プロジェクトマネジメント技術を補う“ノウハウ”とは?有能プロジェクトマネージャ勉強会

プロジェクトマネージャが足りない──。PMBOKなどのプロジェクトマネジメント技術は広まってきたが、逆にそれだけではプロジェクトを切り盛りしていくことができないことが指摘されるようになってきた。そのすき間を埋める“PMノウハウ”とは?

» 2005年09月28日 12時00分 公開
[大上建(株式会社プライド), 野間彰(株式会社アクト・コンサルティング),@IT]

深刻なプロジェクトマネージャ不足

 IT化人材の不足を嘆く声はユーザー企業でもよく聞かれるが、当のIT業界でも有能なプロジェクトマネージャが少ないことがクリティカルな問題になっている。苦労して受注した数十のプロジェクトが稼ぐ利益を、たった1つの失敗プロジェクトの大赤字が吹き飛ばすことは珍しくない。また、失敗プロジェクトはITベンダの収益問題だけでなく、ユーザー企業にとっても収益機会喪失や顧客満足低下などを引き起こす重大な問題である。

 従来、エンジニアリング業界の占有物と思われていた“プロジェクトマネジメント(PM)”についても、ここ数年IT業界でもPMBOKなどのPM技術やプロセスの導入を行い、PM力強化に努めている。

PM技術教育では、何かが足りない!

 金融系の大手インテグレータA社のある事業部では、3年にわたって社員の2割以上に当たる150名強に対してPM教育を実施し、資格取得を推奨してきた。中期計画の3年が経過し評価を行ったところ、教育の実施者数、資格取得者数は目標をクリアしたものの、当初事業部トップが期待した、失敗プロジェクトの発生は減少したとはいい難い状況にある。どんな難解なプロジェクトでも顧客とともに目標を作り上げ、成功させるような有能PMは、依然一握りのままである。

 PM技術やプロセスの導入によって一般PMの底上げは図られるが、技術だけでは一般PMが有能PMにはなり得ない。このことは誰にでも直感的には理解できるが、では技術以外に何が必要であるかを問われるとそれも分からないため、底上げを継続することで有能PMが“自然発生”してくることを期待する施策に落ち着かざるを得ないのである。A社では、決め手のなさを感じながらもPM教育は継続することにしている。

OJT体制も“自然発生”期待に

 一方、有能PM育成のために、エリートを選抜した育成を行うこともある。スーパーマン待望論である。有能者が育つには、有能者の“背中を見て育つ”のではないかと考え、これを意図した体制を組むようなことが行われる。

 独立系インテグレータのB社は、PM技術やプロセスの導入による一般PMの底上げを行ってきたが、その効果に疑問を抱いていた。そこでエリート育成のための体制を整備することとした。社内評価の高い有能PMに大型プロジェクトを預け、彼に有望な若手数名をリーダーとして付けた体制としたのである。1年後、幸いそのプロジェクトは順調に進んでいるが、残念ながら若手が有能PMに育成できたという評価まではできていない。

 有能者の“背中が見える”環境までは整えられるが、その先は現場任せにせざるを得ず、あとは有能PMが“自然発生”してくることを期待するのみとなるのである。B社では、営業上で資格取得者数をアピールできることもあり、再度底上げ型の教育を充実させる方針にしている。

 このようにPM人材育成の施策は底上げ論とスーパーマン待望論を行き来したが、有能PMの育成は企業経営者や育成担当者にとって相変わらず重大な悩みである。底上げ論にしてもスーパーマン待望論にしても、一般的には“ノウハウは暗黙知だ”という思い込みのうえで、やれることは技術・プロセスの導入か環境整備に限界を置いている。

“ノウハウ”は移植できるか?

 “ノウハウ”は頻繁に用いられる言葉であるが、ITの世界ではその意味するところはあいまいなままである。しかし異業種に目を転じてみれば、IT業界が“暗黙知”と考えている“ノウハウ”を、多くの企業がハンドリングできるものと考え、えぐり出し、体系化し、共有化している業界がある。チェーンオペレーションを行っている流通業とコンサルティング業界である。

 流通業では、店舗を巡回するカウンセラなどの呼称で呼ばれる人たちが、有能店長のノウハウをえぐり出し、体系化し、展開を行っている。コンサルティング業界では文化として相互にノウハウを拡充・交換し合うコミュニケーションが存在している。これらの業界では、取り組み方は異なるものの、有能者のノウハウの存在を意識しており、えぐり出す技術、体系化する技術、共有する技術を確立している。

ALT メソドロジの構造

 有能PMの秀でた行動は“メソドロジ”で説明することができる。ノウハウとは、メソドロジの構造における“コンセプト”の部分である。われわれはメソドロジの構造にのっとって、流通業やコンサルティング業界のノウハウ・マネジメントの方法を、IT業界に展開する試みを行ってきた。

 実際に秀でた成果を上げているPMに対してインタビューを実施することで、PMノウハウを抽出し、体系化することができた。優秀なPMは例外なく価値あるノウハウを持っていること、多くの有能PMは、ノウハウを1つだけでなくいくつも持っていることが分かった。またPMノウハウには類型があることも分かった。

 しかしPMノウハウは一般PMにそのまま伝えてもまねができない。組織的に展開するためには、PMノウハウを方法論化して手が動くようにし、顧客の矢面に立たせてPMノウハウを実践させなければならない。そして自分の達成水準の甘さを認識させ、苦労して目標を超えることで顧客に褒められるような体験までを意図して行わなければならないのである。

 PMノウハウ移転のためには、このような“泣かせるOJT”やファシリテーションによってPMノウハウを交換し合う“ノウハウ拡充会議”、PMノウハウの“方法論化”推進などのPMノウハウ拡充活動についてビジョン構築を行って実行計画を立案し、推進することが必要となる。

編集部より

 そこで@IT情報マネジメント編集部では、「@IT勉強会:有能プロジェクトマネージャ勉強会」を企画しました。3回にわたって、PMノウハウの組織的共有の事例研究、PMノウハウ体系化・共有スキルの習得、PMノウハウの組織的共有の進め方の検討などを実際に体験していきます。(募集は終了しました)

profile

大上 建(だいじょう たける)

株式会社プライド 執行役員 チーフ・システム・コンサルタント

前職で上流工程を担当する中、顧客の利用部門は必ずしも「開発すること」を望んでおらず、それを前提としないスタンスの方が良いコミュニケーションを得られることに気付き、「情報の経営への最適化」を模索することのできる場を求めてプライドに入社。株式会社プライドは、1975年に米国より社名と同名のシステム開発方法論の日本企業への導入を開始して以来、これまで140社余りの企業への導入支援を通じて、情報システム部門の独立自尊の努力を間近に見てきた。

野間 彰(のま あきら)

株式会社アクト・コンサルティング 取締役 経営コンサルタント

野村総合研究所 経営コンサルティング部門を経て現職。製造業、情報サービス業などを中心に、経営戦略、事業戦略、業務革新にかかわるコンサルティングを行っている。最近はプロジェクトマネジメント、コンサルティング、研究開発、営業などの分野で、有能者のノウハウを組織的に共有・拡充する仕組み構築に携わっている。


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