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■IT投資対効果
 
ITポートフォリオ戦略論──最適なIT投資がビジネス価値を高める
●ピーター・ウェイル、マリアン・ブロードベント=著、マイクロソフト株式会社コンサルティング本部=監訳、福嶋俊造=訳
●ダイヤモンド社 2003年8月
●3200円+税 ISBN4-478-37425-2
 適切なIT投資はどうあるべきか? という議論は古くからあるが、近年IT-ROIなど再び話題になっている。
 本書は、世界各地の企業を調査した結果などから、ビジネス上の価値を生み出すためのITインフラを構築するための手法として「ITポートフォリオ」によるアプローチを提唱するものだ。ITポートフォリオとはIT投資全般をリスク・リターンや事業戦略、株主価値などの面を含めてバランスを取って考えていくこと。ポートフォリオ内のさまざまなIT投資は役割と特徴が異なり、最適投資のためにはその理解が必要だとし、そのマネジメントのためにIT原則を策定することを説く。
 ここで展開される議論はある意味、常識に沿った当たり前のものである。しかし、現実にはITポートフォリオが構築できている企業は少ない。IT戦略の根本を見つめ直すための出発点として活用したい。
 
もうかる情報化,会社をつぶす情報化 ホンネで語るシステム・マネジメント
●木暮仁=著
●リックテレコム 2003年9月
●2000円+税 ISBN4-89797-777-0
 情報システムを導入するといっても、ハードやソフト、インフラによって話が相当異なる。デファクト・スタンダードの技術だから安心、とあぐらをかいていると、次々と新しい技術、ソフトが登場し、市場が塗り変わっていく。そんなため息の出るような情報化時代、どんな情報化が最適なのだろうか。それをとことん突き詰めたのが本書だ。
 情報システムの提供側、導入側、経営側の異なる立場を経験した筆者が、情報化の現場を、ビジネス誌に書かれていたことや市場動向などの客観的なデータを用い、多方面から分析するていねいな作りになっている。
 「情報化投資は売上高や経営利益の何%程度が適当だろうか?」という素朴な疑問に関して、TCO(パソコンを運用する総費用)のような算出方法があいまいなデータを過信することや、「同業のA社やB社でもやっているから同様の情報化が必要」と判断することの危険性を説くことで、コア・コンピタンスへの適切な投資を促している。またインフラと個別アプリを区別し、それぞれ会社に合わせた判断基準が必要だと指摘する。
 情報化が「目的」になっている現在の風潮に、一石を投じている。読んだ印象は大手企業の情報システム部門向けのようだが、「お金」「モノ」「エンドユーザー・コンピューティング」「人、組織」の視点からまとめられており、中小企業の情報システム導入においても十分役立つ内容だ。(ライター:生井俊)
 
図解 情報化投資効果を生み出す80のポイント──効果を見極めるためのマネジメント手法
●小野修一=著
●工業調査会 2003年6月
●2600円+税 ISBN4-7693-6152-1
 情報化投資の基本から、コストの見積もり・投資対効果評価方法までを図解入りで説明した概説書。経営者に向けて、情報化投資をブラックボックスにしないためにどのような方法があるのか、その基本的な考え方が述べられている。また、概説書としてはやや詳しく書かれているので、IT担当のマネージャがITマネジメント全体を俯かんしたり、導入評価プロセスを設計する際に役立つだろう。
 
情報価値経営──情報化の生産性を高める6つ基準
●社会経済生産性本部=編 鴇田正春=監修
●生産性出版 2003年7月
●1456円+税 ISBN4-8201-1762-9
 財団法人社会経済生産性本部が策定した、企業における「情報化の生産性」を自己診断するための評価基準「情報化・生産性評価基準 セルフ・アセスメント・ガイドライン」を解説したガイドブックである。ここでいう“情報化”とは「情報を活用して新たな価値を創造すること」であり、この評価基準はそれがどの程度実現できているかをチェックするためのもの。同時に「情報ならびに情報システムのリスクに対処するため」のガイドラインでもある。
 本書前半では、企業を社会システムとしてとらえ、それに必要な情報は何かという観点から、情報化を成功させるその本質とポイントを解説する。後半はガイドラインを具体的に利用する際のノウハウが展開される。
 セルフ・アセスメント・ガイドラインは、マルコム・ボルドリッジ賞や日本経営品質賞などのようにクライテリア(評価基準)による診断を行う経営ツールである。クライテリアは「情報価値の把握と情報化の必然性」「情報の開発・活用・管理の現状」「情報化推進体制とその仕組み」「組織と個人の情報技術の使いこなし」「情報化への取り組みの創意工夫と改善」「情報価値創造と価値連鎖の円滑化についての経営成果の評価と課題の把握」の6つ。本書は言う。「クライテリアに経営トップが回答できるかどうかで、情報化の生産性はほとんど決まってしまう」──企業のCIOや情報システム部門要員のみならず、IT活用に悩める経営者にこそ読んで欲しい1冊だ。

 
[図解 企業ユーザーとSE必携]情報システム投資の基本がわかる本
●小笠原泰、小野寺清人、森彪=著
●日本能率協会マネジメントセンター 2003年11月
●2000円+税 ISBN4-8207-4190-X
 企業の情報化投資に関する入門書。各項目ごとに見開き構成で、図解もあり読みやすい。「ITとは何か」から始まって、「なぜ、情報システム投資をするのか」「情報化投資計画の立案」「プロジェクトの立案・開発・運用」「情報システム投資の評価」まで、企業の情報化に必要な要素が全般的に触れられている。
 各要素はさほど詳しく書かれているわけではないので、本書だけで書名にある「情報システム投資」の評価や効果測定ができるようになるわけではないだろうが、その全体像や複雑さを掴むにはよいだろう。
 また、情報システム導入における活動項目が網羅されているので、関係者が基本知識を共有した上で、独自のITガバナンスを構築する際のガイドブックとしては便利だろう。巻末には各種計画書、契約書、RFPなどのフォーマットサンプルが付いている。
 自社のITガバナンスを再構築しなければ、という際の教科書としてお奨めしたい。

 
インタンジブル・アセット──「IT投資と生産性」相関の原理
●エリック・ブリニョルフソン=著、CSK=訳・編
●ダイヤモンド社 2004年5月
●2000円+税 ISBN4-478-37465-1
 ERPシステム導入のような大規模プロジェクトを調査すると、平均的な支出は20億円強。ハードウェアのコストはそのうち5%にも満たない。コストの大半は、業務プロセスの再構築やユーザーの教育費に充てられる。これらの「組織資本」や「人的資本」を築くための投資は、ERPの初期導入コストの80%に及ぶという。
 こうした投資、そしてその結果としての効果としての情報システムの全体的な価値は、会社の貸借対照表に現れることはない。このような組織的資産を「インタンジブル・アセット」と呼ぶ。ハードばかりに目がいきがちだが、実は社員教育や、取引先との関係、顧客満足度、社員の忠誠心といったものが、実質的に生産性の向上を支える。その割合は、ハードウェアの投資額1ドルに対し、インタンジブル・アセットの平均投資額が9ドルになると本書は指摘する。
 前半はデルの「見えない工場」などを取り上げ、デジタル組織になるための7つの原則をまとめている。原則の例を挙げると第1は業務プロセスのデジタル化、第7は人的資本に投資することだという。後半はインタンジブル・アセットの効果を計算式を示しながら解説する。
 情報技術と生産性向上との相関関係を学ぶことで、企業の競争力を強化し、成功する確率を上げることが可能になる。情シス担当者のみならず、経営者も手にしてほしい。(ライター・生井俊)

■IT導入、ITソリューション
情報技術を活かす組織能力──ITケイパビリティの事例研究
●岸眞理子、相原憲一=編著
●中央経済社 2004年7月
●3200円+税 ISBN4-502-37460-1
 情報技術の組織的活用能力(=ITケイパビリティ)に着目し、その概念と分析フレームワークから、企業によるIT導入効果をまとめている。
 企業が競争優位を獲得するには、ヒト・モノ・カネの3資源に加え、情報、技術力、ブランド、専門能力、組織能力などを開発し、これらを組み合わせて企業のケイパビリティを生成することが重要だ。ITケイパビリティは、情報技術資産とそれを扱う人的資産、情報技術を活用する企業コンテクストにかかわる資源に分類できるという。
 ここに登場する7社は、長野県の別所温泉にある上松屋旅館、靴下の専門店を展開するダンなど、ほとんどが衰退業界とされる世界で勝負を挑む中小企業である。
 上松屋旅館は、料理長の采配次第でブレのあった食材の調達コストを、情報システムを導入することで低く抑えることに成功した。また、ダンは、小売店に設置したPOSシステムのデータを、自社だけでなく染工場などとも情報共有し、商品販売サイクルの短縮化と在庫規模の適正化を実現し、販売機会損失や値崩れを防いでいる。
 伝統産業や中小企業であっても、適切な規模のIT導入には大きな効果があることを証明している本書は、大企業に限らず中堅・中小企業の情報マネージャに目を通して欲しい。
(ライター・生井俊)
 
成功企業のIT戦略──強い会社はカスタマイゼーションで累積的に進化する
●ウィリアム・ラップ=著、柳沢享、長島敏雄、中川十郎=訳
●日経BP社 2003年12月
●2800円+税 ISBN4-8222-4367-2
 世界のリーディング企業における戦略的IT活用のケーススタディ集である。日米欧の有名企業十数社が登場するが、トヨタ、新日鉄、イトーヨーカ堂など半数は日本企業だ。著者は、その日本の大手ユーザーの特徴として、「カスタマイズしたソフトウェアを大量に使用していること」「IT子会社の発展」を挙げ、これによりITの高度な専門化とITの業務関連(知的)財産の集積という優位性を獲得していると説く。これらの企業は、ITを目的達成と差別化のための道具として見ており、「累積的進化」を実現しているとし、米国のソフトウェア産業主導型のITに警鐘を鳴らす。「日本はIT化に遅れている」という俗論を真正面から切る1冊である。
 
SEのための顧客提案術──ITキーワードをわかりやすく説明するコツ
●小林秀雄=著
●日経BP社 2003年9月
●1400円+税 ISBN4-8222-1565-2
 ITベンダ側の提案型SEやセールス・エンジニア向けに、「IP電話」「ICタグ」「IPv6」「ERP」といった言葉とそれらのソリューションの使われ方、提案の仕方を解説した1冊。
ITサービスベンダのSEと営業マンがユーザー企業の担当者に提案を行うシチュエーションの会話形式で書かれており、非常に読みやすい。ITキーワードの解説本としても分かりやすいので、IT用語に詳しくない方、提案を受ける側のユーザー企業・担当者にとっても、ちょうどよいガイドブックになるだろう。

■IT基盤、インフラストラクチャ整備
 
エンタープライズ・アーキテクチャ
●IBMビジネスコンサルティングサービス IT戦略グループ=著
●日経BP社 2003年12月
●2800円+税 ISBN4-8222-1873-2
 経営とITとの結びつきを強くするエンタープライズ・アーキテクチャ(EA)について、コンサルティングする立場からその構造や実践、価値について紹介したのが本書だ。
 第1章は「EA時代が到来している」と題し、「EAとは何か」から、なぜいまEAなのか、経営層のITに対する要望などを述べ、情報システム部門だけでなく、経営者層にも分かりやすい導入部に仕上げている。ちなみに、本書の言葉を借りればEAとは「企業のITの状況を整理して、経営に貢献できるITのあり方を描き出す方法論」のことだ。
 第2章では「EAの構造」について、「アーキテクチャ」「ガバナンス」「移行計画」の3つの視点で説明する。さらに、アーキテクチャはビジネス構造を表す「ビジネス・アーキテクチャ」、業務プロセスや機能を表す「アプリケーション・アーキテクチャ」、ビジネス活動に必要となるデータを表す「データ・アーキテクチャ」の3層があり、これらをITに写像した「テクニカル・アーキテクチャ」を合わせた4層に分けられると解説する。
 「EA構築の実践」(第3章)では、EAを国レベルで推進するアメリカの流れを受けた日本政府や企業の取り組みを紹介している。また、第5章ではIBMが提唱する「e-ビジネス・オンデマンド」と連携することで、今後EA自体がより進化していくとまとめている。(ライター:生井俊)

■コミュニケーション、コンサルティング、リーダーシップ
コンサルタントになる人のはじめての業務分析
●窪田寛之=著
●ソフトバンクパブリッシング 2004年7月
●2600円+税 4-7973-2405-8
 業務改善からシステム分析まで幅広く使える、UMLによる「コンポーネントモデリング」の手法を、ケーススタディをふんだんに盛り込みながら解説する。
 第3章「コンポーネントモデリング入門」では、業務改善の基礎となるヒアリングのコツや効果的な業務フローの洗い出しについて紹介し、オブジェクトの抽出、コンポーネントの仕様化を学ぶ。それを受け、第4章では通信販売業務の事例に沿って業務分析の手順を確認していく。また第5章では、病院外来、自動車販売業務、人材派遣業務の業務分析を行い、そのサンプルを掲載している。付録として、Jude竹、MagicDrawなどのモデリングツールやUMLダイアグラムについてまとめている。
 専門用語の使用を極力避け、平易な文章で書かれているため、コンサルタントやシステム担当でなくても理解しやすい。また、各章は数ページごとのセクションで分かれており、必要な部分を拾い読みするのもいいだろう。
(ライター・生井俊)
営業が変わる──顧客関係のマネジメント
●石井淳蔵=著
●岩波書店 2004年6月
●780円+税 4-00-700114-6
 本書は、「営業という仕事の意味」という読み物から始まる。“お客さんのための営業”や“ノルマ”の意味について、先達の言葉を引用し営業の本質を問う。
 第3章「属人の営業と組織の営業」では、1人の営業マンが深くお客さんに食い込む属人的な営業ではなく、組織でアプローチする営業のメリットをうたう。住宅販売の現場では、モデルハウスの宣伝広報、お客さんのニーズの聞き取り、研究所への案内など、仕事がきちんと分解されている。それぞれの分野の責任者が明確になると、ムダが省けるだけでなく、営業担当者それぞれの能力(専門性)の向上にも役立つ。そして、専門化されたすべての分野を一通り理解したとき、一人前の「お客さん担当」になれるという。
 前半部分は営業の技術について語られるが、後半はそのマネジメント手法へと展開する。営業をプロセスでとらえ、案件の進ちょくを管理することから始まり、最終的には“お客さんとの継続的な関係”を重視する仕組み作りを目指す。CRMの強化を考えているマネージャやSFA導入を提案したいSEに、本書でその前提となる「プロセス営業」を学ぶことをお勧めしたい。
(ライター・生井俊)
 
名前だけのITコンサルなんていらない──生き残るSEが技術以外に持つべきスキル講座
●内山悟志=著
●翔泳社 2004年3月
●1580円+税 ISBN4-7981-0644-5
 本書は、ITコンサルとは具体的に何をするのか、どういったスキルが求められているかなど、SEやITコンサルタントの業務全般について書かれている。SEやITコンサルタント本人だけにでなく、経営者に向けても分かりやすく解説されている。
 第1章は「ITコンサルタントとは」と題し、会社の機能統合や集中化、またビジネスとの連携といった側面から、SEが果たす役割が大きくなってきたことを取り上げる。そして、ITのアウトソース化が盛んにいわれるが、短期的には魅力的だが、長期的にみると技術の空洞化を招き、企業のIT推進に大きなリスクをもたらすと説く。
 また、ITコンサルタントに期待される役割については、(1)課題の構造を明らかにする、(2)課題に対する解決策を導き出す、(3)解決策をうまく実行/運用する、の3つがあるという。
 第2〜4章は、情報を収集したり、提供するために不可欠なコミュニケーション・スキルを取り上げる。効果的なインタビューを行うための「インプット・コミュニケーション」や、プレゼンテーションで相手の意識を変えさせる「アウトプット・コミュニケーション」、論理的な報告書作成ができる「ドキュメンテーション」をキーワードに、SEやITコンサルタントがすべきことを深堀している。
 後半部は、プロジェクト管理やコンサルティング・テクニックにも言及し、これ1冊でコンサルティングに対する理解が深まるだろう。(ライター:生井俊)
 
コンサルタントの時代──21世紀の知識労働者
●鴨志田晃=著
●文芸春秋 2003年6月
●680円+税 ISBN4-16-660323-X
 情報システム部門は、社内ITコンサルタントたれ──などと言われるようになってきた。企業において情報システムの位置付けのみならず、情報や知識の活用形態や取り組み意識が大きく変わってきているのであろう。本書は、永年コンサルティング業界で活躍してきた筆者が「知識労働者の生き方」を示したものである。個人の経験に依拠して書かれた部分が大きいので一定の偏りは免れないが、知識社会で必要とされる人材像が浮き彫りにされている。コンサルティング業界へ転職した人々の失敗例にも触れられており、その厳しさが伝わってくる。コンサルティング業界を目指す人々向けに書かれているようだが、社内外の人材を活用した“知識経営”を考えているCIOの方、コンサルタントとしてのITスタッフ育成を考えている情報部門マネージャの方などにお奨めしたい。
 
なぜあの人だと話がまとまるのか?
●田村洋一=著
●明日香出版社 2004年1月
●1500円+税 ISBN4-7569-0716-4
 紛糾していた会議や泥沼化していたプロジェクトが、あるとき突然動き出したり、まとまったりすることがある。こうした「話がまとまる」という現象には、原理があるという。そしてそれは訓練次第で身に付けられるという。
 本書は、ファシリテーションのプロが経験に基づて「話がまとまる」原理とやり方を語っていく。これはロジカルシンキングや問題解決アプローチとは異なり、技法というより視点の持ち方だといえる。
 ファシリテーションの本ではどのようなプロセスで行うか(How)の部分に焦点が当たりがちだが、ここではなぜそれを行うか(Why)を重視し、チームや組織においては「ビジョンや目標をチームに与えること」──すなわちリーダーシップのスキルを強調する。そして「緊張構造」(ビジョンと現実のギャップ=P・センゲのクリエイティブ・テンションに同じ)を中心に戦略的なファシリテーションを実現していく技法を解説する。
 難しい理論や込み入った解説などなく、簡単に読み終えることができるが、プロジェ クトの運営に行き詰まったり、メンバーとの付き合い方に迷ったりしたとき、繰り返 し読んでも道を示してくれる──そんなガイドブックとなりそうだ。
 
ロジカル・プレゼンテーション──自分の考えを効果的に伝える戦略コンサルタントの「提案の技術」
●高田貴久=著
●英治出版 2004年2月
●1800円+税 ISBN4-901234-43-9
 プレゼンテーションの技法を扱った書籍は数多くあるが、本書は新規事業を立ち上げるメーカーとコンサルティング会社とのカバーストーリーを織り込みながら、そこからプレゼンテーションとは何かを学ぶ異色の作品だ。
 筆者はまず「提案」を、「考える」能力と「伝える能力」とが合わさった状態で生み出されるもの、と定義している。また、提案の際に必要な様々な能力から「論理思考力」「仮説検証力」「会議設計力」「資料作成力」の4点に絞って取り上げる。
 各章は、ストーリー(メーカーとコンサルティング会社とのやり取り)と解説から構成され、章末にポイントが整理されている。「相手に伝えること」に比重を置いており、提案が通らないのを「相手のせい」や「環境のせい」にせず、「提案は通らない」ことを前提に発想することで、努力する方向性が見えてくると説く。
 本書は、経営者やプロジェクトマネージャが、部下を教育するための「指導書」としても有益だろう。(ライター:生井俊)
 
会社というおかしな場所で生きる術──「使われる」サラリーマンから「使いこなす」サラリーマンへ
●柴田英寿=著
●実業之日本社 2004年5月
●1400円+税 ISBN4-408-10588-0
 「キミは、がんばっているのになかなか評価されていないが、見ている人は見ているから」という人がいる。果たして、それは必要なことなのだろうか。評価は自分を成長させていくためには大切だが、特定の誰かに評価されることは目的にならない、と本書はいう。組織論、人材論というより、自己啓発を中心にまとめられている。
 しがないサラリーマン脱却を目指す手法をまとめたのが第1章。会議で結論を先送りにすることを避ける、夜は5時半に帰る、儀式のような送別会は昼休みに行うなど、時間の無駄を排除するユニークなアイデアが並ぶ。
 第2章では「会社というおかしな場所で生きる術」として、頭の使い方を学ぶ。「机に座っていることや資料を作ることが仕事だと思ってしまうのは、仕事のできない人の典型的な考え方」だといい、仕事は午前中に片付け、昼間は人に会うことを推奨する。
 ダメ上司に出会ってグチをこぼしたり、悩むのではなく、いかに成長し、彼らや自分自身を変えていけるかが勝負。最近は安易に転職を考える人が多いが、まず不平不満のあるいまの職場で挑戦してみる気が出てくる一冊だろう。(ライター・生井俊)
■マネジメント、組織論、企業改革
IT管理・知的財産マネジメント規定集
●荻原勝=著
●中央経済社 2004年8月
●3800円+税 4-502-37580-2
 顧客情報や技術情報の流出・漏えい、システムのダウンやウイルスの侵入といったITリスクをどう管理するか。それらの管理マニュアルとして、具体的な規定55例を収録したのが本書だ。
 規定は大きく分けて、「ITシステム」と「知的財産」の2つの観点から構成される。それぞれに、活用や情報管理などの項目があり、さらに細かな規定例を紹介している。
 まず、規定の趣旨があり、その規定に盛り込む内容を簡潔にまとめている。そして、項目の最後にはモデル規定があるため、若干の文言を修正することで、すぐに自社の規定集として使える。
 第3章「ITシステムのリスクマネジメント」ではITスタッフが持つべき倫理観についての規定があり、また第4章では「パソコンの私用防止対策」の規定を集めている。地味な内容ではあるが、規定を作るうえでの実用性が高い。
 いま知的財産への関心が高まっているが、今後もこの傾向は強まるだろう。本書を参考に現段階から褒賞金や啓発についての規定を準備しておきたいところだ。
(ライター・生井俊)
図解 上級SEのためのビジネスモデリングテクニック 機能ユニットモデルのBPM方法論
●芳賀正彦=著
●日本工業新聞社 2004年8月
●2400円+税 4-526-05326-0
 ビジネスモデルの再構築により競争優位性を高めていくためには、企業の設計図が必要になる。本書では、このような企業の設計図を作成し、その企業活動の構造とダイナミズムを表現するための方法論を提供する。
 全社的なBPMを実現するための要件として、「直感的な分かりやすさ」「俯瞰(ふかん)性」「一貫性」「プロセスの表現」「収益・コスト・時間の表現」「組織の表現」「情報処理システムとの親和性」を挙げる。そこで気を付けるべきポイントは、物事をただ単純化するのではなく、「モデル化の目的を明確」に意識すること、現状の組織形態や業務手順に拘泥せず「あるべき姿を徹底的に追求する」姿勢があること、その作業を行う際は「抽象化」と「一般化」の視点を持ち続けることなどだ。
 メーカー、商社などを想定した企業活動のモデリング例では、機能ユニットに合わせた階層化やモデルのバイアスと標準化、業務イベント一覧表などを紹介する。機能モデル、プロセスモデル、組織モデルの作成手法のほか、システム開発やモデリングツールに関しても詳しく、まさに上級SEが活用できる実践的な内容になっている。
(ライター・生井俊)
IT資産管理のコツ
●アエルプランニング=編著
●セルバ出版 2004年7月
●2200円+税 4-901380-22-2
 本書はIT資産を全社的に統括し、効率よく管理するための考え方や手法をまとめている。
 IT資産とは、企業が利益向上や業務効率化などの手段として活用するITにかかわる資産のこと。大きく分けて「ハードウェア」「ソフトウェア」「ネットワーク」「データ」「人材」の5つから構成される。業務の効率化を図るためには、これらを総合的に管理し、最適に運用していくことが求められる。
 まず必要なのは、ハードウェア/ソフトウェアのライフサイクル管理だ。計画・導入・運用・廃棄のステップに基づき、使用状況の管理とコスト把握を適切に行う。また、人的な資産管理では、テクニカルな問題だけでなく、コンプライアンスの観点など各部門の専門知識も必要になるという。
 これらを導入し、適切に管理していくためには、基本計画書などの作成が必須だ。その作成方法や管理帳票・ソフトウェアについても詳しく記され、巻末には参考資料としてソフトウェア資産管理基準などを収録している。マネージャや情報システム担当者だけでなく、経理などの管理部門も含め一度目を通されてはいかがだろうか。
(ライター・生井俊)
 
企業変革力
●ジョン・P・コッター=著、梅津祐良=訳
●日経BP社 2002年4月
●2000円+税 ISBN4-8222-4274-9
 企業変革での失敗事例を数多く挿入した読みやすい経営書で、経営者やプロジェクトマネージャに向けリーダーシップ論を展開している。
 変革を推進する上で「8つのプロセス」があると本書では説く。具体的には、1.危機意識を高める、2.変革のための連帯チームを築く、3.ビジョンと戦略を生み出す、4.変革のためのビジョンを周知徹底する、5.従業員の自発を促す、6.短期的成果を実現する、7.成果を活かして、さらなる変革を推進する、8.新しい方法を企業文化に定着させること、の8項目だ。これらは、順番にこなすだけでなく、複数が同時に進行する必要がある。
 新しいシステムを導入したり業務プロセスを変更することで、一時的に生産性が低下することがある。そのとき、問題に対して危機意識が低いと、なぜ新しいことを始めたのか、あるいはシステム導入の是非を問うといった議論が再燃することがある。結果、プロジェクトの撤退や見直しが起こり、従来型のやり方に戻ることになり、変革は失敗に終わる──。
 どの時代でも、変革には痛みが伴うものだ。これを推進するためには、人格者のリーダーが求められている。過去よりも、将来を重視するリーダーのいることが、企業にとって有益だという視点でまとめられている。(ライター:生井俊)
 
チェンジモンスター──なぜ改革は挫折してしまうのか?
●ジーニー・ダック=著、ボストン・コンサルティング・グループ=訳
●東洋経済新報社 2001年12月
●2200円+税 ISBN4-492-53131-9
 ITプロジェクトがそのまま、企業改革プロジェクトであることは少なくない。ITプロジェクトの失敗とされる例も、改革の失敗であることが多いのではないだろうか?
 本書は、企業改革を阻む人間的・感情的な障害要因を“チェンジモンスター”と呼び、これを乗り越えてチェンジマネジメントを実現する方法を述べている。この中では変革のプロセスを「停滞-準備-実行-決着-結実」からなる曲がりくねった道のり(チェンジカーブ)ととらえる。そして「停滞にありながら全社的にはそれに気付かない」「準備段階でプロジェクトを完了したと思ってしまう」「リーダーが孤立する」などのチェンジモンスターの退治の仕方を述べていく。
 内容は方法論や理論ではなく、実例集といったところで読みやすい。例えばITプロジェクトでの例として、システム部門とユーザー部門で愚痴を言い合う場を設けるといったやり方が紹介されている。
 プロジェクトの中で頑強な抵抗勢力に出会った経験がある方なら、手にとってみる価値があるだろう。
 
もう決断力しかない──意志決定の質を高める37の思考法
●スティーブン・P・ロビンズ=著、清川幸美=訳
●ソフトバンク パブリッシング 2004年3月
●1600円+税 ISBN4-7973-2431-7
 正しい時期に正しい選択をすることが、人生の質を高めることにつながる。このことは、学歴や才能や縁故とは無関係だ。その意志決定の本質ととらえ方をまとめたのが本書である。
 筆者は、意志決定は人生で最も重要なスキルであり、スキルである以上向上させることができると明言する。当然、コントロールできるのは意志決定の「過程」だけであり、「結果」を保証してくれるわけではない。
 すぐれた意志決定とは、合理性に基づいて行われたものであり、自分がいまいる地点から到達したい地点までを最短距離でいく「合理的意志決定プロセス」について説かれている。また、第2部ではどういう意志決定をしているかを分析する自己診断のチェック項目があり、あなたのリスク指向や先送り傾向についてなどが分かる。
 「計画を立てない」「自信過剰」「過去の経験に頼りすぎる」「過去から学ぶのが苦手」。そんなプロジェクトを作らないために、マネージャやSEが自己分析をし、意志決定のスキルを学ぶために参考になるだろう。(ライター:生井俊)
SEマネジャー心得ノート
●泉田浩二、竹野内勝次、中谷正明、久井信也=著
●日刊工業新聞社 2004年3月
●2100円+税 ISBN4-526-05262-0
 書名に「ノート」とあるが、システムインテグレータあるいは社内SEを抱える企業情報システム部門のマネージャの心得をまとめたもので、「教科書」や「チェックシート」として使える1冊。
 まえがきに、SEマネージャに必要なのは「人質(じんしつ)」だとある。本書は、知的にシステムを作る人材とはどういうものか、という大きなテーマを背景に、人材育成やプロジェクトを遂行するためのプロセスを紹介する。

 「SEスキルの人材育成基本計画表」やプロジェクトの「案件チェックリスト(受注時)」など、若干の修正を加えれば、実際のプロジェクトやマネジメントのシーンで活用できるフォームを多く掲載する。
 ユニークなのは第11章の「悩めるSEマネジャー・Q&A」。「優れたSEがいるが部下の育成には興味をもたない」「いわれたことしかしない部下にどう対処したらよいか」などの問いに、業界の流れやコミュニケーションといった観点から簡潔に答えている。
 本書はこれから部下を持つSEや、自分のマネジメントの方向性を確認したいマネージャに最適だ。(ライター:生井俊)
 
リーダーを育てる会社 つぶす会社──人材育成の方程式
●ラム・チャラン、ステファン・ドロッター、ジェームズ・ノエル=著、グロービス・マネジメント・インスティテュート=訳
●英治出版 2004年4月
●2200円+税 ISBN4-901234-47-1
 プロジェクトマネージャや事業部長(ビジネスマネージャ)クラスの人材育成を題材にした書籍は多いが、本書は係長クラスから経営トップまでを順番に経験し、徐々に成長していく形を前提に、戦略的な人材育成を論じる。
 有能なリーダーを育成するための1つの解が、GEなどが採用する「リーダーシップ・パイプライン・モデル」だ。これは、“リーダー”を一くくりでとらえるのではなく、係長と社長に求められるリーダーシップが異なるように、役職ごとに要求されるスキルや意識の持ち方などが異なることに着目したモデルだ。
 なぜリーダーが不足するのかから始まり、パイプライン・モデルの概要を紹介。それぞれの役職に昇格したとき(転換点)に、どういう立場に変わり、何をすべきなのかが明示されている。また、後半は、パイプラインの整備と後任の育成についてをまとめている。
 「リーダー不在」に嘆く経営者だけでなく、係長・課長・部長などそれぞれの立場で読めば、自分自身のポジションに対する理解が深まり、より仕事の質が向上することだろう。(ライター:生井俊)
 
新・管理者の判断力──ラショナル・マネジャー
●C.H.ケプナー、B.B.トリゴー=著 上野一郎=監訳
●産業能率大学出版部 1985年2月
●2600円+税 ISBN4-382-04851-6
 管理者が合理的な判断を行うための思考法であるKT法(ケプナー=トリゴー法)の解説書。筆者のチャールズ・H・ケプナー博士とベンジャミン・B・トリゴー博士はKT法の開発者──いわば原典にあたる。KT法は、優秀な管理・意思決定者には、情報の収集・分析・評価・判断のプロセスに共通性があることから、それを4つプロセス(ラショナル・プロセス)に体系化・ツール化したものだ。1970年代ごろから、論理的思考の共通言語として企業への導入が進められた。最近、プロジェクトマネジメントが重視されるにつれて再び、焦点があたってきているようだ。もしあなたが「優秀な意思決定者」なら、ある意味、当たり前のことが書いてあるが、自分の思考過程を客観的にとらえるみることに意味はあるはずだ。
 
NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦
●経営システム研究会=編
●日刊工業新聞社 2004年4月
●1400円(税別)+税 ISBN4-526-05202-7
 NTTドコモが導入したリアルタイム・マネジメントを実現するDREAMS(愛称)。サーバ410台、クライアントは約3万台で構成され、日次で5000万件のトランザクションを処理できるという世界最大規模のオープン系基幹情報システムだ。
 それ以前にも、顧客管理システムALADINを導入し、顧客サービスの向上、営業拠点の効率化などを図ってきた。さらに経営情報をリアルタイムに把握するため、業務の抜本的改革や管理会計の充実をコンセプトにDREAMSプロジェクトがスタートした。
 
DREAMSが目指すのは「業務・金・物の流れとデータの流れが完全に一致し、システムにより、現実の経営の姿がリアルタイムに把握できること」。このDREAMS導入により、あらゆる経営情報を日次単位で把握することが可能になり、週次を経営のPDCAサイクルに反映するなど、経営のスピード化が図れるという。
 第2章はそのプロジェクトの開発体制やレビュー(部内討論会)などを紹介。第3章はDREAMSで実現したメニューや改善されたワークフローなど、スクリーンショットを豊富に盛り込み解説する。プロジェクトマネージャやSEがすぐに活用できる実践的な内容を評価したい。(ライター:生井俊)

■ソフトウェアライフサイクル、方法論、上流工程
図解入門 よくわかる最新上流工程の基本と仕組み
●谷口功=著
●秀和システム 2004年6月
●1500円+税 ISBN4-7980-0820-6
 システム開発の中の“設計図”作成段階といえる上流工程。芸術作品ならぬ“製品”を作るうえで設計図を描く工程を疎かにしては、品質の高いモノを作り上げることはできない。その上流工程について、システム開発における位置付けから仕様のまとめ上げまでの、一連の流れを解説する。
 当然のことだが、上流工程では、開発側と顧客・ユーザー間のコミュニケーションが欠かせない。そこで大切なのは、要求定義書や外部設計書などの成果物を、顧客・ユーザーが簡単に理解できる表現にすること。顧客・ユーザーが内容を正確に把握できれば、その後の工程での齟齬(そご)が減少するという。そのための、現状把握と要求の明確化に多くのページを割く。また、付録では、ソフトウェア開発能力成熟度モデルCMMについても言及する。
 図や表をふんだんに盛り込んだ本書は、システム導入を考える企業のマネージャや情報システム担当者が、上流工程の理解を深めるために役立つだろう。(ライター・生井俊)
 
〈業務別〉データベース設計のための「データモデリング入門」
●渡辺幸三=著
●日本実業出版社 2001年7月
●2800円+税 ISBN4-534-03250-1
 書店のコンピュータ書籍コーナーにいくと、データベースをテーマにしたマニュアル本が数多く並んでいる。そのほとんどが「データベースとはどんなものか」「データベースツールの具体的な操作方法」などについては書かれているが、業務を具体的にどのようなデータベースとして設計すべきかについては触れられていない。
 本書は「商品管理」「在庫管理」「販売管理」「購買管理」「取引先管理」「会計管理」と具体的な業務に即して、どのようなデータモデルがあり得るかを解説する。筆者は「データモデリングの知識はシステム屋と業務屋の間の深い溝を埋める『共通言語』の役目を果たす」と述べる。
 業務オリエンテッドの本書は、本職のSEとまではいかないがシステムの発注を行っているユーザー企業のスタッフに、ぜひお奨めしたい1冊である。
 
要求定義工学入門
●Pericles Loucopoulos、Vassilios Karakostas=著、富野 寿=監訳
●構造計画研究所 1997年10月
●3300円+税 ISBN4-320-09719-X
 システム工学の1領域で、システム構築の最上流工程である要求定義を工学的に扱う要求定義工学(要求工学)の教科書ともいえる本。
 要求定義はソフトウェア開発ライフサイクルの1フェイズとして、いろいろな開発方法論の中でそれぞれのやり方が紹介されることが多いが、本書は特定の手法を紹介するのではなく、各方法論やツールをふかん的に取り上げて、要求定義と呼ばれる工程のはらむ本質的な課題を浮き彫りにする。
 要求定義というのは難しい。ユーザーの要求を正確に導き出すのが困難なだけではなく、その要求が正当で、効果的であるかどうかも分からないからだ。それだけにさまざまなアプローチが提唱されてきたわけだ。
 本書はいう。「要求定義工学のような複雑な仕事のコンサルタントは、まず最良の概念や理念を理解することを心がけ、その後にツールや技術の数々に精通し、最後に実践としてこの分野で何を使い、何を使わないかについて自分自身の意見を形成するようにすべきであると思う」。ソフトウェア開発の上流工程にかかわる人にとっては、非常に示唆に富む良書である。
 
課題・仕様・設計──不幸なシステム開発を救うシンプルな法則
●酒匂寛=著
●インプレスネットビジネスカンパニー 2003年12月
●2200円+税 ISBN4-8443-1866-7
 ソフトウェア開発プロジェクトの失敗はよく伝えられるが、その原因として語られるのは、「仕様変更が相次いだ」「要求が明確でなかった」など、上流工程にまつわるもの。本書はその上流工程におけるプロジェクトの進め方を具体的に技術面から語ったものである。
 タイトルにもなっている課題・仕様・設計の各フェイズについて、それぞれの役割の違いと相互関係性を繰り返し(ウォーターフォールではなく、各フェイズの並行作業を前提としているので、各章で繰り返し)語っていく。この課題・仕様・設計の各フェイズの役割をきちんと認識すること──これが本書のテーマだ。
 すなわち課題とは「解くべき(ビジネス上の)課題を明らかにすること」、仕様とは「その解決のために必要なシステム(仕組み)の定義」、設計は「そのシステムを最適な形で実現する方法」であり、課題に対する仕様の妥当性、仕様に対する設計の正当性を検証(validation/verification)することを強調する。OCLやVDMといった形式仕様記述言語についても簡単に触れられている。
 大規模プロジェクトのメンバーに、それぞれの役割の分担と相互作用を再認識させてくれる1冊になるかもしれない。
 
業務システムのための上流工程入門──要件定義から分析・設計まで SE&プログラマ必読!
●渡辺幸三=著
●日本実業出版社 2003年10月
●2400円+税 ISBN4-534-03655-8
 システム開発のボトルネックは何か──本書では“上流工程”にあるという。その上流工程の3局面「要件定義」「基本設計」「現状分析」の中でも、「基本設計」に重点をおいて解説する。
 第1章、第2章は上流工程の位置付けとその概念についてまとめている。基本設計のためには、手書き図面が重要であること、しかしそこには文法が存在することなどを、ふんだんに図表やイラストを挿入し、分かりやすく紹介する。
 核になるのが第3章「基本設計入門」だ。基本設計は、「概略設計」「モデリングセッション」「とりまとめ」「レビュー」の4つ手順で進められるが、モデリングについて多くのページを割くだけでなく、第4章でも引き続き「モデリングパターンと用例」と題し、より具体的に手法を解説する。また、「モックアップ」を作ると、ユーザー・ニーズを的確にとらえることができ、開発時間の短縮にもつながると推奨している。
 上流工程に深く関わるプロジェクトマネージャやSE(あるいはシステム発注者)だけでなく、下流工程を支えるプログラマが仕事の流れや自分のポジションを掌握するためにも役立つ1冊だ。(ライター:生井俊)
 
ソフトウェア開発55の真実と10のウソ
●ロバート・L・グラス=著、山浦恒央=訳
●日経BP社 2004年4月
●2200円+税 ISBN4-8222-8190-6
 本書はソフトウェア開発シーンにおける、いわば「マーフィーの法則」であろうか。類書は数多く存在するが、「こういうものだ」という経験則で片付けることなく、真実の「概要」に対し、「反論」がある場合はその内容を引用し、最後に裏付けとなる「情報源」「参考文献」を記載するていねいな作りだ。
 “55の真実”と“10のウソ”は、「プロジェクト管理」「ライフサイクル」といったカテゴリに整理されている。「プロジェクトの失敗要因は見積もりミスだ」という内容もあれば、「ソフトウェア技術者はツール好き。購入し、評価もするが、開発で実際に使った人はほとんどいない」という指摘もある。また、ソフトウェア開発でよくいわれる「ソフトウェア製品の品質は管理できる」「ランダム・テストにより、テストを最適化できる」というような、ある種の“呪文”に対しウソであると突き放す。
 そして筆者は、SEに関して「システム開発プロジェクトの管理ピラミッドの最下層にありながら、最上層の管理者よりも絶大な力を持つ」と評している。本書を読むことで、SEが自分自身を見つめ直し、仕事のクオリティを高め、無駄を省く努力をすれば、会社への貢献だけでなくSE全体に対する評価が一層高まるだろう。(ライター:生井俊)
 
風雲!シスアドの現場──30のケーススタディ虎の巻
●CARROTプロジェクト=著、島本栄光=編
●秀和システム 2004年4月
●1480円+税 ISBN4-7980-0763-3
 シスアドとかけて、親子丼ととく。その「ココロ」を解説するのが本書だ。
 業務と情報システムが、親子丼の鶏と卵の関係のように絡み合っている。逃れられない関係の中で、極上の親子丼を仕上げるのがシスアドの仕事だという。親子丼では話が抽象的だが、具体的に30のケーススタディを紹介しながら、システムを導入する企業(担当者)と、シスアドとの相違をあぶり出していく。
 まず、システム導入までのいきさつを「事例」としてまとめ、その「問題点」を洗い出し、「解決法」を簡潔に述べている。そして、そこから学ぶべき点や、どう作業を進めるべきだったのかなど、アドバイスをまとめる。中には「自分1人で頑張っているのに周りが支援してくれない」という孤軍奮闘型のシスアドにエールを送るものもあり、教訓をこうまとめている。「喜びを 分け合えるから プロジェクト」。
 独り善がりにならず、企業の声が聞けてより適切なシステムを提案・構築できるシスアドになれるよう、本書を読みながら自らの反省点をあぶり出してみてはいかがだろうか。(ライター:生井俊)

■プロジェクトマネジメント
どうすればシステム発注で失敗を防げるか
●田中徹=著
●技術評論社 2004年8月
●1580円+税 4-7741-2072-3
 情報システム部門に配属になった人や、システムを発注する担当者のためのバイブル。発注前の予備知識から、社内体制の整備、開発会社の見極め、イニシアチブの取り方などの7章構成となっている。
 システム発注に必要なことは「いいシステム会社を見つけること」と、「発注する準備が整っていること」の2つ。システム発注の作業としては、まず、複数の会社から見積もりを取り、適正価格を知り、予算の修正などを行う。システムの規模に応じ、大手の開発会社とソフトウェアハウスを使い分けることも必要だ。
 システムコンサルタントによれば、発注者側の体制の不備がトラブルを引き起こしていることが少なくないという。それを最小限にするためには、発注担当窓口を1人にし、可能な限り権限を委譲してもらうこと。また、開発に関する知識は最低限で構わないが、業務知識の中でも特に、会社独自のデータの流れに精通している必要がある。
 発注の仕方、SEの見分け方、システムコンサルタントの使い方など、開発に沿った必要なことが網羅してあり、入門書として手元に置いておきたい1冊である。
(ライター・生井俊)
 
熊とワルツを──リスクを愉しむプロジェクト管理
●トム・デマルコ、ティモシー・リスター=著、伊豆原弓=訳
●日経BP社 2003年12月
●2200円+税 ISBN4-8222-8186-8
 著書「ピープルウエア」で知られるデマルコ&リスターの最新刊。ITプロジェクトにおけるリスク管理(おとなのリスク管理)を行うべき理由から、その基本的な考え方と手順について軽妙な語り口で述べていく。
 筆者は、「ソフトウエア開発がリスクをともなうのは、プロジェクトのあらゆる面が不透明だからだ」という。しかし、だからといってどのくらい不透明であるかを知らなくいいことにはならない。本書は、プロジェクトの進ちょく、コスト、利益などの不透明さを扱うやり方やリスク回避・低減の方法、そして具体的なプロセスを述べる。リスク管理の専門書では、おうおうにして込み入った確率計算の数式などが出てくるが、グラフや表、概念図にまとめられており、プロジェクトのリスクを他人に説明・報告する際にも役立つだろう。
 「やればできる式管理」で推進されているプロジェクトの参加者はもちろん、発注先のSIerのリスク管理能力を知りたいと考えている情報システム部門マネージャの方々にお奨めだ。
 
プロジェクトはなぜ失敗するのか──知っておきたいITプロジェクト成功の鍵
●伊藤健太郎=著
●日経BP社 2003年10月
●1800円+税 ISBN4-8222-8177-9
 ITプロジェクトの成功・失敗はどこで決まるのか。
 プロジェクトの失敗が分かると、責任の押し付け合いが始まる。そして、プロジェクトマネージャの交代などによって、失敗の経験が次のプロジェクトに生かされないことが多い。プロジェクトは初期段階で仕様の詳細まで固まっているケースが少なく、不確実性が高いものだ。どちらかといえば、失敗する確率が大きいにもかかわらず、こうした事後処理に終わることが多いようだ。
 本書では、「失敗を基準にプロジェクトを考える」視点を持つことで、プロジェクトに対する行動が変わると説いている。プロジェクトを成功に導くために、まず「プロジェクトを実施する目的」と「プロジェクトの成功の状態」を明確にすることが重要になる。その問いへの答えが明確でないと、意志決定で正しい解が導き出せないのだという。
 失敗した前例を分析し、問題点を浮かび上がらせる内容になっており、ここで学ぶべきことは実に多い。例えば、文書化がされていなかったり、悪い情報を隠ぺいしたりといったことでの失敗──。それは、任務遂行に適切な判断材料となる文書があればより適切な判断が下されたかもしれず、情報の隠ぺいが行われずリスクの検討がされていれば、適切な予算処置などが行うことが可能だったかもしれない。
 いま進行しているプロジェクトも、これからスタートするプロジェクトも、プロジェクトを「失敗するもの」として、いま一度この書を参考に見直してみてはいかがだろうか。(ライター:生井俊)
 
拝見!プロジェクトマネージャの仕事──ITプロジェクトの成否の鍵を握る人々
●金子則彦ほか=著、金子則彦=監修
●技術評論社 2004年1月
●1880円+税 ISBN4-7741-1903-2
 ITプロジェクトにおける失敗やミス事例を、ストーリー仕立てで具体的に示し、初級者にも「プロジェクトマネジメントとは何か?」が疑似体験的に理解できる構成になっている。登場人物の性格に由来する失敗ストーリーなどもあり、一般的なPM教科書を補完する内容になっている。対象読者はIT業界のSI会社のプロジェクトマネージャ(予備軍含む)だが、カウンターパートであるユーザー企業側の情報マネージャ、プロジェクトメンバーが読んでも役立つだろう。

■ナレッジマネジメント
 
暗黙知の次元──言語から非言語へ
●マイケル・ポラニー=著 佐藤敬三=訳 伊東俊太郎=序
●紀伊國屋書店 1980年8月
●1456円+税 ISBN4-314-00301-4
 ナレッジマネジメント用語として有名になった「暗黙知」の概念を最初に示した「Tacit Dimension」の邦訳。ポラニーのいう暗黙知は、言語化されないものであり、いわゆる「直感的な認識」「勘やコツ」「体験(体で覚える)」といった領域のことだ。ポラニーは、「我々は語ることができるより多くのことを知ることができる」(p.15)と述べ、客観的知に重きを置き、理解という行為から主観や個人を排除するヨーロッパ的価値観(科学や教育)を批判する立場を取る。ナレッジとは何かを真剣に考えるための土台となる1冊である。
 
これから知識社会で何が起こるのか──いま、学ぶべき「次なる常識」
●田坂広志=著
●東洋経済新報社 2003年7月
●1600円+税 ISBN4-492-50112-6
 トフラーの「第三の波」以降であろうか、知識社会の到来が叫ばれて久しい。そこでは「知識」「情報」「データ」が重要だとされてきた。
 筆者はまず、知識社会では知識が価値を失っていくという逆説を述べる。これはエンジニアであれば、身に付けたスキルが必ずしも一生モノではないことでよく分かるであろう。知識社会で本当に重要なのは「職業的な智恵」であり、「言葉で語れない智恵」だという。
 これらを身に付けるには「職場」における「経験」が必要であり、企業は人材育成ではなく「成長支援」へとパラダイムを切り替える必要性を説く。
 そして、知識や智恵の創造は「創発」的に行われるとし、知識社会における新規事業開発(起業)も「創発」的だと指摘する。そしてそこでは企業家個人の能力以上に「商品生態系」こそがキーだと論じる。
 1990年代を通じて、さまざまに論じられた“ナレッジマネジメント”“学習する組織”“eビジネス”に関する話題が一貫した構成でコンパクトにまとまっている。頭の整理に好著。

■経営戦略、ビジネス
誰も語らなかったIT 9つの秘密──なぜ、会社のしくみは変わらないのか?
●山本修一郎、鈴木貴博=著 浜口友一=監修
●ダイヤモンド社 2004年8月
●1500円+税 4-478-37466-X
 本書の冒頭、あるメーカーの経営会議を再現する。
──「次は在庫管理システムの統合の件です。現行の販売系受発注システムのアラゴン3と製造管理系のNNSCのDBを一元化して在庫管理の精度をあげるのが目的です」と発言がある。その瞬間、会議室の温度がぎゅっと下がったような気がする──。
 ITについて議論できない旧世代の経営者が多い。アメリカに比べ、経営者の情報リテラシーが低いため、ITを導入してもその効果が低い。そのITからブラックボックスをなくし、秘密のないものとして理解してもらうことが本書の目的だ。
 先ほどの会議の場面で必要なことは、目的や狙い、効果をきちんと聞き出すこと。そうすれば、12億円の見積額に対し、なんとなく「8億円でできないか」といった的を射ない質問を投げかけることがなくなる。また、システム開発の6割が人件費だと本書は指摘するが、そのコストを削減すると、システムの試験期間を短縮するなど、不完全な納品となることが多いと警鐘を鳴らす。
 情報システム構築に必要なことの把握や、予算を削る意味について、経営者のみならずSE/情報マネージャも本書から学ぶことは多いはず。ぜひ一読を。
(ライター・生井俊)
オンデマンド・ロジスティクス──経営成果を最大化する統合的物流管理
●有安健二=編著、水谷浩二=監修
●ダイヤモンド社 2004年6月
●2200円+税 ISBN4-478-37472-4
 顧客の要望にタイムリーに対応する一連の物流業務の取り組み──オンデマンド・ロジスティクスを提示し、グローバルな調達・生産・配送流通の事例を通じて、さまざまな概念の定義、影響力、構造、最適化などについて解説する。
 第2章では「デマンドマネジメントとサプライマネジメント」について取り上げ、それぞれ計画系システムと実行系システムと分けるのではなく、一体のものとしてとらえるべきだと述べる。
 第4章では、RFIDなどのツールとインターネットを活用すれば、在庫の可視性が高まり、また在庫量と在庫(仕掛)期間をグラフ化した流動数図表を利用することで、サプライチェーンでの在庫動態がふかんできるため、在庫量の最適化につながると説く。また、キャリア選択問題、配車計画問題などを取り上げている。
 各章はいくつかの節に分かれ、2ページから10ページ程度で構成されるため、テンポ良く読み進めることができる。図表なども盛り込み、物流全体を見渡せる分かりやすい内容だ。部門の担当者だけでなく情報マネージャにも読んで欲しい。
(ライター・生井俊)
IT活用勝ち残りの法則──IT投資を活かすマネジメント
●淀川高喜=著
●野村総合研究所 2004年6月
●1890円+税 ISBN4-88990-113-2
 本書は「“事業サイクル”に基づいたIT活用目的の設定方法」と「“ITマネジメント”の実践方法」という、2つの軸を持つ。事業サイクルには「起業−成長−成熟−再編−分化−模索」があり、その段階によって取るべきIT政策が変化していく。また、ITマネジメントは、「変革」「アセット」「リスク」の3分野について考察する。
 企業のIT活用がうまくいかない背景に、「ベンダからの提案を真に受ける」「システム開発から運用までアウトソーサーに丸投げする」「撤退のシナリオが描けない」といった問題点があると指摘する一方で、ユーザー発のシステムにも「部門だけは便利になるが、事業全体に対する貢献は少ない」「現行業務の改善はできるが、業務そのものの抜本的な改革は難しい」などと手厳しい。
 それなら、どういうシステムやマネジメントが必要なのか。1つの解になり得るのが、経営者の在り方だという。情報システム部門やアウトソーサー任せになりつつある今日的状況に、ITマネジメントの重要性を説く本書は、経営者がIT戦略の理解を深めるために役立つはずだ。(ライター・生井俊)
 
BCG戦略コンセプト──競争優位の原理
●水越豊=著
●ダイヤモンド社 2003年11月
●2400円+税 ISBN4-478-37444-9
 タイトルにあるBCGとは、戦略系ファームとして知られるボストン コンサルティング グループのこと。著者の水越豊氏は同社のヴァイスプレジデントだ。
 経営者向けに書かれた本書では、“me too”型経営ではなく、BCGが推進してきた“only me”戦略を前面に押し出す。競争を優位に進めるため、株主価値、顧客価値、バリューチェーン、事業構造、コスト、時間の6つの視点が重要だと説き、それぞれに即した事例を紹介している。
 「株主価値」(第2章)では、日本企業が1980年代までは売り上げ至上型、1990年代初頭から半ばまでは利益追求型、1990年代後半以降は株価型へ、評価方法が変わってきたと解説。支持される評価方法が時代とともに変わった、という点だけでなく、これまで売り上げや利益という企業ごとに持つ「内のモノサシ」で評価してきたものが、株価型に変わってきたことで自社ではコントロールできない株価という「外のモノサシ」で評価されるようになったことに着目している。といっても、「外のモノサシ」だけに気をとられてはダメで、「内のモノサシ」とどう結び付けるかが大切で、そのためにTBR(Total Business Return)などの指標を用いながら、バリュー・マネジメントの手法を取り入れていくべきだという。
 そのほか、戦略的セグメンテーション(第3章)、デコンストラクション(第4章)、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM、第5章)、エクスペリアンス・カーブ(第6章)など、IT時代のように、動きの早い経営に欠かせない戦略や要素についても詳しい。(ライター:生井俊)
 
コア・コンピタンス経営──未来への競争戦略(文庫版)
●ゲイリー・ハメル、C・K・プラハラード=著、一条 和生=訳
●日本経済新聞社 2001年1月
●800円+税 ISBN4-532-19031-2
 1990年代に登場した経営概念は数多いが、その中で最も有名なものの1つ「コア・コンピタンス」の原典ともいえる本。しかし原題は「Competing for the Future」で、本書は“長期レベルの企業変革”をテーマにしている。著者はいう。「未来のための競争とは、生まれつつある市場機会を自ら創造し、それを制覇する競争、すなわち新しく生まれる戦場の支配権をめぐる競争である」。経営資源に恵まれた大企業が、野心的な後発企業に敗れることがたびたび起こるのはなぜか?──それはビジネスには「未来をイメージする競争」「構想を有利に展開する競争」「マーケットシェアを獲得する競争」の3つのフェイズがあるのに、多くの企業では市場が見えてきてから行われる「シェアを獲得する競争」ばかりに注目しているからだ。本書でリエンジニアリングは後追い戦略であるとして厳しい批判の対象になっている。そこで未来を展望すること、未来に必要となる企業力を構築することの重要性を強調する。経営ビジョンとアクションプランの間を埋めていく際に、有益な示唆を与えてくれる1冊だ。
 
リエンジニアリング革命──企業を根本から変える業務革新 (文庫版)
●M.ハマー、J.チャンピー=著、野中郁次郎=監訳
●日本経済新聞社 2002年11月
●695円+税 ISBN4-532-19154-8
 1990年代を席巻した経営キーワード「リエンジニアリング」の原典。ここで紹介した文庫版は2002年発行だが、オリジナル英語版の発行は1993年5月(日本語版は2003年11月)──10年前になる。中に挙げられている実例も、今日的な視点で見れば「サプライチェーン・マネジメント」「コンカレント・エンジニアリング」「エンパワーメント」などでソリューションそのものには目新しさはないが、改革への取り組み方などの面は参考になる。本書は言う。「繰り返して言うと、情報技術の真の力は古いプロセスを改善することにあるのではなく、古いルールを壊し、新しい仕事のやり方を創造すること、つまりリエンジニアリングすることにある」。
 
クリック&モルタル
●デビッド・S・ポトラック、テリー・ピアース=著 坂和敏=訳 ビジネス・アーキテクツ=監訳
●翔泳社 2000年11月
●2000円+税 ISBN4-88135-933-9
 ネットバブル、ドットコムブームの最中、オンライン証券会社として勇名を馳せたチャールズ・シュワブのCEOが著したビジネス書。クリック&モルタルとは、実店舗とオンラインの相乗効果を狙ったビジネス戦略のことで、チャールズ・シュワブはその代表例とされたので、いかにも「クリック&モルタル」というビジネスモデルの解説書のようにも思われる。
 しかし本書は経営者やビジネスリーダー向けに、ビジネスへの情熱や企業文化の大切さを繰り返し説く。その中で「技術を理解し、それを作る人間を理解する」という章が設けられているが、ここでも技術そのものの解説ではなく、技術者とどう付き合い、彼らの“情熱”を引き出すことの重要性を述べている。
 そして最後に言う。「インターネットは物の見え方を変え、スピードを変える。だが、ビジネスの原則、すなわち行動の裏にある核心は、けっして変わることはない。果てしなく成長し続ける技術の世界において、成功の決定要因はますます人間におかれている」

 
最強組織の法則──新時代のチームワークとは何か
●ピーター・M・センゲ=著、守部 信之ほか=訳
●徳間書店 1995年6月
●1900円+税 ISBN4-19-860309-X
 注文量を増やせば増やすほど納品が遅れるのはなぜか──。企業をシステム思考の面から考察して、組織というシステムの特徴とその動作メカニズムを明らかにし、その従来型企業組織を乗り越える策として「ラーニング・オーガニゼーション」を提言する本。「リエンジニアリング」「コア・コンピタンス経営」と共に、1990年代の経営学を席巻したこのキーワードを世界に広めた原典である。といっても、日本では「ラーニング・オーガニゼーション」は「ナレッジマネジメント」に押されて、ブームといえるほどには盛り上がらなかった。本書も「ナレッジマネジメント」の関連書として紹介されることが多いが、やはりかなり視点が異なる。情報マネージャなら押さえておきたい1冊だ。
 
イノベーションのジレンマ──技術革新が巨大企業を滅ぼすとき(増補改訂版)
●クレイトン・クリステンセン=著、玉田 俊平太=監修、伊豆原 弓=訳
●翔泳社 2001年7月
●2000円+税 ISBN4-7981-0023-4
 企業の寿命は30年などといわれることがあるが、本書は優良企業がその“優良さ”ゆえに市場における優位性を失うというジレンマについて述べ、話題となったベストセラーだ。
 本書は顧客ニーズに適合して持続的イノベーションを果たしている優良企業が、破壊的イノベーションに直面した際に適切に対応できないことを示唆する。事例研究としてHDD業界を取り上げ、メインフレーム向けの14インチドライブメーカーがミニコンの需要に、ミニコン用の8インチドライブがデスクトップPCの需要に応えられなかったことをあげ、これらは「顧客の声を聞いた」ためだったと分析する。HDDが映像や音楽の記録・再生に使われるようになっている現在、感慨深いものがある。
 クリステンセンはこうした現象を優良企業と既存顧客の間で作られる「バリューネットワーク」という概念で説明する。そして破壊的イノベーションが作り出す新市場においては、バリューネットワークにしばられないベンチャー企業などの新規参入企業が有利であることを解説する。優良企業(大企業)が新規事業に取り組む場合は、それが持続的か破壊的かを見極め、必要に応じて主力事業から独立した部門で行うようにすべきだという(この結論はP.F.ドラッカーに通じる)。
 過去・現在・未来すべての優良企業に属する人々に推薦できる名著である。
 
デザイン・ルール──モジュール化パワー
●カーリス・Y・ボールドウィン、キム・B・クラーク=著、安藤晴彦=訳
●東洋経済新報社 2004年4月
●5200円+税 ISBN4-492-52145-3
 IT業界のイノベーション、ダイナミズムはどこから来るのか? その推進力としての「モジュール化」についてまとめられた話題の1冊。
 本書では、コンピュータという工業製品がモジュール化されたことにより、コンピュータ産業全体がモジュール化したことを述べ、独立して動くモジュール(ベンチャー企業)の集合体となったコンピュータ産業は極めてダイナミックな実験、参入、退出が繰り返されることから、イノベーティブな産業進化が行われるようになったとする。そこにはモジュール企業同士の戦いだけではなく、モジュールの配置を決めるアーキテクト企業(そしてアーキテクチャ)同士の熾烈な戦いがあった。すなわちモジュール化は、工業製品であれ、企業組織であれ、産業全体であれ、ダイナミックな進化を誘発するというのだ。
 「システム/360」や「UNIX」の開発の歴史に細かく踏み入りながら、“モジュール化”やその前提となる“デザイン・ルール”について、その特性や条件を解説する。経済学・経営学分野の研究書だが、コンピュータ工学・ソフトウェア工学の用語で書かれているので、エンジニアには読みやすいかもしれない。
 “モジュール化”を語る上では、必読の書だ。
■サービス、サービス業
 
真実の瞬間──SASのサービス戦略はなぜ成功したか
●ヤン・カールソン=著 堤猶二=訳
●ダイヤモンド社 1990年3月
●1262円+税 ISBN4-478-33024-7
 経営戦略論の名著。著者のヤン・カールソン氏はスカンジナビア航空(SAS)グループ社長兼CEO(出版当時)で、オイルショックのために業績不振に陥っていた同社を建て直した人物である。
 表題の「真実の瞬間」とは顧客と従業員が接点を持つ15秒間(SASの平均接客時間)のこと(この概念は経営コンサルタントのリチャード・ノーマン氏が提唱)。この15秒の接客態度が会社全体の印象を決めてしまうことから、筆者は企業の意思決定機構の逆転を意図する。すなわち、この短い時間に顧客に最適なサービスを提供するために、上位の役職者ではなく現場の判断で即座に意思決定を行えるように組織と社風を改革していくのである。組織のエンパワーメント、顧客志向、ブランド・マネジメント、CRM、ナレッジマネジメントなど、今日的なビジネスキーワードに直結する考え方が満載されている。
 著者は本書の冒頭でこのように述べる。「情報をもたない者は責任を負うことができないが、情報を与えられれば責任を負わざるを得ない」──企業風土に踏み込んで業務改革にまい進する情報マネージャに送る1冊。

■製造、製造業
製造業CRM革命
●服部隆幸、藤本直樹=著
●日刊工業新聞社 2004年6月
●1800円+税 4-526-05297-3
 営業業務がCRM-SFAによって改善できると思い込んでいた第1幕の誤りに気付き、いまこそCRM第2幕を開幕しなくてはならない──と本書は始まる。
 「営業内部に閉じたシステム」「一握りの顧客のリレーションシップ」「顧客視点の欠如」などの問題点や課題に対し、第2幕ではワン・トゥ・ワンの必要性を説く。具体的には、「自社の顧客をきちんと知る」「強力な販売組織を作る」「製品価値から関係価値への転換を図る」「流通の主導権を回復する」の4点を実現する仕組み作りとなる。
 もの作りが本業の製造業でも、技術が飽和し、情報化が進んだ現在、「顧客接点のダイレクト化」「顧客のマーケティング」「情報の統合化」の3つのポイントをおさえた、顧客志向のビジネスモデルへの変革が必要だと説く。また、売り上げを上げるための仕組みやその実践、CRMシステムの動向、ケーススタディなどについてバランスよく解説している。
 CRMシステムを導入したが効果が見えてこない製造業の情シス担当者、また、CRMとの連携を模索しているコールセンター部門担当者にとって、本書で解説する統合型CRMのインパクトは大きいかもしれない。一読をお勧めする。
(ライター・生井俊)
 
能力構築競争──日本の自動車産業はなぜ強いのか
●藤本隆宏=著
●中央公論新社(中公新書) 2003年6月
●960円+税 ISBN4-12-101700-5
 最近薄日が差してきたとはいえ、日本経済に対する見方はずっと悲観的なままだ。この国の主力産業である製造業でも空洞化、中国脅威論が叫ばれている。しかし、本書の著者は「筆者自身の測定データや観察事実をみる限り、1990年代半ば以降、日本になお多く残る一流の生産・開発現場では、大幅な生産性向上や開発期間のさらなる短縮化がハイペースで進んでいた」と述べ、日本の自動車産業が持つ国際競争力について解説していく。著者はその源泉を「もの造りの組織能力」だとして、それを獲得していく過程で長期的な「能力構築競争」が行われたと分析する。能力開発競争とは企業が持つ「組織能力」を品質、コスト、納期、フレキシビリティなどの面で高めていく、長期的な競争のことだ。
 本書で特徴的なのは、“製品”を「製品設計情報が素材すなわち媒体のなかに埋め込まれたもの」ととらえていることだ。従って、企業そのものが情報を媒体に効率的に埋め込む「一種の情報システム」というモデルで考察されている。また第10章に「ITと組織能力」があるが、そこでは「ITを上手に使いこなす組織能力」が企業の競争力につながった例が述べられている。
 企業が競争力を獲得する手法の1つとしての(日本企業が得意な)能力獲得競争とは何か、そしてそこで“情報”がどのような役割を果たしているか──情報マネージャにとっても示唆に富む一書になっている。
 
トヨタ生産方式──脱規模の経営をめざして
●大野耐一=著
●ダイヤモンド社 1978年5月
●1400円+税 ISBN4-478-46001-9
 日本郵政公社が業務改善にあたってトヨタに指導を求めたり、経済誌で特集が組まれるなど、このところトヨタ生産方式が脚光を浴びている。数年前のITバブルの最中、「これからはSCMだ」「コンカレント・エンジニアリングだ」と騒がれたが、ここへ来て“原点回帰”しているのだろうか。
 本書は、いうまでもなくトヨタ・システムの生みの親自身による古典である。「ジャスト・イン・タイム」「かんばん」「自働化」「平準化」「多様化」など、トヨタ生産方式を表すキーワードは、後続の書籍でもさらに詳細に語られているが、その真意・真髄を知るには本書が最適だろう。そこには単なるノウハウではなく、現場の悪戦苦闘の中で鍛えられた骨太の“思想”がある。
 また「五回のなぜ」という一種の思考法にも触れられているが、著者の、そしてトヨタという会社の、現場における“問題”に対するアプローチは、問題解決の教科書としても読むことができると思う。いままた読み返してみてほしい。
■ネットビジネス
 
「顧客の声」は本当にビジネスに役立つのか?
──小さな会社でも大企業を動かせるツール=ネット・コミュニティ
●藤田憲一=編、ジェイ・マーチ=著
●中央経済社 2004年3月
●1800円+税 ISBN4-502-37250-1
 30代の主婦層に人気がある地域情報交換サイト「とくっち.com」を運営する著者が、ネット・コミュニティ論を説く。これまでコミュニティサイト運営者やSEらが経験や勘で構築、運営してきた部分を平易な文章で表現しており、具体例が豊富に盛り込まれている。
 ECサイトの売上最大化のためには、ユーザーの訪問回数を増やす必要がある。そのために、モールへ出店したり、バナーやメールによる広告、アフィリエイトなどの方法もあるが、アクイジション(新規顧客獲得)のコストが掛かるだけでなく、定着化させるために特売やポイント加算プログラムなどを行えば、値引き競争に陥る可能性がある。それに対してコミュニティを導入すると、価格的なインセンティブなしに訪問回数の増加や、サイトのブランディングに効果的だという(第3章)。
 では、コミュニティサイトを構築するにはどうすればよいのだろう。そこには「ミッションの決定」「ビジョン、ポジションの策定」「運営方針の決定」などのプロセスがある。その中でも、コミュニティでの体験がユーザーのロイヤリティを引き出し、価値を創造する書き込みが行われる雰囲気や仕組み作りにつながる「ユーザー環境デザイン」が大事になる。そこには、導線設計だけでなく、ユーザー体験の「質」を高める努力が必要だと説明している(第4章)。
 全体的には、ネットやITに詳しくない経営者などでも読めるように書かれているが、コミュニティに詳しい方は、第3章や第4章あたりから読み進めてもいいだろう。(ライター:生井俊)

 

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