日本ユニシス――6つの視点でIT投資評価のフレームワークを体系化IT効果測定・評価サービス・レポート(2)

日本ユニシスがこれまで提供してきたIT投資評価のサービスを体系化したのがIM-FITだ。長年にわたる企業システム構築に携わってきた経験はどのように生かされているのだろうか

» 2004年03月05日 12時00分 公開
[小林秀雄,@IT]

財務の視点だけの評価は不十分

日本ユニシス ビジネスコンサルティング統括部長 多田哲氏

 ROIは、投資対効果を評価する財務手法である。ROIを割り出す方法はシンプルだ。得られるリターン(効果)を金額に表し、その額を投資額で割る。すると、例えばROIは120%という形で効果が計算される。IT-ROIも同様の計算をする。その結果は数字として示されるので経営層には分かりやすい。だが、「1つの視点でIT投資をとらえるのは不十分」と日本ユニシスビジネスイノベーション本部ビジネスコンサルティング統括部長の多田哲氏は語る。

 なぜ財務的視点だけの評価では不十分なのか。それは、ITプロジェクトの要素はIT投資のみではないからだ。業務革新プロジェクトならば、そこではIT投資だけでなく、BPRも同時に実行される。それは、業務の流れを変えることや組織の在り方を変えることである。そして、その成果を測るには別のメジャーがいる。同社では、そのメジャーとしてバランスト・スコアカード(BSC)が有効だと考えている。BSCを用いることによって、IT投資の効果を複眼的な視点で把握できるようになるからだ。

 だが、IT投資はある特定のプロジェクトであり、企業はそのプロジェクトだけを行っているわけではない。さらに、多面的な評価軸を持つべきだと多田氏は指摘する。そうした問題意識を基に、日本ユニシスが2003年10月に体系化したのが、「IM-FIT(Investment Management Framework for IT)モデル」である。

 IM-FITは、次の6つの視点からIT投資を評価する(図1)

図1 日本ユニシスのIT投資マネジメントモデル「IT-FIT」
  1. システム・ライフサイクルから見た価値評価
  2. 経済性の分析・評価
  3. 価値創出の評価
  4. ITポートフォリオ評価
  5. ITプロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント
  6. ITバリューの評価

 同社は、コンピュータ・システムを提供するに当たって、従来からIT投資効果の評価サービスを行ってきている。それは、上記の1.〜4.に相当する。その4つに、ITプロジェクト・ポートフォリオ・マネジメントとITバリューの評価を加え、IT投資評価サービスとして体系化したのがIM-FITである。

CIOがプロジェクト全体を把握できるよう可視化する

 IM-FITの特徴は、IT投資を6つの視点で評価するという多面性にある。それによって、IT投資を包括的に把握し、実行し、評価することが可能になるという。それでは、6つの視点とはどういうものか。それぞれについて簡単に見ていこう。

システム・ライフサイクルから見た価値評価

 まず、システムのライフサイクルから見た評価の目的は、システムの計画立案から廃棄に至るライフサイクル全体にわたる妥当性を見るものだ。初期の計画立案段階で課題となるのはシステムの開発規模を見積もることである。同社では、ファンクション・ポイント法(FP法)COCOMO II法を用いている。次のフェイズは、進行しているITプロジェクトを評価すること。ここでは、EVMS(Earned Value Management System)を用いて、仕掛かり中のプロジェクトの現状と今後の進ちょくをスコープ、タイム、コストについて評価する。また、システムの最終段階では、廃棄するべきかどうかをシステムライフポイントによって評価する。

 こうした個別の評価手法がシステムのライフサイクル全般にわたって提供されているのだが、その視点は単に「システムを開発する」ことにとどまらない。多田氏は、「企業には数多くのプロジェクトが走っている。CIOの役割は、その全体をマネージすること。人的リソースにしても、内製か、外注か、情報システム部門を分社するかなどいろいろなオプションがある。単に見積もりを取ってコンピュータを導入するだけではなく、全体を見てライフサイクル管理をしなければならない」と指摘する。IM-FITのキーワードは可視化といえる。

経済性の分析・評価

 経済性の分析・評価は、IT-ROIべースでITプロジェクトの投資効果を評価する手法だ。同社は、DCF(ディスカウンテッド・キャッシュフロー)法などでプロジェクトの採算を試算する。DCF法は、他社のIT投資評価手法にも採用されている。多田氏は、「DCF法によって、あるITプロジェクトの採算がどうなっているかが分かる。プロジェクトごとに稟議を通す際の基礎データとなる」と語る。だが、そのプロセスそのものを見直すことも必要だと見る。

ITプロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント

 社内の稟議を通った(つまり、利益をもたらすプロジェクトであると承認された)ITプロジェクトが数多く進められているのに、企業の業績は好転しない。「なぜか?」と多くの経営者は疑問を抱く。1件1件のプロジェクトは実行すべきだと決定し、実際に進めても効果が表れない。そうした経営者の疑問に答えるのが、同社が新しく取り入れたITプロジェクト・ポートフォリオだという。

 IT-ROIの観点からプロジェクトにゴーサインを出しても、すべてのプロジェクトが順調に進行するわけではない。開発が遅れたり、予算がオーバーすることは珍しくない。稟議を経て、実行する段になると計画とズレが生じる。プロジェクトの進ちょく過程で、プロジェクトの価値を見極めることがCIOに求められる。

 そのため必要なのは、プロジェクト全体の進ちょくが一覧できることだ。同社は、ITM Software社のプロジェクト・ポートフォリオ管理ツール(国内販売代理店:住商情報システム)を用いて、進ちょく中のプロジェクト全体を可視化するサービスを提供する。個々のプロジェクトの価値やリスクを示すことによって、企業は経営の視点からどのプロジェクトを優先させるべきか、あるいはストップさせるべきかが判断できるという。

目的に応じたメニューの選択が可能

価値創出の評価

 ITプロジェクトが運用フェイズにこぎ着けた後、実際に想定された成果を生み出しているかどうか、つまり価値創出の度合いを見えるようにすることも重要だ。それが価値創出評価である。同社ではそれをBSCをべースに提供している。BSCは、ITプロジェクトにかかわらず、プロジェクトの成果を測る物差しとして導入されている。同社の強みは、実際のプロジェクトでBSCを用いてきたことにあるという。

 BSCは「財務の視点」「顧客の視点」「内部プロセスの視点」「変革の視点」という4つの視点からプロジェクトを評価する。具体的には、達成度を測る指標(KPI)を設定してプロジェクトの効果を見極める。さらに、2〜3年というスパンで達成すべきゴール(KGI)を設定して、プロジェクトの投資評価を行う。

 そのときに求められるのは「全社」の視点だと多田氏は指摘する。例えば、10のプロジェクトのうち、1つのプロジェクトでKPIによる測定を行っても、それは部分的な達成度合いを示すにすぎないからだ。全社の視点とともに、「KPIは2つか3つに設定すべきだ」「全社的にKPIとKGIが納得されていることが重要」とも多田氏はいう。こうした指摘はBSCを実際に活用してきた経験から来ているものであり、そのノウハウに自信を示す。

ITポートフォリオ

 経営層には、ITプロジェクトを実行すべきかどうかのよりどころに加え、現状、IT資産の全体最適が行われているかどうかを見たいというニーズもある。それにこたえるのがITポートフォリオだ。ここで見るのは、投資プロジェクトが、企業のITアーキテクチャに合致しているかどうかだ。仮に、ITが合致していなければ、個別プロジェクトと全体システムとの整合性が取れず、プロジェクトに無駄な時間がかかるだけでなく、ビジネスをうまく動かす仕組みが実現できなくなる恐れが生じる。そこで、ITアーキテクチャを参照しつつ、個々のプロジェクトを評価することが重要になるのである。

 同社ではそのITアーキテクチャの参照モデルとして最近注目を集めているEnterprise Architecture(EA)のほか、APQC(American Productivity and Quality Center Model)モデルCOBIT(Control Objectives for Information and related Technology)を採用している。しかし、EAにこだわるわけではない。「PMBOKでIT資産を評価したいという顧客もいる。当社としては、評価のためのテンプレートを出して顧客とともに最適な評価の在り方を考えていく」(多田氏)と語る。

ITバリューの評価

 6つの視点のIT投資評価のうち、最近、新しく加わったのがITバリュー評価(IT-VM:IT Value Management)。IT-VMは、企業がどのIT分野に投資すべきかを明らかにすることである。具体的には、既存のIT資産が業務にもたらしている価値を分析すると同時に、新たにIT投資をした場合に得られる価値特性をマッピングする。それによって、今後投資すべきかはアプリケーション分野か、それともインフラ分野かというようにその企業が投資すべきプロジェクトが見えてくる。

 以上、IM-FITの概略を紹介した。企業の目的に応じて6つの視点から幅広くIT投資を評価することがIM-FITの特徴だと多田氏は語る。では、企業のCIOはIM-FITのサービスメニューをどのように利用したらいいのだろうか。結論からいえば、目的に応じて選択することである。

 例えば、現状、最もニーズが強いのはコスト削減だ。その場合はITプロジェクト・ポートフォリオによって優先度の低いプロジェクトを中止する。そこで、ひねり出した原資をIT-VMで明らかにされた投資分野に振り向けるといったことである(図2)

図1 IM-FITのコンサルティングメニュー

 しかし、それを適切に実行するためにはITガバナンスの確立が欠かせない。ITのコストについては情報システム部門が説明責任を持ち、IT投資の必要性と効果に関する説明責任は利用者である事業部門が果たす。そして、両者の領域にわたる全体をCIOがマネジメントする。それが、ITガバナンスの在り方だと多田氏は指摘する。ITガバナンスがあってこそ、IT投資の評価手法が生かされるのである。

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著者紹介

小林秀雄(こばやし ひでお)

東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌「月刊コンピュートピア」編集長を経て、現在フリー。企業と情報技術のかかわりを主要テーマに取材・執筆。著書に、「今日からできるナレッジマネジメント」「図解よくわかるエクストラネット」(ともに日刊工業新聞社)、「日本版eマーケットプレイス活用法」「IT経営の時代とSEイノベーション」(コンピュータ・エージ社)、「図解でわかるEIP入門」(共著、日本能率協会マネジメントセンター)、「早わかり 50のキーワードで学ぶ情報システム『提案営業』の実際」(日経BP社刊)など


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