運命の出会い……そして覚醒へ(第2話)目指せ!シスアドの達人(2)(1/4 ページ)

» 2005年08月03日 12時00分 公開
[山中吉明(シスアド達人倶楽部),@IT]

前回までのあらすじ

前回、仙台支社から本社に転勤してきたばかりで張り切る初級シスアドの坂口啓二は、同僚で経費精算を担当する松下のためを思って経費精算ツールを作った。しかし、説明不足などの行き違いが原因となり、松下真樹との関係を悪化させてしまう。このままではツールが使われなくなるばかりか、新任早々同僚との溝を深めたまま仕事をしていかなければならない。果たして、坂口はどのような方法で解決を図るのか。



上級シスアドとの運命の出会い

 坂口と松下が一戦交えた日の2日後の夜、坂口は椎名純平に誘われて新宿駅南口に程近い、甲州街道沿いの雑居ビルの地下にある居酒屋に入った。和風の落ち着いたたたずまいで、6人くらい入れるシンプルなボックス席が並び、どのテーブルにも一輪挿しの花が置いてある。

坂口 「なかなかしゃれた店ですね、ここ」

椎名 「テーブルごとに仕切られてるから、ゆっくり話がしやすいんだ」

 椎名は、席に案内してくれた店員に手際よく生ビールとつまみを頼んだ。しばらく取引先の引き継ぎの話をした後、1杯目の生ビールを飲み干した椎名が早速本題に入った。

椎名 「松下嬢とは、これからどうするつもりなんだ?」

坂口 「松下さんはダメです。自分を変えようとしませんから」

椎名 「それなら、これからも毎日おまえが俺の申請書を総務部へ届けてくれるってことなのか?」

坂口 「本当は俺も悩んでるんです。一度きちんと話をしたいんですが、なかなかきっかけがつかめなくて……」

 坂口は、胸に詰まっていた不満をひとしきり椎名にこぼした。使えば明らかに便利なツールを作ったのに、思うように周囲の協力を得られず、人間関係までぎくしゃくさせてしまったことなどだ。

椎名 「そもそも、おまえは何がやりたかったんだ?」

 坂口はしばらく思案して口を開いた。

坂口 「……経費処理をすっきり簡単にしたかったんです」

椎名 「ふぅん」

坂口 「それに、松下さんの仕事を楽にできると思ったし」

椎名 「それは、取って付けたようなおまけの理由だな。松下嬢は、おまえのそういう押し付けがましいいい方が気に入らないんだろう」

 坂口が言葉に詰まっていると、黒いダブルのスーツを着込み、髪はオールバック、切れ長の鋭い眼をした男性が椎名の肩をたたいた。

豊若 「遅くなってすまない」

椎名 「大丈夫です。まだ1杯目ですから。坂口、こちらは豊若さんだ。豊若さん、こいつは仙台支店から転勤してきた坂口です」

豊若 「初めまして、豊若です」

坂口 「どうも、初めまして。坂口です」

 坂口は名刺を取り出すと、豊若に差し出した。豊若も名刺を取り出し、お互いのものを交換した。

椎名 「豊若さんは、IT戦略に強い経営コンサルタントだ。いまのおまえには豊若さんの話が一番染みるはずだから、相談してみたらどうだ?」

坂口 「お気遣いありがとうございます!それにしても、椎名さんは顔が広いですね。コンサルタントの方と知り合いなんて」

 椎名と豊若は、目と目を合わせてニヤっとした。

椎名 「俺と豊若さんは、元同僚なんだ。ある意味、おまえともそうだ」

坂口 「え? ……ってことは?」

豊若 「私はサンドラフトサポートを辞めて独立したんだ。もう3年前だ。仲間とコンサルタント会社を立ち上げて、ようやく軌道に乗ってきたところだ。椎名とは昔からの付き合いで、たまに遊んでもらってる」

坂口 「そうだったんですか……。さっき名刺をいただいたとき、見覚えのあるお名前だなって思ったんです。多分、どこかで名前を見る機会があったんだと思います。よく覚えてないんですけど……」

豊若 「ところで、よかったら聞かせてもらえないか? 何か困ってるそうじゃないか」

 坂口は、名刺に刷り込まれていた「上級システムアドミニストレータ」の文字に漠然とした期待を感じつつ、「申請書簡易作成ツール」の話を事細かに豊若に話した。

 豊若は坂口をじっと見つめ、相づちを打ちながら真剣に耳を傾けてくれた。坂口はそれだけで何か心につっかえていたものが取れていくような気がした。

 豊若は営業部のメンバーや松下のこともよく知っているようだった。話を聞き終わった豊若は、冷酒をひと口含むと静かに語り始めた。

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