プロシード――進行中のプロジェクトの可否を評価するEVMIT効果測定・評価サービス・レポート(3)

IT投資に関する意思決定は、プロジェクト稼働前のフェイズに限らない。そのプロジェクトを続行すべきか否か判断することも必要になる。現在進行中のプロジェクトを、コスト・スケジュール・品質の観点で評価する手法「EVM」とその支援ツールについて解説しよう。

» 2004年04月22日 12時00分 公開
[小林秀雄@IT]

プロジェクトのコストとスケジュールを可視化するEVM

 IT投資を行ううえで、経営層は「その投資(プロジェクト)を実行すべきかどうか」の意思決定を迫られる。それは、“当該プロジェクトが検討の俎上に載っている段階”すなわち「企画フェイズ」の問題ととらえられがちだが、決してそうではない。プロジェクトがスタートし、進行中のプロジェクトをモニタリングして「続行すべきか否か」を判断することも経営層の仕事だ。

 当初立てた計画と実際のプロジェクトに、コストやスケジュール面で乖離があるのは珍しいことではない。仮に当該プロジェクトのスケジュールに大きな遅れが発生したら、そのプロジェクトが完了した時点では経営上、有効な武器とならない可能性がある。コストも同様だ。計画以上にプロジェクトにコストが掛かっているならば、そのプロジェクトは期待どおりのコストパフォーマンス=効果が得られない。組織的として投資を意思決定するためには、進行中のプロジェクトをモニタリングする仕組みを構築することが望ましい。

 進行中のプロジェクトの達成度を測る手法として注目されているのが、「アーンド・バリュー・マネジメント(Earned Value Management=EVM)」である。EVMは、「コスト」「スケジュール」「品質などのパフォーマンス」にフォーカスして、プロジェクト全体の実績を分析する手法であり、プロジェクトの問題点把握を容易にする。EVMは、米国防総省がヨーロッパの国防関連の政府機関と協力して開発し、公的機関のIT調達マネジメントに利用されている。日本でも、経済産業省がEVMを導入し、政府調達に用いようとしている。

 そのEVMの手法を取り入れて、米C/S Solutionsがプロジェクト意思決定ソフトウェアとして開発したのが「wInsight」(ウインサイト)である。日本では、プロシードが6月にも販売を開始する。wInsightの機能と効果について触れる前に、EVMについて簡単に紹介しておこう。EVMは、「BCWS」「BCWP」「ACWP」という3つの基本データとしてプロジェクトの進ちょく度を可視化する。

 BCWSは、Budget Cost of Work Scheduledの略。EVMでは、作業単位ごとに予算コストを設定し、総作業単位のコストを時系列でグラフ化する。BCWSは、計画された価値あるいは、作業予定分の予算コストとも呼ばれる。このBCWSをグラフにするとS字カーブを描く。その全体がベースラインと呼ばれる(図1「EVMの指標と計算式」参照)。

図1 EVMの指標と計算式

 BCWPは、Budget Cost of Work Performedの略。これは完了した作業を累積して、時系列でグラフ化したもの。BCWPは、Earned

Value(達成価値)とも呼ばれる。 ACWPは、完了した作業に費やされた実コストのこと。これも時系列でグラフ化する。

 この3つのデータを計算式を用いて、現実コストが予算をオーバーしていないか、スケジュールが遅れていないかをチェックするのがEVMの手法である。例えば、ある時点でのコストに関する予定と実際の差違(Cost

Variance=CV)は、「BCWP―ACWP」で求められる。 同様に、スケジュールの差違(Schedule Variance=SV)は、「BCWP―BCWS」で求められる。

色と矢印で問題のあるタスクを視覚的に表示

 EVMは、以上のような計算式でプロジェクトの進ちょくを管理する。その管理手法をソフトウェア化したのがwInsightだ。

 wInsightを利用すると、任意の時点でのプロジェクトのコストやスケジュールが画面に表示される。上述の計算機能がwInsightに組み込まれているから、計算させる手続きは不要だ。計算の基となるデータは、ERPソフトから引っ張ってくる。つまり、データに基づいて、プロジェクトの計画と現状の差違を自動的に示すのがwInsightの特徴である。

 しかも計算の結果をソートして、プロジェクトのタスクごとに色と矢印で示すので、スムーズに進んでいるタスクと、問題があるタスクが一目瞭然だ(画面1)。ちなみにスケジュールの入力や管理などのフロントソフトは、マイクロソフトの「Microsoft Project」を用い、wInsightはこれと連携して稼働する。

画面1 wInsight画面例(クリックすると拡大します)

 画面では、タスクの一覧に対して「SV」「CV」「VAC」(Variance At Completion:ベースラインに対する現行のコストとの差違)の項目が示されている。画面を見ると、その項目が「黄」「赤」「緑」「青」で塗られている。これらの色はベースラインに対してどれだけの差違があるかを表している。例えば「黄」は、そのタスクがベースラインとしたスケジュールに対して「―10〜―5%の間」にあることを示している。「赤」はそれ以上の遅れという意味だ。だからユーザーは、「赤」と「黄」で表示されたタスクだけを詳細に見ていけばいい。

 また、矢印は前回のチェック時点に対するパフォーマンスを表している。矢印が、「↓」ならパフォーマンスが落ちているし、「↑」なら逆にパフォーマンスが上がっているというトレンドを表している。ソート画面を見ると、「プロジェクトのタスクごとに進ちょく度を直感的に把握することができる」(プロシード

プロジェクトディレクター 山下肇氏)。

 次のステップは、問題のあるタスクを分析することだ。分析すべきタスクは、「赤」と「黄」である。ソート画面を例に取ると、SV項目で、「通信」というタスクが「赤」表示され、スケジュールの遅れが大きい。「通信」というWBSに着目して、コストやスケジュールを時系列的にグラフ化したのが「累積差違」のチャート画面(画面1右下の図参照)である。

 縦軸の数字は進ちょく度を示している。ゼロがべースラインとなる。スケジュールを表す緑の線がある時点で急激に落ちていることが分かる。コストも、同時期にマイナスを示している。その時点の直前に何が起きたのかをチェックすれば、プロジェクトの破綻を防ぐことが可能となる。

 経営層は、プロジェクト全体をスケジュールとコストの観点から週次や月次でチェックし、問題を発見したら担当者からすぐさま説明を聞く。そしてプロジェクトを中止するなり、問題点を示してサポートするというアクションを取る。これが米国でのwInsightの使われ方である。

SIerとユーザーとの共通言語として有効

 大きな企業であれば、大小を含めて数十以上のプロジェクトが走っている。多数のプロジェクトを常にモニタリングし、続行すべきか否かを素早く意思決定するためには、ツールの利用が欠かせない。

プロシード 代表取締役 西野弘氏

 wInsightは、プロジェクトの進ちょく度をデータに基づいて示す。しかも、当初の計画(べースライン)に対して、スケジュールやコストがオーバーしているか否かを具体的に提示する。

 「そうした計算は表計算ソフトでも可能だ」という意見があるかもしれない。しかし、多数のプロジェクトを週次ペースで次々とチェックしようと考えたら、表計算ソフトは現実的ではない。表計算ソフトによるアウトプットは結局はマンパワーに頼るわけであり、意思決定者の求めるスピードに間に合うとは思えない。EVMの考え方に基づいて意思決定するために特化した機能が組み込まれているツールの使用が現実的な解だ。

 wInsightは、企業のIT投資を有効にさせる。それは、「プロジェクトがスタートして計画スケジュールの2割の段階で、そのプロジェクトが遅れているかどうかが見える」(プロシード

代表取締役 西野弘氏)からだ。実際、実際、米国防総省は、wInsightを使って、年間多くのプロジェクトをキャンセルしているという。すべてのプロジェクトの進ちょく度を計測し、続行すべきプロジェクトか、停止すべきプロジェクトかを判断するのが、CEOCIOのミッションだ。wInsightはそのCEOやCIOをサポートするツールといえる。

 このwInsightは、遅くとも6月には日本語版がプロシードからリリースされる。当面の利用企業は一般企業ではなく、システム・インテグレータなどのIT企業を想定しているという。というのは、まず、IT企業がwInsightの利用に習熟することがファーストステップとなるからだ。IT企業の習熟を経て一般の企業にwInsightが導入されていくことになる。もちろん、一般の企業の経営層が、EVMツールの画面を見て、続行か中止かを判断する力を養うことが大切なのはいうまでもない。

 最後に、EVMがソリューションプロバイダにもたらす影響について触れておきたい。EVMはソリューションプロバイダの顧客に対して、プロジェクトの進ちょく度(すなわちソリューションプロバイダのパフォーマンス)をむき出しにしてしまう。つまりEVMは、現状の人月による契約に終止符を打つ契機となる可能性を持っているのである。一方で、ソリューションプロバイダがEVMを活用すれば、自社のパフォーマンスをきちんと測定することができる。その意味で、EVMは、ソリューションプロバイダとユーザー企業とがプロジェクトを評価する“共通言語”ともなるものなのだ。

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著者紹介

小林秀雄(こばやし ひでお)

東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。雑誌「月刊コンピュートピア」編集長を経て、現在フリー。企業と情報技術のかかわりを主要テーマに取材・執筆。著書に、「今日からできるナレッジマネジメント」「図解よくわかるエクストラネット」(ともに日刊工業新聞社)、「日本版eマーケットプレイス活用法」「IT経営の時代とSEイノベーション」(コンピュータ・エージ社)、「図解でわかるEIP入門」(共著、日本能率協会マネジメントセンター)、「早わかり 50のキーワードで学ぶ情報システム『提案営業』の実際」(日経BP社刊)など


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