PMノウハウとは何か?──組織的ノウハウ共有の事例から有能プロジェクトマネージャ勉強会より(1)(1/2 ページ)

2005年10月18日(火)、「第1回 有能プロジェクトマネージャ勉強会」(@IT情報マネジメント/ソフトバンク クリエイティブ共催)が東京・赤坂のソフトバンク クリエイティブ本社 セミナールームで行われた。秋雨前線の影響であいにくの雨模様となったが、会場はほぼ満席となった。その模様をお伝えする。

» 2005年11月03日 12時00分 公開
[生井俊,@IT]

「ノウハウ」が持つ絶大なパワー

Speaker

株式会社プライド

執行役員 チーフ・システム・コンサルタント

大上 建(だいじょう たける)氏

前職で上流工程を担当する中、顧客の利用部門は必ずしも「開発すること」を望んでおらず、それを前提としないスタンスの方が良いコミュニケーションを得られることに気付き、「情報の経営への最適化」を模索することのできる場を求めてプライドに入社。株式会社プライドは、1975年に米国より社名と同名のシステム開発方法論の日本企業への導入を開始して以来、これまで140社余りの企業への導入支援を通じて、情報システム部門の独立自尊の努力を間近に見てきた。



 会社の業務やプロジェクトの中で秀でた成果を上げる人がいますが、一般的な人と表面的に大きな差があるわけではありません。しかし、成果に違いがあるわけです。

 どこが違うのかというと、各界有能者は、秀でた成果を上げる「ノウハウ」を持っているのです。短い言葉で表現され、絶大なパワーを持つのがノウハウです。それに基づいて一貫して行動するのが、有能者の共通点です。

 例えば、ある生命保険会社の営業担当者は、お客さま先へ「11回行く」という「ノウハウ」を持っていました。その人いわく、「11回会えた客にはこれからも会える」というのです。このノウハウを調査した当時、生命保険は商品性にほとんど差がありませんでした。そのため、真っ先に声を掛けてもらえるかが勝負になります。この営業担当者は、顧客面談で使う話題を日々蓄積し、顧客ごとに月1回、計画的な訪問を繰り返す努力をしていました。そうすることで、お客さまの方が必要になったときに声を掛けてもらえるようになるわけです。それを「11回行く」という短い言葉が表しています。

 また、ある大手企業の経営企画担当者は、「ロジックを検証させ、握らせる」といいます。大企業で企画を通すためのノウハウです。この人の場合、まず自分で仮説を立てます。検証は外部コンサルタントに依頼します。そして、トップに話すときには、コンサルタントではなく企画担当者本人が話し、トップダウンで改革を進め、成功しています。

ノウハウを表す「短い言葉」の正体は「コンセプト」

 さて、ノウハウを表す「11回行く」や「ロジックを検証させ、握らせる」という「短い言葉」の正体は何かというと、「コンセプト」だといえます。一般語のコンセプトとは違い、メソドロジ(方法論)の中で使われる言葉です。

ALT PMノウハウとは(勉強会資料より)

 有能者の秀でた行動はメソドロジで説明することができます。ノウハウは、メソドロジ構造の“コンセプト”の部分で、意味論的なものです。その下に、メソッド(技術、知識)、プロセス、ツールとあり、これらは記述的なものです。コンセプトを会得することで、思考と行動を大きく変えることができます。

 このメソドロジ構造について分かりやすく説明すると、「うまいステーキを焼くには?」という目的・狙いがあったとします。「肉汁が命」がコンセプトで、「網焼き、肉は室温に……」というメソッド、「まず両面を強火で、次に……」というプロセス、そして「グリル、フォーク……」というツールが必要になります。ここでは、方法や手順が分かることよりも、「肉汁が命」という「コンセプトが分かっていること」が大事なのです。

 コンセプトには、成果を上げるためのロジックが入っています。コンセプトをロジカルに書き上げるためには、4カ条くらいで考えるといいでしょう。例えば、先ほどの「11回行く」という営業担当のコンセプトであれば、「一般の人はどうしているか」「その結果どのようなロスがあるか」「有能者はどのようにしているか」「その結果どのような成果が上がるか」といったような4カ条を当てはめます。そこから、一般の人は「売り手の都合ばかりで、相手の必要性を無視して押し売りをする」ことが、有能者は「11回会えた顧客(基盤顧客)には、その先も継続的に会ってもらえることを知っており、押し売りせずに繰り返し会ってもらえる努力をする」ことが見えてきます。

協力会社責任者と「1対1の対話を持つ」意味とは

 @IT情報マネジメントで連載した「有能プロジェクトマネージャ育成術」の第2回『できるプロジェクトマネージャのノウハウとは?』でも触れましたが、インテグレータの有能プロジェクトマネージャ(PM)も「ノウハウ」を持っています。詳細は記事に譲りますが、このPMノウハウとして「協力会社責任者と1対1の対話を持つ」というのがあります。

 一般の人は、人のレベルに関する問題や体制に関する問題は、フォーマルな会議の場や3人以上の場では、よほどその問題が大きくならない限り、指摘することがはばかられます。そのため、問題の認識が遅れ、手を打たなくてはならない時点では、すでに手遅れか次元の異なる対策を求められることになりがちで、外科的手術が必要になります。このようなリスクを有能PMは「協力会社責任者と1対1の対話を持つ」ことで防いでいます。

 これは、「ちょっと話しましょう」と軽い感じで相手を1対1の会話に誘い、世間話をしながら公的な場では発言がはばかられる、人のレベルや体制に関する問題を相互に指摘するものです。このノウハウでは、そこで得られた情報や与えた情報は「相手から聞いた」ではなく、組織的に、お互いに是正していくことが大切です。

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