激突する女と静かなプロジェクトの幕開け(第8話)目指せ!シスアドの達人(8)(1/4 ページ)

» 2006年01月21日 12時00分 公開
[那須結城(シスアド達人倶楽部),@IT]

前回までのあらすじ

前回、PDA導入に関するアンケートやインタビューをまとめ、企画書の作成を始めた坂口啓二。今回は、企画書が社長承認を経て、正式プロジェクトとして発足する。しかし、プロジェクトは早くも雲行きが怪しくなる。また、坂口をお見舞いに来た谷田亜紀子と深田祐子がバッティングし……。



静かに激突する2人の女

 翌朝の11時ごろ、坂口のマンションに深田が現れた。深田は坂口が風邪で寝込んで食事も満足に食べていないだろうと思い、腕によりを掛けた手作り弁当を、朝から作って出てきたのだ。

深田 「坂口さん、おはようございま〜す! お加減はいかがですか〜?」

坂口 「いやぁ、おかげさまでだいぶ良くなったよ」

深田 「お見舞いにお弁当を作って持ってきたんですが、食べていただけますか?」

坂口 「あ、ありがとう。でも……」

深田 「え? どうかしたんですか? 何か都合でも悪いんですか?」

 しばらく、重苦しい沈黙の時間が流れた。そんな沈黙を破るように、インターフォンが鳴り響いた。

谷田 「坂口さん、おはようございます!」

坂口 「お、おはよう……」

谷田 「遅くなってすいません。弁当を作るのに時間がかかってしまって……」

坂口 「そ、そうか。と、とにかく、上がってきて!」

 とマンションの入り口にあるオートロックのドアを開ける操作をする。しばらくすると谷田が5階の坂口の部屋に来て、玄関口にいた深田と顔を合わした。

谷田 「あら、深田さんじゃない? ここで何をしているの?」

 そういうと、深田とにらみ合い、一瞬、火花が散ったような緊張した空気が流れた。

深田 「坂口さんのお見舞いに弁当を作ってきたんですが……」

坂口 「と、とにかくさ、ふ…2人とも上がってよ! せっかく2人ともお弁当を作ってきてくれたんだからさ。さ、さ、3人で一緒にお弁当を食べようよ! ね! ね!」

谷田 「そうですね。じゃあ、私はお茶でも入れてきますね」

深田 「いえいえ、私が入れますよ。タ・ニ・ダ・センパイ!」

 と深田は弁当の入った手提げ袋を床に置き、狭いキッチンに行ってお茶を入れ始めた。

 坂口は、谷口に小声で「ところで、この間の試験どうだった?」と聞いた。

谷田 「やはり、駄目でしたぁ」

坂口 「それは残念だったね。来年、もうひと頑張りだな!」

谷田 「はい、来年受験するときは、坂口さん教えてくださいね!」

 そこに、深田がお茶を入れて戻ってきて、

深田 「あらぁ〜、そこの2人は、何をこそこそ話していたんですか〜?」

坂口 「いやぁ、べ、別に」

深田 「隠すなんて怪しいですね……」

谷田 「えっと、今度、シスアド試験の勉強を教えてくださいってお願いしていたんですよ」

深田 「そんなのずる〜〜い! 松下さんがこの間、合格したっていってたから、私も来年挑戦しようと思ってたのにぃ。私も仲間に入れてくださいよ!」

坂口 「じゃ、しばらくしたら、みんなで勉強会でもしようか?」

深田 「賛成〜!」

 そのとき、谷田はなぜか、いままで気付かなかったライバル心を感じ、「こんな新人の若い子には負けないぞ!」と心の中で叫んだ。深田も「私だって真剣なんだから!」と熱い視線を坂口に向けていた。

谷田 「それはそうと、坂口さんは、上級シスアドを受験されたんですよね。合格発表は来月ですね」

坂口 「そうだけど……」

深田 「すっごぉい!! 上級ですか? きっと合格ですね!」

 そんな会話をしながら、坂口と谷田、深田の3人は弁当を食べ始めた。谷田と深田は、自分の作った弁当を坂口がおいしく食べてくれているかを気にしながら、坂口の方をチラチラ見て観察していた。一方の坂口は、2人の気持ちは理解できていなかったが、2日ぶりにまともな食事にありつき、大満足だった。

 弁当を完食した坂口は、谷田と深田に向き合って、「ごちそうさま! 2人の弁当、ほんとにおいしかったよ。ありがとう!」と満面の笑みで礼をいったのだった。食べ終えた深田と谷田は、後ろ髪を引かれつつも、坂口の体調を気遣い、その日は食事が終わると早めに切り上げた。2人の手作り弁当のおかげで坂口は元気になり、翌日の日曜日には企画書作りに精を出すことができたのだった。

第4回プロジェクト会議

 11月22日(火)には、第4回プロジェクト会議が実施された。今回は営業部員の要望調査結果やベンチマーク結果の報告。PDAの先行配布とプロトタイピング案や、プロジェクト企画書案のブラッシュアップ、トップ承認に向けての進め方など、議題は豊富だった。

 まず、営業部員の要望調査結果を松下が簡単に説明した。次に、福山がPDAの先行配布とプロトタイピング案について説明を行った。

 福山は、PDAの比較結果の報告、推奨PDAの紹介、概算見積もりの提出を行った。また、できるだけ新たな作り込みを避けることで、約1カ月納期という短時間でプロトタイプが作成可能なこと、そのほか、PDA本体は新規の手配が必要だが1カ月以内に入手できることや、サーバはプロトタイプだけであれば、現有サーバの流用で対応できることなども説明した。

 さらに今回は、営業部員のニーズ把握がメインなので、営業1課と営業2課部員への配布を考え、PDAの購入台数を10台と試算したことも説明した。

 これに対し、深田が「先日、坂口さんに実際使っているところを見せてもらいながら、活用方法を説明してもらいました。そのときに感じたのですが、やはり、実際自分でも使ってみないと、正しい感触がつかめないと思います」と発言した。

 配送センターの岸谷や藤木からも、「営業支援システムがメインだとしても、今後の展開のために、自分たちにも1台ずつ配布を検討してほしい」との要望も出た。また、田所営業部長や社長分、予備も用意しておいた方が良いだろうという意見が出た。そこで、PDAは20台分の予算で見積もりを作成することになった。

 これらの意見に対し、「予算化していない費用なので捻出が少し大変そうではあるが、田所部長と相談して、何とか捻出を考える」と坂口が請け負うことになった。

 次に、坂口らが中心になって調査したインターネット上のベンチマーク結果を紹介した。各社が先行しており、そのまま採用したいという誘惑にも駆られるが、サンドラフトサポートの現状をよく認識したうえで参考にする必要があると説明した。また、インタビューやアンケート結果と併せて、これらのベンチマークの結果から、情報提供の対象とするコンテンツの選定などにも参考にする情報が多く、プロジェクト企画書に盛り込んだことを説明した。

 今日のプロジェクト会議の内容を踏まえ、プロジェクト企画書案をブラッシュアップしていくこと、システム開発は当初の予定どおり、2006年度運用開始に向けて、システム開発をすることで合意した。

 そのほか、システム開発に先立ち、PDA先行配布や、プロトタイピングを実施する段階的な開発をする案を引き続き検討することになった。

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