要テーマに取材・執筆。著書に、「今日からできるナレッジマネジメント」「図解よくわかるエクストラネット」(ともに日刊工業新聞社)、「日本版eマーケットプレイス活用法」「IT経営の時代とSEイノベーション」(コンピュータ・エージ社)、「図解でわかるEIP入門」(共著、日本能率協会マネジメントセンター)、「早わかり 50のキーワードで学ぶ情報システム『提案営業』の実際」(日経BP社刊)など


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